コラム

社員の化学日記 −第170話 「待ち遠しい」−

日本が世界に誇る探査機「はやぶさ」

このコラムでも何度か取り上げ二代目「はやぶさ2」が小惑星りゅうぐうに到着したことに触れました(124話)が、その惑星の鉱物を持って帰れるかどうか? いわゆるサンプルリターンといわれる作業、世界中のほとんどの科学者が成功しないだろうと思っていましたが、資料5.4gの物質を持ち帰ることができ見事に予想を覆してくれました。そうなると持ち帰った資料(小塊、砂)の分析結果が気になるところですが、時がたつにつれて様々な驚くべき事柄が次々に発表されています。

砂に含まれている元素は、鉄Fe、マグネシウムMg、けい素Si、がありその比率が太陽系全体と同じやった。 このことからりゅうぐうの砂は太陽系誕生時にできて、今までほかの影響を受けていなく生成当時の状態をそのまま保っていることが分かります。 また有機物も見つけられました、熱の影響で分解等変化をする有機物があったことからも温度や他の惑星の影響を受けていないことが明らかになりました。 「もしその有機物が今の日本のくそ熱い場所にあったらとっくのうちに分解してなくなってるんやで」ということです。

砂の中にある水素Hとちっ素Nを詳しく調べることによって、りゅうぐうができた場所も推定できました、太陽系の端、かなり遠い場所で今よりも大きい惑星として存在していたらしく、その後分解し小さくなって地球と火星の間で太陽の周りをまわるようになったということが報告されました。

そして最近発表された分析結果は驚くべき画期的な事柄でした。

なんと水と23種類のアミノ酸が存在していたという結果。

人間の生命現象に必要なアミノ酸は20種あるのですが、そのうち11種が発見されました。 「こんなもんがあったんか〜」と言いたくなるんですが、グリシン、アラニン、バリン、ロイシンなど基本的なものだけでなくトレオニン、フェニルアラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸など複雑な構造のアミノ酸も発見されました。グリシンは美容成分で女性が注目しているコラーゲンの元「お肌の張りにいいんやで」という成分。 フェニルアラニンは神経伝達物質、そしてグルタミン酸は生命をつくるために大量に使われるアミノ酸でうまみ物質として「味の素」の原料としてよく知られている物質でしょう。

学生時代のこと、グルタミン酸の製法を文献で調べたら、『AZINOMOTOを生成して作れ』と書いてあったことを思い出しました。 味の素の主成分グルタミン酸ナトリウムはグルタミン酸にナトリウムNaをつけて水に溶けやすくしたもの、うまみをよりよく感じられるようにと考えられたものです。

50年前に持ち帰られた月の石からも、はやぶさの初代がイトカワより持ち帰ったサンプルからもアミノ酸は発見されなかったが、今回りゅうぐうから発見されたということで、地球の生命誕生の秘密が解明される時が近くなったともいわれています。 最も心待ちにしていることは、りゅうぐうから発見されたアミノ酸の光学異性体(鏡像異性体)の分析結果。

―光学異性体―、久しぶりに聞いたこの言葉、化学式で書くと同じ元素構成で平面の紙に書くと形や構造も同じ、融点沸点、化学反応も同じだけど光に対する性質が違うというものですが、立体的構造は違っていて両者を重ね合わすことはできないというもの、車のドアについてる取っ手を考えると、右側と左側についているものは[車の取っ手]と表現されますが実際は100%同じではなく重ね合わせることはできない、今回のアミノ酸発見報道では新聞雑誌各社とも左手型と右手型という表現がされていました。 もしわれわれが上記のようなアミノ酸を合成したなら、左手(L型)、と右手(D型)はほとんど同量生成されます。

しかし自然界に存在するものはほとんどがL型、グルタミン酸はL型だけがうまみを感じられますし地球の生命にあるアミノ酸もL型がほとんど。 医薬、健康食品等では化学的に合成したものはR,L混合なので半分しか効果がないんやでといわれたものです。

りゅうぐうにあったアミノ酸の分析結果がすべて左手型なら、生命の起源が小惑星に由来するという説、 すなわち宇宙にある生命の元が地球に運ばれて生命が誕生した説がほぼ確実になります。

現代をさかのぼる46億年前に地球が誕生しそれから数億年が経過した38億年ほど前に最初の生命体が誕生したといわれているけれど、生命は地球上で様々な原因によって発生したという説が覆されて、はるばる宇宙からやってきたんやでということになりますね。

地球上生命の起源が明らかになれば、次はどうして左手型だけが小惑星(宇宙)で形成されたのかという新たな疑問が出てきますが……。

今はコロナ第7波が大流行、我が家では4人家族のうち3人がダウンしています、僕はいまのところ無症状ですが、自宅待機中いつ症状が出てくるかびくびくしながらこのコラムを書いています。 しかしりゅうぐうのアミノ酸がL型かD型かそれとも混合なのか?ということを考えているとわくわくしてコロナ不安を忘れます。

早くこい来い分析結果!

令和4年8月末

【今田 美貴男】

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