コラム

日本の四季を化学する−第1回 アジサイの花−

今回から始まりました!題して

「日本の四季を化学する」

日本の四季折々の行事や言い伝えなどに関連したことを化学の目で見てみるとどのように映るか,紹介していきます。

記念すべき第1回目の今回は,6月といえば「梅雨」,梅雨といえばうっとうしい雨,でもこの雨に映えるのがアジサイ・・・。ということで,アジサイを”化学”してみましょう。

1)アジサイは移り気な花?

あじさいの赤い花 あじさいの青い花 アジサイはアジサイ科アジサイ属の植物で,原産国は日本です。しかし,現在日本国内で一般的に見られる球状のアジサイは房総・伊豆半島、伊豆七島などにみられるガクアジサイを品種改良したセイヨウアジサイで,日本から中国を経てヨーロッパに伝わったアジサイが品種改良されて逆輸入されたものです。

このアジサイ,花は丸い球状をしていますが,実は小さな花が寄り集まって球状になっています。しかも赤や青などの美しい色の花びらと思われているのは花びらではなく,ガク(萼)に相当する部分(装飾花というのだそうです)で,真の花に相当する部分はガクの中心にあり,全く目立ちません。(ややこしいので,このコラムではガクの部分を花びらということにします。)

アジサイを漢字で書くと「紫陽花」が一般的ですが,万葉集の大伴家持の歌には「味狭藍」,平安時代の藤原定家は「あぢさゐ」と詠んで,この季節を表す風物詩としていました。また,花の色は生育する土壌によって異なってくる性質から「七変化」ともいわれます。

アジサイの花言葉は,小さな花が寄り集まって大きな装飾花を形成することから”強い愛情”,”一家団欒”,”家族の結びつき”,色が変化しやすいことから”移り気なこころ”という言葉があてはめられています。

2)アジサイの花の色は何で決まるのか?

あじさいの赤い花2 植物の鮮やかな花の色はフラボノイド,カロチノイドなどの植物色素によって彩られています。アジサイの花や,赤や青い色をした花や果実には,フラボノイドの一種であるアントシアニンという色素が含まれています。ナスの紫色(ナスニンという色素の色)や梅干の赤シソの赤い色(シソニンという色素の色)もアントシアニン類が含まれることに起因します。

デルフィニジンの化学構造 アントシアニンは鉄やアルミニウムなどの金属イオンと反応して化合物を形成し,色が変化する性質をもっており,ナスの糠漬けに鉄くぎやミョウバンを入れておくと紫色がより鮮やかになるのはナスニンと溶け出した鉄イオンやアルミニウムイオンが反応した結果です。梅干の濃い赤色は梅の酸性によってシソニンの赤い色がより強調されたものです。

アジサイの青い花2 では,アジサイの花の色はなぜ土壌によって異なってくるのでしょうか?実はアジサイの花の色も根から吸い上げられるアルミニウムイオンの量によって花の色が左右され,アルミニウムイオンの量が多ければ,より青みがかった花の色になります。これもアジサイの花びらの中のアントシアニン色素であるデルフィニジンがアルミニウムイオンと反応して青い色の化合物を形成するためで,逆にアルミニウムイオンが少ないと赤い色になります。

根から吸い上げられるアルミニウムイオンは土壌から溶け出したもので,土壌の酸性度が高ければ高いほどより多くのアルミニウムイオンが溶け出し,そのような土壌では青いアジサイの花が咲きます。赤いアジサイの花を別の場所に植え替えると花の色が青くなるときがありますが,これは土によって溶け出しているアルミニウムイオンの量が異なるためです。もし,植え替えによって赤い花が青くなってしまった場合は,石灰を少量土に混ぜることによって土壌の酸性を中和すれば,花はもとどおりの赤い色になります。

3)アジサイの適応戦略(ちょこっと専門的なお話です)

アルミニウム耐性植物が合成する有機酸 一般に植物は中性から弱酸性の土壌でよく育ちますが,酸性の土壌ではアルミニウムが中性〜弱酸性の場合よりも溶出しやすいため,アルミニウムが植物の根の伸長を阻害して結果的に植物の生育を阻害するといわれています。しかし,アジサイ,蕎麦(ソバ)などの植物はアルミニウムを無毒化する機構を有しています。
 土壌から溶け出したアルミニウムイオンが根の表面に達すると,表面の細胞壁や細胞膜と結合し,細胞膜に埋まっているたんぱく質の働き(細胞分裂して根が伸長するなど)を阻害します。しかし,アルミニウム耐性のある植物の根には植物体内で合成されたくえん酸やしゅう酸などの有機酸(カルボン酸)を放出して,アルミニウムイオンと水溶性の錯体を生成させて無毒化して体内に蓄積する能力があります。

近年では土壌の酸性度は降雨の酸性度(いわゆる”酸性雨”)の影響が大きく,雨の酸性度が高い場合は土壌の酸性度も高くなりやすいため,アジサイの花の色は土壌の酸性度の生物学的指標に用いられています。

日本はもともと火山活動が活発ですから,堆積した火山灰により酸性の土壌が多く,植物にとっては最適な環境であるとはいえませんが,もともとアジサイの原産地が日本であるというのも,アルミニウムの無毒化機構を有しているために,繁殖競争相手が少ない酸性の土壌に適応することができたからかもしれません。

4)おまけ:アルミニウムはどんな金属か?

アルミニウムは地殻中に3番目に多量に存在する元素で,主要鉱石にはボーキサイト,カオリンなどがあります。金属アルミニウムが生産され始めた当初は非常に貴重な金属で,1855年のパリ万博では「粘土から得た銀」として宝石と並べて展示されたそうです。またナポレオン三世の晩餐会では,銀食器よりも高価だったアルミニウム食器は特別な貴賓にだけ使われたといいます。

工業的には,その耐腐食性や絶縁性を利用したコンデンサーの材料として使われたり,輸送機体の材料としてアルミニウム合金が使用されたりします。

またコランダム(酸化アルミニウムの天然単結晶)はダイヤモンドに次いで硬いので,金属やガラスの研磨剤に使用されます。これに不純物として鉄やチタンの酸化物を含むものはこれらの金属イオンのために青く見え,宝石サファイアとなります。また酸化クロムを含む赤色のコランダムはルビーと呼ばれます。

アルミニウム自体は生物に対して特別な生理活性機能を担っているということはありませんが,制酸剤などの医薬品にpH調整剤として添加されることがあります。しかし近年,アルツハイマー病の原因物質として疑われていますが,医薬品に含まれるアルミニウムイオンのような低分子量のイオンではなく,酸素で架橋されたアルミニウムの高分子イオンが原因ではないかといわれています。

※参考文献

1)「ポピュラーサイエンス5 いい伝えと化学」古橋昭子,裳華房(1988).

2)「植物色素−実験研究への手引き−」林孝三編,養賢堂(1988).

3)農業環境技術研究所Webサイト,「平成8年度農業環境研究成果情報
−アジサイはなぜアルミニウムの生育阻害作用を受けないか?−」(http://www.affrc.go.jp/ja/db/seika/data_niaes/h08/niaes96019.html)

4)「生命の無機化学」松島美一,高島良正,廣川書店(1984).

5)「新薬学シリーズ 無機薬化学」木村栄一,朝倉書店(1985).

6)「ブルーバックス 金属は人体になぜ必要か」桜井 弘,講談社(1996).

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