2.大フェレ峠・小フェレ峠からラ・フーリ村
   (Grand Col Ferret, Petit col Ferret, La Fouly)

参考地図は「@シュボー峠・バスチヨン峠、及び大フェレ峠・小フェレ峠」のページにあります 



 歩いた日;2010年7月18日
 コース;La Peuleー(1h05min)途中(10min休み)ー(20min)Gd Col Ferret(15min休み)ー(50min)Biv. Fiorio 分岐(10min休み)ー(1h30min)途中(20min昼食)ー(10min)Lechere Dessusー(40min)La Fouly
合計時間:4h35min (総合計時間:5h30min)  標高差: 登り合計 503m 下り合計 932m  最高標高:,2,543m 


早朝のラ・プール小屋の前、搾乳を終えた牛が周囲で待機している

朝、牛の鳴き声で目が覚める。まだ暗いが天気が気になり外に出てみる。星空が出ているので大丈夫のようだ。


道路を挟んで少し離れた小屋に電気が点き発動機のような音がするので行ってみる。暗い中で小屋に向かって繋がれてもいないのに牛が2列になって20頭ほどが行儀良く並んでいる。不思議に思い小屋の隙間から中を除いてみて搾乳小屋と分かった。搾乳が終わって一頭が反対側から小屋を出て行くと、並んでいた先頭の牛が小屋の中に入りその後ろの牛達は順番に前に進む。小屋の中には人がいるが、周りには誰もいないし、犬もいない。牛が自分で列をつくり順序よく搾乳小屋に入って行く
明るくなって分かったが、先に搾乳が終わった牛は全部の牛が終わるまで三々五々散らばって待っている。朝食後に外に出てみると、今度は長い列をつくって牧草地に向かって全部の牛が移動中だった。
驚いた、何と利口な牛さん達だ。
2日後、山小屋で会ったフランス在住の日本人にこの話をしたら、「牛はリーダーの牛に従うので、リーダーの牛さえしっかり教え込めばできるんですよ」とのことだった。


上の写真に、昨日、ガスの中を歩いた谷と山腹が見えます。左の傾斜地から正面の谷の奥に斜めに下り、川を渡って右の山腹に取り付き、右上端くらいまで斜めに登り、右のもう1つの谷に下りてきたわけです。歩いてきた所が良く分かって気分良しです。


ラ・プールの小屋
正面の山の裏側が丁度グラン・サン・ベルナール峠です





朝日がようやく小屋を照らしだした頃の8時に小屋を出発。丸屋根の小屋があるが、麦わらを敷いたパオで寝袋を持っていけばここにも泊まれます。

南には昨日歩いた時に見たポワント・ド・ドローヌ(Pointe de Drone 2950m)の山が見え、フェネートル・ド・フェレ峠(Fenetre de Ferret 2698m)も分かる。山の後ろが昨日出発したグラン・サン・ベルナール峠ということになる。



グランド・ジョラス、モン・ド・グルヴェッタ、レショー針峰が顔を出した。

登っているのはツール・ド・モン・ブランを歩いた時に下りてきた道で広い。周りは緑の牧草地で、時々鋭い声を出してマーモットが走り回る。上りも穏やかで快適。
早くもイタリア側から大フェレ峠を越えてきたグループに会う。


と、急に腹がグルグル言い出した。暫く歩いたが我慢できない。 朝食に大きなピッチャーに入った暖かい牛乳がでた。飲んでみると凄く美味しい。スイスの牧場の絞りたてはさすがに違うと大きなミルクカップで3杯飲んだ。これが良くなかったようだ。周りには木もブッシュも無く見通しの良い牧草地で隠れる所がない。仕方がない、ザックを放り投げて牧草地を駆け上がり窪地を探すが見つからない。もっと登って、ここはどうかとしゃがみこむと首が出る。しかしもう限界。峠から下りてくるパーティーが変な所にザックが置いてあるので周りをきょろきょろ探しながら歩いていくのが見える。
用が済むと幸い元の快調さに戻り、ザックを担ぎ歩行再開となった。



暫く登ると牧草地の上に突然デカイ山がヌーッと現れた。左にグランド・ジョラス(Grandes Jorasses 4208m)、真ん中はモン・ド・グルヴェッタ(Mont de Gruvetta 3684m)、その右肩にレショー針峰(Aiguille de Leschaux 3759m)の姿だ。


