研究室
   箏と尺八
 今年のお正月に琴の演奏発表会に行く機会をいただきました。
 演奏会ではありましたが、とは言っても一種の発表会ですので、プログラムのほとんどが生徒さんによる演奏です。私も小学校の頃まではピアノを習っていたのでなんとなく知っているんですが、たいてい、こういう場合は観客は身内しか集まりません。そしてせっかく集まった観客も全員、最初から最後まで居てくれるわけではなく、自分のこども(もしくは友達or知り合い)の演奏が終わったら帰る・・・みたいな、なんとも寂しい雰囲気の中で演奏をするんです。しかし、この時の演奏会はまるで違いました。
 
 今年はこの琴教室の大先生が開軒30周年を迎える年だったらしく、それを記念して一流の琴演奏家(しかも、そこの流派である○○流○○会の家元の三代目ともあらされる御方ですので超一流です!)をお呼びしていらっしゃったのです!私はそんなことがあろうとは知らずに行った身でしたので、会場で飛び上がりそうになるほど驚きました。
 中に入ると観客で溢れかえっているわ、立ち見の人までいるわ、発表会とは思えない大盛況の中での演奏発表会だったのです。うらやましいです・・・一度でいいからこんなところでピアノを弾いてみたい・・・そう思いました。(でも、そうなったらそうなったで、きっと緊張してひっくり返っちゃう☆)
 
 琴・・・は恐らく生演奏を聞いたのは初めてです。楽器として琴を見たことはありましたが、自分では弾けないし、あっても弾けなければ知らないも同然です。尺八は、実は高校の時の芸術鑑賞で「狂言」を見に行きまして、その中でも使われていましたので、生で聞いたことはありました。ですが琴と尺八のアンサンブルは初めてで、その組み合わせが非常に素晴らしかったです。
 
 琴はトリルやアルペジオがとてもきれいに響きます。琴の世界ではトリルだとかアルペジオとかいうカタカナ語は使わないでしょうが、専門用語がよく分からないのですみません(*_ _)
 トリルは二つの音を行き来する音の出し方のことを言います。(♪レミレミレミレミ〜みたいな☆)音楽館でBWV653を聞いてもらえれば、トリルがふんだんに使われていますので、きっと何のことかすぐ分かります。
 琴は手で弦をはじいて演奏するわけですから、トリルはかなり難しいと思われます。首を傾け、腕を一定の角度に保って手首だけを振るようにしてサラサラサラ〜っと抹茶を立てるような感じに弾いている姿が、とっても日本っぽい!と思いました。
 
 アルペジオはある一定の音階またはハーモニー(和声)を分散和音として弾く奏法で、♪ド(↓)シソミド(↓)シソミド(↓)シソミド〜 と、上から下まで、同じ音をくりかえしながら弾くのもそうですし、♪ドミソシ(↑)ド(↓)シソミド〜 と、下から上へ上がってまた下に下りてくるような弾き方もあります。音楽館の幻想即興曲の左手の伴奏がそれです。アラベスクや月の光にもたくさんアルペジオが使われています。
 
 琴では爪で琴の上端から下端まで一気に弾き降ろすようにして演奏していました。鍵盤で弾くのなんかとは比べ物にならないほど速く、また、響きの余韻がとっても美しいのが印象的でした。
 ピアノにもこれと似たような奏法でグリッサンドがあります。それは親指の爪を寝かせた状態、あるいは指の腹などで鍵盤を高音部から低音部まで♪タララララーーーーっと滑り降りるような奏法なんですが、しかし、ピアノの場合はその時全ての音が鳴ってしまうので、速度は琴の場合と変わらないくらいに弾けるでしょうが、♪ドシラソファミレドシラソファミレド〜 とただ音階を滑り降りるだけなんです。曲中でうまく使うと迫力は出ますが、ただそれだけです。音楽的にはハ長調(でもあり、同時にイ短調でもある)の音階しか出ませんし、アルペジオとは言えません。
 
 琴が高速アルペジオを可能にするのは琴柱のおかげなのでしょう。演奏前に琴柱によって、次の演奏に使う音を選択的に調律できるようで(足りない音はギターの要領で弦を押さえて長さを調節して弾くみたい☆)、上端から下端まで弾き降ろすだけで ♪ミレ(↓)シラソミレ(↓)シラソミ〜 と鳴らすこともできるんです☆ そうなるように調律すればね☆☆☆
 ピアノであの速さであの響きを出すのは相当難しいです。
 
 トリルとアルペジオを組み合わせると、それだけで本当に美しい音楽になります。あと、弾いている姿も美しいです☆ あぁ・・・私も弾いてみたい〜〜〜☆
 
 尺八は何がいいかというと、西洋音楽にはない、ある音からある音へと移ろいゆく(※ドからレのように近接した二音)、その移行部における微妙な中間音の動きが最高に良かったです。アジアの民族音楽にはそういった不協和音の元ともなる“中間音”を響きとして取り入れているものが多くて、日本の尺八もその例外ではありません。琴も、隣合った2つの弦を同時にはじくような箇所が何回もあり、実は隣合った音(特に、たった半音の違いほどの、よく似てるけどちょっと違ったもの同士)を同時に出すのはそれだけでかなりの不協和音なのですが、しかし、それがまた尺八と合わせると不思議といい響きになるのです。
 これこそ和の心なのかな!?と思いました。なんか、こう、日本の音楽を自分の中に取り入れて行きたいなぁ〜と思わされるような演奏会でした。
 
 三代目の箏の独奏については、私の範疇を超えていて何も言えません☆ 初代家元がサラサーテのツィゴイネルワイゼンに感銘を受けて作曲したとかなんとかという曲らしく、西洋の近現代音楽を琴で弾いている!といった感じがしました。和と洋の融合とでもいうのでしょうか。とても新鮮で斬新で、聞きなれない音楽でした!(音楽館にあるドビュッシーのこどもの領分は近現代音楽の要素を多く持っています。良かったら聞いてみて下さい。参考になるような出来栄えではありませんが・・・。[連珠リンク]のページでは箏の名曲「春の海」も流していますので、聞いてみると何か共通点が見つかるかも☆)
 
 現代音楽ってなんだかよく分からないところがあります。でも、日本の伝統ある邦楽の「箏曲」にまでその影響が及んでいると知って、やはり、時代というものは世界共通で、同じ方向に流れていってるんだなぁ・・・と感じました。(初代家元はバイオリンの心得もあったそうで、ただ個人的に影響を受けてあのように作曲しただけなのかもしれませんが。)
 
 しかし現代音楽特有の“不協和音”や“中間音”は邦楽器の得意分野でもあるので、特に違和感はなかったです。案外、これからは箏や尺八の時代なのかもしれません。でも、私には難しくてよく分かりませんでした〜〜〜☆

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