みーばい亭の
ヤドカリ話
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8.さらばエビちゃん
イソスジエビ
在りし日のエビちゃん
右側の立ち上げパイプが定位置だった


1954年公開の第1作目白黒「ゴジラ」は、日本映画史に残る名作との評価が高いが、その後続々と作られたゴジラ映画に対して大人の批評家はあまり好意的ではないようだ。
中には小難しい理屈をこね回したあげく「子供向けすぎる」言い放った自称怪獣通の某有名人もいたが、あの人は怪獣映画にいったい何を求めていたのだろうか?
私が怪獣映画を観はじめたのは60年代の後半になってからだが、当時は春夏冬の休みのたびに新作旧作取り混ぜて怪獣映画が公開されていたし、地蔵盆には町内の寺の本堂でも怪獣映画の上映会をやっていたりしたから、時系列はでたらめながら「ゴジラ」以降の東宝怪獣映画はひと通り観ていると思う。
そんな元怪獣小僧の立場から言わせてもらえば、地味で間延びした「白黒ゴジラ」より、ゴジラとキングコングが軽快なアクションで取っ組み合いを演じた「キングコング対ゴジラ」の方がはるかに面白かったし、怪獣がいっぱい登場してドッタンバッタン暴れまくった「怪獣大戦争」や「怪獣総進撃」は文句なしに楽しかった。

例によって何年か後には復活するのだろうが、2005年に最後のゴジラ映画として公開されたのが「ゴジラ ファイナルウォーズ」。
半世紀に及ぶゴジラ映画の集大成というふれこみだったが看板に偽りなしの実に楽しい怪獣映画だった。
ベースになっているのは60年代の名作「怪獣大戦争」や「怪獣総進撃」、つまり怪獣がいっぱい登場してドッタンバッタン暴れまわる怪獣映画の王道。
懐かしの東宝怪獣が次々に登場するだけでも充分に楽しいのだが、防衛軍のメカは轟天号だし、妖星ゴラスは地球に迫ってくるし、ミニラは何の脈絡もなく巨大化するし、アメリカゴジラは日本ゴジラに一撃でぶっ飛ばされるし、モスラは無謀にもガイガンに闘いを挑むし、ゴジラは一作目そのままのレトロな造型だし、X星人は北村一輝だし、宝田明に佐原健二に水野久美のご老体トリオの熱演は感涙モノだし、おまけに水野久美の役名が「ナミカワ」だったりするからもうたまらない。
はっきり言って「怪獣総進撃」を越える名作だと思う。

その「ファイナルウォーズ」に、華麗なアクションでエビラを倒したケイン・コスギが「悪いな、エビは嫌いなんだよ」と嘯く場面がある。
痛快な見せ場ではあるのだが、そのキメ台詞はちょっと頂けない。
私などは「にーちゃん、やっぱりアメリカ育ちやのう」と、思わず突っ込みたくなった。
日本人は東南アジアのマングローブ林を片っ端から破壊しまくるほどエビが好きなんだよ、ケイン君。
焼こうが揚げようが蒸そうが茹でようが煮ようが炒めようが生だろうがとにかくエビは美味いのだ!

一昨年の秋、十脚目通信のイベントに参加して、南紀の磯で採集を楽しんだ。
その時にクモハゼやイソヨコバサミと一緒に持ち帰ったのがイソスジエビ。
エビは魚やヤドカリに比べるとデリケートで水合わせが難しいと聞いていたので心配したのだが、幸い上手く水槽に馴染んで元気に暮らしていた。
ところが2ヶ月ほど経って突然1匹の姿が消えた。
水槽の中には死骸はもちろん体の一部すら見当たらない。
水から飛び出したのかと思って回りを探してみたのだがやっぱりいない。
そうこうするうちに、1匹また1匹と姿が消えて、半年ほどすると4匹いたイソスジエビが1匹だけになってしまった。
その後残った1匹は神隠しにあうこともなく、飄々と生きのびて飼い主を楽しませてくれていたのだが、この前の新月の夜に忽然と姿を消してしまった。


あまり前面に出ることはなかったが、
得がたい存在感を持った名脇役だった
少し前から透明感がなくなり目も白く濁っていたので、ある程度覚悟はしていたのだがやっぱり淋しい。
水槽で1年半生きたのでおそらく寿命が尽きたのだと思われるが、不可解なのはやはり死骸が見当たらないこと。
最後に姿を確認してから居なくなったことに気付くまでおよそ半日。
魚やヤドカリに食べられたとしても残骸くらいは残っているはずだと思う。
怪しいのはヨロイイソギンチャクだが、このところ元気がなく萎みがちで、餌をやってもすぐに吐き出してしまうような状態だから、5〜6pもあるイソスジエビを丸呑みするとはとても思えない。
やはり半日足らずの間に頭も尻尾も残さず食い尽くされてしまったと考える方が妥当だろう。
私も居酒屋でクルマエビの刺身を取ったときは、残った頭と尻尾を塩焼きにしてもらうし、自宅でもアマエビやボタンエビの頭は油で揚げてビールのアテにする。
エビは頭も尻尾も美味いのだ。
飼い主同様、水槽の魚やヤドカリたちも頭から尻尾までエビが大好きだったに違いない。
目玉一粒触角一本まで愛されたのだからエビちゃんもきっと本望だったろうと思う。
合掌。



追記

一時は元気なく萎れていたイソギンだが何とか持ち直したようだ。
元々付いていた砂粒のヨロイはほとんど剥げ落ちてしまったが、ろ材のサンゴ砂やヤドカリの脱皮殻などを新たにまとってしのいでいる。
不健康に黄ばんでいた体色も、蛍光灯を太陽光に近いオセアニアンホワイトに取り替えてから、少しずつ濃くなってきたように思える。
下の画像はアマエビを呑むイソギン・・・と、言っても尻尾だけ。
身は飼い主が美味しくいただきました(笑)。



おおー!!今日の晩飯はエビじゃあー!




ぺっ、なんや尻尾だけかいな



まあ、しゃあないなー  あらよっと!



んぐんぐ・・エビは尻尾も美味いのう
2007.2.23

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