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30.異形伝 |
![]() 闇に棲む異形の生命体 ミズヒキゴカイかそれに近い仲間だと思う おどろに振り乱された触手は、ギリシャ神話に登場する蛇姫「メデューサ」を連想させる 見れば見るほど奇妙で面白い生き物だ |
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規格品の量産品の激安セット品の特売品・・だから、当然といえば当然なのかもしれないが、我が家の磯水槽、早くも寿命が尽きてしまった。 なんとなく水槽回りが塩っぽいな・・と、感じたのが正月頃。 はじめは単なる塩ダレかと思って、少し水位を下げたり、立ち上げパイプの向きを変えたりしてみたのだが、やっぱり塩が溜まる。 よく観察してみると、どうも継ぎ目からじわじわと水がしみ出しているようだ。 タンクキーパー(欧米か!)にとっては、由々しき事態ではあるのだが、時悪く厳冬の真っ只中。 窓の外を眺めると、庭のメダカ池はバリバリに凍りつき、裏山の斜面は雪化粧・・という、近年まれに見る本格的な冬景色が眼前に広がっている。 この状況で、水槽の交換などという大量の水を扱う作業が、寒がりの私にできるわけがない。 で、とりあえず継ぎ目にシリコンを塗りつけて、だましだまし春を待っていたわけだ。 本当は、本格的に暖かくなる5月の連休くらいまで、引きのばそうかと思っていたのだが、相変わらず水はしみ出てくるし、塩は溜まるし、毎朝不安な気持ちで水槽をチェックするのもストレスなので、思い切って春分の日の休日を潰して、ヤドカリたちの「引越し」を敢行することにした。 まず、ありったけのバケツやプラケを並べて、水槽の水を抜いていく。 60cm規格の小型水槽とはいえ、水量は50リットル近い。 バケツ5杯分にもなるけっこうな量だ。 何百リットルもの大型水槽をキープしているアクアリストは、こんな時どうしているのだろう?という疑問がふと湧いてくる。ま、(いろんな意味で)別世界の話だから、どうでもいいことだが・・(笑) それはともかく、ある程度水位が下がったところで、アクセサリーを取り出し、住人たちをバケツに移す。 この時に、住人の顔ぶれと頭数を確認したのだが、なぜかホンヤドカリとユビナガホンヤドカリの頭数が合わない。 いきなり謎が深まるが・・、この話はまた後ほど。 目につく住人たちを移し終えたあと、残った海水を底砂すれすれまで抜く。 いよいよ魔界へ突入である。 まず残っていた貝殻マンションの土台部分を持ち上げると・・居た! いきなり30cmをゆうに越える巨大イソメが登場、魔界探訪への期待がふくらむ。 砂の中にはカニや掃除屋のアラムシロが残っているはずなので、笊で水を切りながら少しずつ砂を取り出していく。 ここでまたひとつの謎が・・。 なんと、居るはずのないイソガニが現れたのだ。 どうやら、先日ヒライソガニだと思って投入した2匹のうちの1匹らしい。 この2週間で早くも脱皮したのだろうか。 採集したときよりひと回り大きくなって、背中が盛り上がり歩脚にもイソガニの特長である縞模様がうっすら浮き出している。 イソガニはヒライソガニよりも兇暴だと聞く。 それゆえ、あえて採集しないように気をつけていたのだが、確認が甘かったようだ。 今のところは、甲幅1p程度の幼体だから、他の生体への影響はないだろうが、今後の成長が楽しみ・・いや、心配である。 さらに砂を取り出しつつ、新入りのヒライソガニとヒメアカイソガニの無事を確認。 昨年目視した、微小オウギガニは残念ながら発見できなかった。 やがて大型洗面器にサンゴ砂がいっぱいになったころ、目の前に魔界への扉(底面板)が、黒々とその姿を現す。 水槽立ち上げ以来、初めて開かれる禁断の領域である。 底砂に溜まったデトリタスは毒抜きパイプで定期的に吸い出しているが、底面板の下は当然ノータッチ。 有機物が降りそそぐ暗黒の地底空間である。 ある種の生き物には、まさに楽園といえるだろう。 早い話が、時折水槽内に現れる環形動物の巣窟になっている可能性がある・・ということだ。 まずは、前回の毒抜きの際、ミズヒキゴカイらしい生き物の姿を目撃した底面板の脇を指で探る。 出てきた! 暗緑色の異様な塊。 親指ほどの太さで、長さは10pを越えるだろう。 質感はヒルのそれに近い。 それがグネッととぐろを巻いてボール状になっている。 そして、それが体のどこから生えているのか分からない無数の触手がゆらゆらと蠢いているのだ。 異形である。 不思議で不気味で綺麗で奇妙で滑稽で・・このうえなく面白い。 プラケに入れた異形の姿に時間を忘れて見入っているうちに、気が付けば水槽から取り出した貝殻やレンガが乾きはじめている。 慌てて作業再開。 底面板の窪みに溜まった砂を指で穿り出していく。 時折、細いゴカイが姿を現すが、想像したほど数は多くない。 ただ彼らが粘液で砂を固めて作った巣があちこちにくっついている。 せっかく作った巣だからそのままにしておいてやりたいのだが、底面板の水流を阻害しそうなので、かわいそうだが半分ほどは撤去する。 そして、いよいよ魔界の扉を開く時がやってきた 3年半も設置したままの底面板の下には、果たしていかなるサプライズが待ち構えているのか! ワクワクしながら、ゆっくりと底面板を持ち上げてみると・・。 まきあがったデトリタスでドロドロに濁って何も見えない(笑) 手で探ってみても触れるのはこぼれたサンゴ砂だけ。 無数の環形動物が絡まり蠢くワンダーランドを妄想していただけに、ちょっとがっかりである。 考えてみれば底面板の穴が小さい上に、その下には巣になる砂もなく、おまけに水流があるわけだから、彼らにはけっして棲みやすい環境ではないのだろう。 時折立ち上げパイプから吐き出されるのは、何かの拍子で底面板の下に潜り込んでしまった個体だったのかもしれない。 少々残念だが、今回は「主イソメ」と「メデューサゴカイ」を、じっくり眺められたことで満足することにしよう。 ・・と思いつつ、今度海に行ったときには、新たな「異形」の親種を採集しようと密かに心に誓う管理人であった。 |