大フェレ峠、標識の右奥に見える道は小フェレ峠への道

次第に向かい風が強くなってきた。冷たい。ウィンドヤッケの代わりに雨具を着る。
最後になだらかな上りを登ると大フェレ峠(Grand Col Ferret 2537m)に着く。峠はイタリアとスイスの国境で、印の石があり、行き先が沢山書かれた立派な標識が立っている。

峠は強烈な風が吹いていて飛ばされそう。前にイタリア側から登った時も強い風だったが、この峠は何時も風の通り道になっているようだ。
しかし、景色は凄い。イタリア・フランス・スイスの国境の高峰が直ぐ近くに綺麗に見える。




前に来た時には、ガスがかかり、峠からは殆ど見えなかったので、この景色は余計に嬉しい。イタリアとフランスの国境のグランド・ジョラスやレショー針峰にスイス・イタリア・フランスの国境に立つモン・ドラン(Mont Dolent 3820m)などの主峰がパノラマとなって広がる。

大フェレ峠から見る国境の高峰 
左からグランド・ジョラス(4,208m)、モン・ド・グルヴェッタ(3,684m)、レショー針峰(3,759m)、レブルマン針峰(3,599m)、タレーフル針峰(3,730m)、 トリオレ針峰(3,870m)、モン・ドラン(3,820m)、ポワント・アロブロージャ(3,172m)、モン・ドラン(3,820m)
氷河は左からトリオレ氷河、プレ・ド・バール氷河
右端の雲が出ている谷が小フェレ峠    



南西のイタリア側にはグランド・ジョラスの下にフェレ谷(Val Ferret)が綺麗に見通せる。素人目にも直ぐ分かる氷河が削った典型的なU字の形をしている。谷の奥の方は名前が変わってヴェニ谷(Val Veni)になり、更にその奥はフランスとイタリアの国境でセーニュ峠(Col de la Seigne 2516m)へと繋がっている。

東には登って来たスイスのフェレ谷側の牧草地が緑一色となって見える。中ほどの小山はラ・ドッツ(La Dotse 2492m)で出発したラ・プールの小屋はこの小山の右奥の山裾辺りになる。後ろの山はラ・ツァーブル(La Tsavre 2978m)で別名を谷と同じモン・フェレ(Mont Ferret)と言うそうです。
イタリアのフェレ谷右の高い山はグランド・ジョラス 登って来た牧草地



風除けを探して南に移動、振り返って見る大フェレ峠(右中)、
手前はイタリア側に下る道
右の小山はテート・ド・フェレ(2714m)、白い山はモン・ドラン(3,820m)

ビュンビュン冷たい風が吹いてくるので、寒くて峠に立っていられない。風除けを探して南側の稜線の下に移動したが全然変わらない。手が冷たくなって今回スイスに来て始めて手袋をはめた。
イタリア側から登って来た人たちも、峠でグルッと見回しただけでスイス側に早々に下りて行く。

峠の直ぐ近くにあるテート・ド・フェレ(Tete de Ferret 2714m)という小山がある。峠より150m程度高いだけだが、展望が良いとのことで、この山に登っておこうと下調べをしておいた。峠から踏み跡を伝って登れば簡単だそうで、帰りは登った所を引き返せば良いとのこと。
登る時間も充分あるが、見上げると小山の上を薄い雲が吹っ飛んでいく。峠よりもずっと風が強そうだし寒さも更に厳しいに違いない、と思ったとたん、登る意欲が急に無くなって次の小フェレ峠に向かう事にした。

今まで、ついでに登ろうと思った山は殆どが未達成。「ついで」という計画がそもそも間違っているようだ。




テート・ド・フェレの山腹をトラバースして小フェレ峠へ向かう

小フェレ峠に向かう道の最初は大フェッレ峠の延長で左右が吹き抜け状態、猛烈な横風を受けながら進む。テート・ド・フェレの山腹をトラバースする所に来て、やっと少し風が弱まる。
やや細くゆるい下り道をトリオレ針峰とプレ・ト・バール氷河を正面に見て歩く。




次第に左のフェレ谷の真下が見えるようになり、ツール・ド・モンブランでよく利用されるイタリアのエレナ小屋(Refuge Elena 2062m)が凄く近くに見下ろせる。

振り返ると、大フェレ峠は手前の稜線のコブの陰になってもう見えない。グラン・ゴリア(Grand Golliat 3238m)の前峰のアングロニェット針峰(Aig. des. Angroniettes 2885m)が標高は低いのにやたら大きく見えた。.

