みーばい亭の
ヤドカリ話
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6.陽だまり


モグラは太陽の光を浴びると死ぬ・・と言われているが、実際はそんなことはないらしい。
地上に出たモグラがすぐに死ぬのは日光を浴びたためではなくて餓死。
モグラは土を掘ることで非常な体力を消耗するため、一日に自分の体重と同じくらいの食物を必要とする。
だから餌のミミズや地虫のいない地上に放置されれば短時間で飢えて死んでしまう。
これが真相とか。
確かに太陽の発する放射線や紫外線などの電磁波が生き物には有害なのは周知の事実。
しかし地球上の生き物は電磁波を吸収する厚い大気に守られ、ふりそそぐ陽光のもとで進化繁栄してきた。
暗黒の深海で硫化水素をエネルギーとして生きているチューブワームなどごく一部の生物を除けば、地球上の生物は分け隔たりなく太陽の恵みを受けて生命を育んでいるのだ。

もちろんオカヤドカリも例外ではない。
しかし海生動物から進化し主に夜間活動するオカヤドカリにとって、直接日光を浴びる必要性は特にない。
むしろ南国の強烈な日差しは、容赦なく鰓を乾燥させるし宿貝の中を蒸しあげる。
鰓が乾けば呼吸ができなくなるし宿貝の中が60℃をこえればタンパク質が煮えてしまう。
つまり死ぬ。
当サイトの飼育情報コンテンツ「オカヤドカリを飼う!」の中で「ケージを直射日光に当てるな!」と強く書いているのも、そういった理由からだ。
気密性の高いガラス水槽を直射日光に当てれば、温室効果で一気に温度が上がる。
いくら南国の生き物とはいえ、50℃60℃の異常な高温の中で長く生きられるはずもない。
実際そんな異常な温度環境の中で「茶色やら黄色やらの汁を吐いて死んでしまった」という報告も目にしたことがある。
酷い話だ。

冬場黄道が低くなると、みーばい亭の陸ヤド水槽には午後のひと時陽光が差し込むようになる。
そんな時は、側面の断熱板をはずして水槽内に日光を入れてやる。
不思議なものでそうすると必ず誰かが陽だまりにやってくる。
日光浴を楽しんでいるようにも見える。
低温に弱いオカヤドカリにとって、強すぎる日差しは命取りだが冬のやわらかな陽光は心地が良いのだろう。
要は水槽内が異常な高温にならなければ、日光に当てるのも別に悪いことではないということ。
こういった機微は生き物を飼っていれば自然に分かってくることだと思う。
ところが世間には自然に分かるはずのことが分かっていない飼い主も少なからず存在するらしい。
本来生き物を飼う人は生き物が好きなはずだ。
ザリガニを触れない人はザリガニを飼おうとは思わないだろうし、ヘビを見て悲鳴をあげる人がヘビを飼うことはない。
よしんば飼ったとしてもろくな結果にはならないだろう。
オカヤドカリもしかり。
しかし例の株式会社タカラトミー(当時株式会社トミー)が発売した飼育玩具「ハーミーズクラブ」の登場によって様子が変わった。
オカヤドカリを人工的な玩具セットに押し込め、悪趣味なペイント貝を着せ、子供騙しのキャラクターを作り、少女タレントに薄ら寒いキャンペーンソングを歌わせ、あげくの果てに生体を玩具売り場の店頭に陳列することによってオカヤドカリの「生き物」である部分を隠ぺいし、あたかもプラスチックの玩具のようなイメージを与えてしまったがために、ザリガニやヘビを触れないような生き物嫌いの人までが間違って生き物を買ってしまったのだ。
オカヤドカリを玩具として買った生き物嫌いな人に、生き物飼育の機微を理解しろと説いてもせんないこと。
「オカヤドカリを飼う!」は、そんな生き物嫌いの飼い主を意識して紋切り型の正論を綴ったものである・・と、この場を借りて言い訳させてもらう。

本当のことを言えば・・
生き物を飼うのはもっと自由で楽しいことなのだ!
2007.2.12

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