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![]() 異形のヤドカリ・・実はただのホンヤドカリ(^^; |
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先日敦賀半島の磯で、全身が茶色の毛に覆われている奇妙なヤドカリを発見した。 日本海では見たことのないヤドカリだし、知りうる限りのヤドカリを思い浮かべても、ちょっと種類の見当がつかない。 もしや新種か!・・との、期待を胸にバケツにキープ。 持ち帰って水槽に入れ、ルーペでじっくり観察してみると・・、全身に苔を生やした普通のホンヤドカリだった(^^; 老成した大きなホンヤドカリの中には、苔生した個体がたまに見受けられるが、レギュラーサイズにも苔を生やした個体がいるとは思わなかった。 見慣れたホンヤドカリにも、まだまだ謎が多いということだ。 ヤドカリ道は奥が深い(笑) それはともかく・・、 今回水槽の更新をした機会に、磯水槽の住民台帳を作成した。 それによると、 ソラスズメダイ×1 スジエビモドキ×2 クボガイ×4 ヒメヨウラクガイ、アラムシロなどの魔貝軍団が5 ヒザラガイの仲間が3 カニは、イソガニ、ヒライソガニ、そしてヒメアカイソガニ。 主イソメ、メデューサゴカイ、その他環形関係が若干名。 主役のヤドカリたちは、 ケアシホンヤドカリ×3 ブチヒメヨコバサミ×1 ケブカヒメヨコバサミは全滅。 昨夏越前海岸で採集した個体も含めて6匹いたはずの、ユビナガホンヤドカリは4匹しか確認できなかった。 いつの間にか2匹は脱落したらしい。 そして問題のホンヤドカリ。 これが、なぜか10匹も居る。 昨年からの履歴を整理してみると、まず春の時点で5匹居た。 夏までの間に、1匹が老衰で消え、1匹がハゼどんにやられて、残り3匹。 夏に2匹を補充して5匹。 秋にさらに2匹追加して都合7匹。 このラインナップで年を越し、2月に1匹の死亡を確認。 そして、先日の磯下りの際、苔ヤドを含めて3匹採集。 計算では9匹しか居ないはずなのに、不思議なことである。 やはり磯水槽の中には魔界が存在するのだろうか? |
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![]() 主さま |
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その堂々たる巨体は水槽の主と呼ぶにふさわしい威厳を感じさせる。 各地の水辺には「主伝説」が多数伝わっているが、昔の人はこの巨大イソメから「竜神」の姿を思い描いたのだろう。(ウソ) その姿からはちょっと想像できないが、その身は非常に美味らしく、海外では食用にする地域もあると聞く。 釣り餌の定番でもあるわけだから魚はもちろんのこと、エビやヤドカリたちもとってもご馳走らしい。 そんなわけで、新水槽のセット完了後、砂上の住人たちに食われないように、彼らより先に水槽に戻してやったのだが、小ぶりの何匹かはスジエビモドキに捕まって、引きちぎられ、ヤドカリたちの夕食になってしまった。 幸い「主さま」は無事マンションの下に潜りこんだが、これでは威厳も何もない。 砂上の住人たちは荒ぶる竜神への畏怖よりも食べることへの執着が勝る魔物揃いなのだ。 磯水槽の魔界は実は砂上にあるのかもしれない・・というより水槽そのものが魔界なのかも(笑) |
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新居は、なんと前面曲げガラスの「高級水槽」。 住人が住人なので、4枚のガラス板を張り合わせた安物で充分だと思うのだが、一応リビングに鎮座している「海水水槽」なので、多少の見栄えも考慮して大奮発してやった。感謝しろよ、ヤドども。 とは言うものの、サンゴ砂や貝殻マンションは、旧居の物をそのまま移しただけだから、ほとんど新鮮味はない。 それでもデトリタスを大分ふるい落したので、底砂はずいぶん綺麗になった。 当面ろ過能力は落ちるかもしれないが、飼い主はけっこうすっきりした気分になる。 今回はやむにやまれぬ事情だったが、水漏れがなくても、3年に一度くらいのフルメンテは、飼い主の精神衛生上有益かもしれない。 |
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2008.3.23 |
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