イタリア側のフェレ谷とエレナ小屋 振り返る 
大フェレ峠(手前のコブの裏)とアングロニェット鉢峰(2885m)



少し急な下りになる辺りからガレ場などで道が細くなり、足場が少し不安定な所が増えたので慎重に進む。風は相変わらず強いが大フェレ峠よりは大分ましになった。
イタリア側へ少し下がった所でエレナ小屋に下る分岐に出る。ここからのエレナ小屋への下りはかなり急に見える。

小フェレ峠への下り。この辺より足場が少し悪くなる エレナ小屋への分岐からイタリア側のフェレ谷を見る
エレナ小屋が下に小さく見える



エレナ小屋への分岐で道を右に取り小フェレ峠への登りになる。少し登るとプレ・ド・バール氷河の近くに建つフィオリオ小屋(Biv Fiorio 2729m)の分岐に出る。この辺りがイタリア側のフェレ谷を眺める最後のポイントなので休憩する。
小フェレ峠への登りはガレ場だが、さほどの苦労もなく峠に登れた。しかし峠付近いは何の表示もない。足元は残雪で真っ白。ガスが濃くなり寒いので休まず進むと、大きな雪渓の中に入った。地図には谷の右側にトレイルが書いてあるが、まだ雪の下らしい。ガスはますます濃くなり、全く先が見えないので雪渓の上の踏み跡らしきものを探しながら慎重に下る。暫く下ると登ってくる数人が現れたので、この先の下りも大丈夫と安心する。

長い雪渓を下っていくと、ガスが少し薄くなってようやく先が見えるようになってきた。右側にトレイルがないか注意しながら雪渓を進む。
ガスの中、登ってきた人達 やっと先が見えるようになる



レシェール・ドシューの小屋の前からフェレ村を見る

大分下ったと思った頃にようやく右にトレイルを見つけ、あとはどんどん下る。ガスの中を歩いてきたのが嘘のような快晴で風もない。途中尾根をまたいで右側の谷側に入るとフェレ村とラ・フーリの村が見え展望が広がる。ここで昼食の後、更に下る。

レシェール・ドシュー(Lechere Dessus 1877m)の小屋の横に来た。ここがフェレ村とラ・フーリ村の分岐のはずで、フェレ村へ下りるつもりでいたが、その下り道が分からない。小屋の周りに人の気配が無いので聞くこともできず、帰りのバスの時間も充分にあるので、良く調べもせずにフェレ村を諦めラ・フーリへのトラック道を下りることにした。
もしかしたら小屋の前の細長い庭を通り抜ければフェレ村への道があったのかもしれない。




何の心配の要らない広い道をどんどん下る。ラ・フーリの村が近づいてきた。結構沢山の戸数が見え、その奥にフェレ谷が伸び、遠くに山が雲から顔を出している。60〜70kmも離れたヴィルトホルン(Wildhorn 3248m)のようだ。

アルプスでは良くあることだが、途中沢山の羊さんに出会った。道を明けてくれるまでしばし休憩です。
ラ・フーリの村を見下ろす、
遠くに見えるのはヴィルドホルン(3248m)
羊さんが道を塞ぐ



小フェレ峠を振り返る。何時の間にか峠付近はガスが消えて快晴

下りが終わって橋を渡ると車道に出る。振り返ると下りてきた小フェレ峠の谷が見える。何と谷は綺麗にガスが消え、全くの快晴。下りてきた時の濃いガスはいったい何だったんだろうかと信じられない気分。




車道を暫く下るとラ・フーリの村に着いた。バス停横の山から引いた水道で身体を拭いてさっぱりした。バスが来るまで1時間半もある。グレーシャーホテルの外に組まれた階段を上がりレストランの広いテラスで仕上げのビールを飲んだ。
なかなか良い眺めで、車で来た沢山の客が食事や飲み物を楽しんでいた。

奥の山はモンドランから伸びるグレピヨン連峰、
その下がドラン氷河
左に落ち込んだ所が小フェレ峠
雲に隠れた山はトゥール・ノワール(3836m)、
氷河はラ・ヌーヴ氷河



オルシエールでバスから電車に乗り換える

アルコールが入って良い気分でバスに乗り、オルシエール(Orsieres)で電車に乗り換え、マルティニ(martigny)の宿に戻った。

明日からまた3泊4日の歩きがあるが今日は生憎スーパーが開いていない。やむなくガソリンスタンドで簡単な食べ物を仕入れる。街のレストランで夕食をとり、帰って洗濯など、結構忙しい。





←グラン・サン・ベルナール峠、シュボー峠、バスチヨン峠からラ・プール小屋