みーばい亭の
ヤドカリ話
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7.チビヤド新居

サンゴのガレ浜を歩くムラサキオカヤドカリ(撮影地沖縄県)


静かに波が打ち寄せる小さな入り江。
さやかな月の光に白く輝くサンゴの浜辺。
立ち並ぶアダン木に見守られ波と戯れるアーマンたち・・・と、めるへんちっくに書き出したいところだが世の中そんなには甘くない。

オカヤドカリが住んでいる海岸の多くはゴミだらけのガレ浜。
乱雑に転がされた消波ブロックの先にはオーバーハングの防波堤が立ちはだかっている。
死力を尽くしてようやく乗り越えるとそこは一面に広がるサトウキビ畑・・だったら超幸せ者で、大抵はアスファルトの道路や駐車場が無情に広がっている。
命がけでアスファルトを突っ切って、わずかな草むらや植え込みに潜り込んでようやくひと息・・。
厳しいようだが現実はそんなところだろう。
ちなみに私は公民館の床下をねぐらにしていると思しきオカヤドカリを知っている。
彼はどんな暮らしをして何を食べているのだろうか?
想像するに、まず昼間は物陰でじっと寝ている。
活動するのはおもに夜だが、夕方明るいうちに出歩いている姿を目撃したこともあるので、陽射しさえ陰れば時間に関わらず活動しているようだ。
時には道路を渡って防波堤を乗り越えコンクリートで固められた護岸でゴミをあさることもあるだろうが、そんなに頻繁ではないと思う。
車の通る道路をそうしょっちゅう横断していれば命がいくつあっても足りない。
普段の食事としては、外灯に飛来してそのまま力尽きた虫の死骸やその辺りを縄張りにする野良ネコの糞、それに反対側の小道をはさんだ民家の庭に積もった落ち葉や観光客が投げ捨てたソフトクリームのコーンなど・・。
まあだいたいそんなところではないだろうか。
オカヤドカリの飼育環境を自然下での生活環境を参考に構築するのであれば、水槽に乾いた土を敷きコンクリートのかけらを転がして、ネコの糞や蛾の死骸を与えて飼育するのもあながち間違いではないはずだ。
もちろん、おすすめはしないが(笑)

一般にオカヤドカリ(ナキオカヤドカリ、ムラサキオカヤドカリ)の飼育環境としては、もっとも想像しやすい活動場所である浜辺を模したセットが推奨されている。
つまりケージに砂を厚く敷き詰め、海水と淡水の容器を置き、流木やイシサンゴの骨格を飾るというレイアウトだ。
多くの飼育家が採用し、それなりに実績をあげているこのセットが、現状ではオカヤドカリ飼育の基本だと考えていいだろう。
当サイトの飼育情報コンテンツ「オカヤドカリを飼う!」で紹介しているのもこの方法である。
ただし、浜辺はあくまでオカヤドカリの生活環境のひとつであって、それが全てではない。

さて我が家のチビヤドたち。
当初は一時飼育のつもりだったので改造衣装ケースで適当に飼っていたのだが、飼い続けることになった以上いつまでも衣装ケースではかわいそうだ。
そこで遅まきながら新しいケージを立ち上げてやることにした。
購入したのは例によって規格品の60cm水槽。
オカヤドカリの飼育にはこのサイズが一番扱いやすいと思っているし、量産品ならではの値ごろ感も魅力だ(残念ながら底値とは行かなかったが)。
しかし同じサイズで同じレイアウトの水槽を2本並べるのも面白くない。
そこで、「公民館の床下」はともかくとして(笑)オカヤドカリが生息している様々な環境に思いを巡らせて、斬新かつ快適な飼育環境を考えてみることにした。
結果は・・やはり砂浜レイアウトになってしまったのだが(笑)

まず水槽の背面と側面に保温性を高めるために発泡スチロール板を張りつけた。
当然前面以外は不透明な壁になるわけだ。
これはもったいない。
木に登るなど立体的な行動をするオカヤドカリにとっては爪さえ掛かれば垂直面も充分活動スペースになる。
そこで、オカヤドカリが自由に活動できるように、背面と側面の内側にヤシマットを張りつけてみた。
うれしいことに、飼い主の思惑通り、壁面を移動したりセミのように壁に止まって眠ったりと、有効に活用してくれている。
さらに、ヤシマットに霧吹きで水を含ませることによってケージ内の保湿効果も期待できるので一石二鳥。
もう少し大きくなったらむしり散らすだろうが、今のところは目論見どおり。

底面は珪砂を5〜6pの厚さに敷き、サンゴのかけらや貝殻などを無造作に転がしてガレ浜の様子を再現してみた。
ここは基本的に採餌スペースだから砂にはそれほどの厚みも持たせていない。
砂は当面ドライで管理するつもりだが、生体の様子やケージ内の湿度環境によってはその限りではない。
日頃からオカヤドカリがもっともオカヤドカリらしいのはサンゴをチャリチャリ鳴らしながらガレ浜を歩き回る姿だと思っているから、このロケーションには至極満足している。

