コラム

社員の化学日記 −第131話 「ブラックホールは存在した」−

真っ暗の状態で写真を撮ると,一面黒いだけで物質があるのかどうかわからない。

音のない録音記録を聞いて「何もない」ことと「物体がある,しかしこの物体は無音」だということを区別,特定することはできない。 同様に光のない雰囲気での物質の写真撮影は不可能だと考えられてきました。しかし見えないものが写真に撮られた。

それはブラックホール。

「ホールという名前から宇宙にぽっかり明いた穴を想像する人が多いですが,れっきとした天体です」という記事を読んだ記憶がよみがえりました。(おぼろげな記憶ではネイチャーという名前の雑誌?)

その天体が画像に捉えられたことで物理学者の間に衝撃,歓喜が起こり,興味がない一般人の間でも話題になりました。 存在は学者の間では既知の事実だったが,状況証拠の印象がありました。今回の偉業で,あるんやということがはっきりしました。

ブラックホールは宇宙に数多くあるといわれています。 今回写真に撮られたものは重さが太陽の65億倍(65倍ではないですよ,65億です。 ちなみに太陽は地球の30万倍)という訳の分からない大きさ(重さ)。

宇宙で一番密度が高く重い星,その重力のせいで周りの物はすべて引き寄せられてしまう。 光でさえも飲み込まれてしまうので真っ暗状態の星といわれています。

このブラックホール,僕は今までドイツの物理学者(シュヴァルツシルトSchwarzschild)が考え出したと思っていました。 彼はアインシュタインの相対性理論から導き出したのですが,当のアインシュタインは「そんなあほなことあらへん」と信じなかった。 しかし今回の撮影成功の報道ではアインシュタインが考え出したと記載がある新聞もありました。 真相はシュヴァ様が早世したためアインシュタインが彼の論文を投稿したらしいです。

一般相対性理論は重力理論として外せないものですが,理解できない事柄が数多くあります。 しかしブラックホールの存在が明らかになったことで,改めてこの部分においての「一般相対性理論は正しいんや」ということが証明されたとも言えるでしょう。

重力が大きいと色々な作用が働くということはよく知られていますが,時間が遅れるということは現代我々の生活において重要なこととなりました。 カーナビやスマートホンでGPSを使う場合に相対性理論を考えないと正確な距離が測れません。 GPSは人工衛星からの情報を使っているために,地上の装置と宇宙空間にある人工衛星の時間が重力の違いで差ができるのです。 GPSも試行錯誤の末に製品化できましたが,最も重要なことは不可能だと思われていたことを実現できたこと。 今回のブラックホール写真もそのもの自身が写真に撮られたのではなく,ブラックホールに吸い込まれない光が重力で曲げられて地球にたどり着いたのを捉えたということで,周囲の光を写真に撮ったということです。 後光を受けた影を写すことによって見えないものを同定する,逆転の発想と言えるでしょう。

熱力学の法則にエネルギー保存法則があります。 この考えをあてはめると,何でもかんでも吸い込んでしまう星,ブラックホール中には莫大なエネルギーが存在していることになりますが,現段階ではブラックホール中の情報は消えてしまうという事が一般化されています。 以前このコラムで取り上げたホーキング博士は「ブラックホールは最後には蒸発する」「ブラックホールに落ち込んだ情報は無くなってしまう」という仮説を立てました。 しかしこの仮説は[超ひも理論]によって否定されましたが,博士は亡くなる直前まで宇宙の神秘に挑戦し続けました。 ブラックホールの存在が明らかになったことを聞いた博士はどのようにコメントしたのか,聞けないことが残念です。

同じ残念という言葉を胸に抱いている人達がいます。

その人達とは。

ブラックホール撮影という世界で始めての大偉業に成功した国際研究チーム,さぞかし喜んでいることだと思ったら満足していない人が多い。 それは「ジェット」が写っていなかったこと。 ジェットとは?ブラックホールの近くのガスのことらしい。現在このガスを撮影することに情熱を注いでいるとのこと。成功しより詳しく謎についての解明がなされると再びこのコラムで取り上げることができます,その日が早く来ることを待ち望んでいます。


参考
ゼロからわかるブラックホール 講談社ブルーバックス
新聞各紙

令和元年5月
【今田 美貴男】

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