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「……へえぇ、あの超絶現実主義者の福永がねえ」
「そうでしょ? もう私感動しちゃって、涙ポロポロよ」
目の中にキラキラと輝く満天(満眼?)の星を浮かべながら その夜に想いを馳せる彼女を、僕・山武葉月(やまたけ・はづき)は信じられない思いで見つめていた。
ここは、とある山奥にある我がK大学の喫茶室。とっくに冬休みに入っているので席はガラガラ、閑散としたものだ。ちょっと図書館で調べものがあって学校へ来てみたら、友達の一人である合原有希嬢とばったり出会い、「ねえねえ、聞いて聞いて!」と言いながらここに引っぱり込まれた。で、ジュースの一杯も飲みながら語って聞かされたのが、彼女の恋人であり僕の友人でもある福永繁が見せた、クリスマスの夜の幻想譚である。つまるところ、ただのオノロケ話だ。――ある一点を除いて。
「……それにしても不思議だなあ。二十五日、山一つ向こうの自宅で寝込んでいたはずの福永が、有希ちゃんの部屋にプレゼントを持って来られたわけがない。有希ちゃんの下宿の住所は知ってるんだよな? でも、アリバイは完璧……。あいつ、一体どんなマジックを使ったんだ?」
「さあ」
「……随分あっさりしてるな、有希ちゃん。この謎を解いてみたくないの?」
彼女は軽く首を横に振って、
「私、考えないことにしてるの。せっかく繁クンが見せてくれた夢だもん、大事に胸の奥にしまっておきたいじゃない」
「はあ、そんなものですか」
もう勝手にやってくれ、てな感じである。
「ところで、葉月君はクリスマスをどう過ごしたの?」
はははと笑ってごまかして、そそくさとその場を去った。あんな話を聞いた後では、我が愛すべきシングルベルの悪友達と、二日続けてドンチャン騒ぎなどとは口が裂けても言えない。
「……へえ、ロマンティックなお話ですね」
入り浸りの学内ブックセンターに足を運んだ僕は、カウンターに肘を置いてもたれ掛かりながら、仕事がなくて暇そうにしていた店員・内倉綾乃(うちくら・あやの)さんと談笑していた。今年の営業は今日で最後らしく、棚卸しされて隙間だらけの本棚がずらりと顔を揃えている。そもそも学校全体からして人がいないのだから、客が来ようはずもない。だからこそ、こうしてゆっくり話ができるわけだが。
「合原さんという方は、本当に幸せな人ですね。そんな愛情一杯の恋人がいらっしゃるなんて」
「はあ、やっぱり嬉しいもんですか、女性にしてみれば」
「勿論ですよ。恋人のためにそこまでしてくれる男性なんてなかなかいませんよ。きっとお二人とも、とても素敵な方達なんでしょうね」
確かにその通り――そう言いかけて、ふと綾乃さんの言葉に引っかかりを覚えた。
「……ちょっとすいません。今、『そこまでしてくれる男性』と言いましたよね?」
「はい」
「もしかして、福永の奴が二十五日に何をしたのか、わかってらっしゃるんですか?」
「はい」
あっさりと答えられたので、僕は面食らった。にこやかに微笑む綾乃さんの顔をまじまじと見つめて、
「ほ、本当にわかったんですか?」
「うーん、わかったと言うより、そうじゃないかな、と思っただけですが……」
教えて下さい、と頼み込んでみたが、綾乃さんは少しだけ表情を曇らせて、
「私が勝手にお教えするのは、やはりいけないと思います。福永さんの許可を得ているのなら別ですけど……」
「じゃ、電話でちょっと聞いてきます」
表の公衆電話に駆け出そうとする僕を、慌てて綾乃さんが呼び止めた。
「なんですか?」
「ついでですから、一つ言伝をお願いしたいんですが」
「何をです?」
「もう一つはどうしたのか?≠ニ言っていただければ、福永さんには全て理解していただけると思います」
電話を終えて、再びブックセンターに戻ってきた。意外に時間を食ったが、相変わらず店内に人の姿はない。
「いかがでしたか?」
「あの言葉を伝えた途端、『あれ、もうばれたのか』って……」
「はい、ばれてしまいました」ひょいと肩をすくめ、悪戯っぽく舌を出す綾乃さん。
「で、解答に関しては許可を出してくれました。それで、『まだ持ってます』とあなたに伝えてくれ、と……」
「あらあら」
上品に揃えた指を口に添えて、くすくすと楽しそうに笑い出してしまった。僕一人が蚊帳の外にいる。
「お願いしますよ、内倉さん、意地悪しないで教えて下さいよぉ」
すがるような僕の眼差しに、またひとしきり笑った後、
「……そうですね、ちょっと時期がずれましたけど、葉月さんへのクリスマス・プレゼントの代わりに、お教えしましょうか」
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