ガレ浜手前のコーナーには市販の樹脂製水入れ。
これが海(笑)。
まあ、いろいろ言いたいこともあるだろうが、今のところはこれで許してもらうことにする。

奥にはレンガを組んでその上にもう一つ水入れを設置してある。
イメージは海岸の岩の窪みに溜まった雨水、つまり真水。
レンガを台にしたのは単なる思い付きだが、レンガは意外に吸水力があるので、水がこぼれてもしみ込んで砂に垂れ落ちないし、レンガ自体に充分水分を含ませることによってケージ内の保湿効果も期待できる。
なかなかのスグレモノである。

問題は脱皮床。
ナキオカヤドカリやムラサキオカヤドカリは多くの場合砂の中に巣穴を掘ってその中で脱皮をするのだが、普段採餌している海岸の砂の中で脱皮するとは思えない。
最低限大潮時の満潮線を越えた場所で、かつ日差しの影響を受けにくい木陰や岩陰などを脱皮場所として選ぶはずだ。
つまり採餌場所と脱皮場所は切り離して考えるのが現実的だということ。
しかし狭い水槽の中に異なった環境を作ることはなかなか難しい。
そこで採用したのがヤドカリ飼育の先輩caveさんがデスクボーイという省スペースタイプの水槽に環境の多様化を持たせるために考案されたユニット方式。
小型の容器を水槽内にセットする方法で、じょんじょんさんてとらさんら実力派のオカヤド飼いさんたちも採用されている。
用意したのは百均のタッパーウエア。
値段もさることながら軽くて丈夫なので出し入れの際に気を使わなくてすむのが良い。
自慢ではないが、ガラス水槽の中にガラス水槽などを入れたら絶対に割ってしまう自信がある(笑)
そのままでは殺風景なのでタッパーの外側にはジュート布を巻き付けてシュロ縄で縛ってみた。
もちろん爪掛りをつけて出入りを容易にするためでもあるのだが理由はもう一つある。
飼育下において巣穴を掘る際には水入れや流木の下を選ぶことが多いことから、自然下でも何もない砂だけの地面ではなく岩や木の根に添って巣穴を掘るのではないかと推察される。
考えてみれば当然のことで、回りが砂だけの巣穴より岩や根などの堅い物に添って掘った方が崩れ難くて安全だろう。
私がオカヤドカリでもそうする。
タッパーを布で包んである程度遮光しておけば、巣穴を掘る際に壁面を活用してくれるのではないかと思ったわけだ。

タッパーは大小合わせて3個。
そのうちの2個には、従来どおり湿らせた珪砂を15cmほど入れたのだが、せっかくなので残りの1個でちょっと実験をしてみることにした。
かつて何度かネット上で腐葉土をオカヤドカリの脱皮床として使えないかという話題をやりとりしたことがある。
保温性や通気性の良さや保水力など腐葉土には脱皮床として必要な優れた性質があるのだが、結果的に衛生面や管理面での問題が大きいため実用化されたという話は聞かない。
確かにツルグレン法採集実習を経験した身には、腐葉土をそのまま水槽に入れるのはかなり抵抗がある。
しかし先にも書いたように保温性や通気性の良さや保水力などの優れた性質は捨てがたいし、潜るにしても砂よりも柔らかくて気持ち良さそうではないか。
そこで思いついたのが園芸用のヤシガラ土。
乾燥圧縮して売られているのでダニやセンチュウなどの心配はないしプランター一杯分が100円か200円くらいなので、使い捨てにしても経済的だ。
ためしに水で戻して固く絞ってみると腐葉土よりきめが細かくふかふかしていて脱皮床としてはかなりいいのではないかと思われる。
気にかかるのはpHだが、まあ嫌なら潜らないだろう。
今この記事を書いている時点ではまだ潜り込んだ個体はいないが、よく集まっているのでそう嫌ではなさそうだ。
私がオカヤドカリなら迷わずこっちを選ぶのだが(笑)

全体のイメージとしてはガレ浜の外れの潅木の茂み、防砂林の根元には砂が吹き溜まり、朽ちた木の洞にはしっとり湿った木屑や落ち葉が詰まって快適な(?)脱皮床になっている・・といったところか?
実は防砂林の向こうに小さな畑があって、時々イモやニンジンにありつくこともできるのだ。
木陰では畑仕事のオバーたちが弁当を広げるので、飯粒や唐揚げやかっぱえびせんが落ちていることもある(笑)。
公民館のオカヤドカリに比べれば、少しは贅沢な環境だと思うのだが、どうだろう?


水槽の内側にはヤシマットを張りつけた。
壁面を活動スペースとして活用する他に、保湿保温効果も期待できる。


壁にとまって眠るナキオカヤドカリ。
思惑通りに壁面を活用してくれている。

ヒーターは上部、蓋は適当なものが見つからなかったので、とりあえずプラ段で代用してある。


ガレ浜。
オカヤドカリがサンゴの上を歩くときにたてるチャリチャリという音がなんとも心地よい。


脱皮床(珪砂)。
砂の厚みは15cmほど、軽く湿らせてある。
白い粒はゼオライト。


脱皮床(ヤシガラ土)。
林床性の爬虫類の床材としては実績があるらしい。
今のところ潜り込んだ個体はいないが、ここに集まっていることが多い。



サンゴ岩に落ちた鳥の糞から芽吹いたガジュマルの芽・・のイメージ。
実は一輪挿し

タッパーにはジュート布を巻きつけてある。

新居全景

2007.2.16

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