コラム

社員の化学日記 −第165話 「過ぎ去ったブーム」−

約30年程前、小学生向け学習雑誌に教材付録にpH測定キットがあった。

指示薬に雨粒を垂らして色の変化で酸性度を図るものだったように記憶している。

当時は酸性雨ことがブームだったようだ当時私は小学生であったが、雨に打たれると頭が禿げるとか、美術品が溶けてしまうとか、いろいろ子供たちの間でも話題に上がる出来事だった。 教科書にも載っていたように記憶している。 今は気候変動が注目されているが、昔もそれなりに環境問題は話題になっていたように思う。 ダイオキシンにフロンガス等、いろいろ問題が騒がれていたけど、今ではさっぱり聞かなくなった問題結構あるように思う。

酸性雨ことは今では全く聞かなくなった。もしかしたら、30年前の問題提起によって皆の取り組みによって解決し乗り越えたのかと勝手に解釈していたが、実際は今も酸性雨が降っているようだ。

環境省のホームページを調べると、酸性雨モニタリングデータを見ることができる。 ここ18年ぐらいでは、おおむねpHは4.6〜4.8ぐらいで変化さほど見られない感じではある。 狭義の定義ではpH5.6以下の雨を酸性雨と呼ぶらしいので、酸性雨であることには変わりない。 しかし、話題に上ることはほとんどなくなっているように思う。

どうやら、日本国内では酸性雨の被害とされていたものが次々と否定されていったらしい。

硫酸:硝酸:塩酸の濃度比5:2:3の人口酸性雨の樹木への暴露実験では、pH2〜2.5になると可視害は発現したが、pH3になるとほとんど影響が見られなかったようだ。現在日本で観測される程度の降雨の酸性度 (pH)では, 直接的な影響や衰退現象が顕在化するとは考えにくいとのことから酸性雨に対する扱いが変わってきたようだ。

しかし、酸性化した春の雪解け水が川に流入したことが原因で1976年にノルウエーのトブダル川でマスの大量死事件が起き、 日本での実験でヒメマスは水がpH7からpH6へ変化(ほぼ中性に近い)であっても産卵をやめてしまっている。酸性化で魚類や、貝などの小さな生き物にも大きな影響を与えるようだ。

人間が皮膚で感じられるほどのpH値の雨は降らなくなり、樹木への可視害が確認されなくなり、被害の因果関係も証明されず話題に上ること少なくなった酸性雨だが、 原因となる化石燃料の使用や鉱山の採掘を行なわなくなることは当分無いと思われるため、酸性度が強い雨がまた降ってくるかもしれない。

話題には上らないが、ひそかに進行している出来事は他にもいろいろあるのだろう。

日の当たる出来事だけでなく、影の部分にもたまには気を向けていきたい。

【白色林檎(ペンネーム)】

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