みーばい亭の
ヤドカリ話
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27.夏の終わり


昨年、ベニホンヤドカリやブチヒメヨコバサミを採集した越前海岸沖の岩礁域、通称「軍艦岩」
水槽のヤドカリたちを眺めていると、真冬でもこんな夏の風景を感じることができたのだが・・


20代の頃は3月から12月初旬まで5mmのウエットスーツで福井や和歌山の海に飛び込んでいたから、1年のうち9ヶ月以上が夏だった。
もちろん、潜行した瞬間、冷たさで頭の芯が痺れるように痛くなったこともあるし、船上で寒風に吹かれて奥歯が鳴ることなどはしょっちゅうだった。
それでも、海に出れば季節は常に夏だった。

月日は流れ・・、40を過ぎた今では海に入るのは6月からせいぜい10月まで。
ずいぶんと夏が短くなったが、年内いっぱいは、なんとなく体に潮の匂いが残っているような気がして、夏の余韻に浸ることができる。
寂しくなるのは年が明けた1月頃から・・。

雪まじりの風は冷たく、夏は遠い。

ここ数年は、越前海岸で採集した生き物を飼っている磯水槽が、そんな寒い季節の慰めになっている。
週末、冬の味覚をたっぷりと入れた鍋で一杯飲って、ほっこりと温まった体で、水槽の魚やヤドカリたちを眺めていると、少しだけ夏の匂いが蘇ってくる。
特にこの冬は、岩礁域の深場で採集した「紅のヤド」ベニホンヤドカリが、広くて深い海の匂いを感じさせてくれたのだが・・。

まず正月明けから、10月に採集したベニホンヤドカリの小紅の姿が見えなくなった。
貝殻マンションの奥で脱皮モードに入っているのだろうと、特に心配もしていなかったのだが、1週間ほどして小紅が宿貝にしていたイボニシにユビナガホンヤドカリが入っているのを見つけた。
小紅の死骸は確認していないが、おそらく脱皮に失敗したのだろう。
一方、8月に採集したベニーさんも、松の内が明けた頃から様子がおかしくなった。
餌を落としてやってもほとんど手を付けなくなり、水槽の隅にうずくまってほとんど動かない。
脱皮かと思ってそっとしておいたのだが、1週間経ってもその気配はない。
そして、寒波の到来でパリパリに凍りついた1月18日の朝、水槽の隅にうずくまったままの格好で死んでいた。
8月13日に採集してから、丁度5ヶ月。
2度の脱皮をクリアして、一時は飼育環境に馴染んだようにも見えたのだが、閉ざされた水槽で少しずつストレスが蓄積していたのだろう。
故郷の海を思えば、水槽はあまりにも小さく浅い。

3匹居たケブカヒメヨコバサミも、2匹は居なくなったし、残った1匹も休眠モードに入っているのか、牡蠣殻の窪みにはまり込んだまま、ほとんど動かない。

ベニホンヤドカリやケブカヒメヨコバサミの姿が消えた磯水槽には、どことなく夏の終わりの寂寥感が漂っている。





力尽きる前夜のベニーさん
少しでも水質を良くしようと、昨年末に活性炭フィルターを詰めた投げ込みを追加したのだが、そのせいで水槽に伝わるエアポンプの振動が少し強くなった。
その辺りがストレスになったのかもしれない。
長生きさせてやることはできなかったが、この半年飼育を楽しむことができた。
機会があれば、是非また飼ってみたいヤドカリだ。



小紅
活発なベニーさんとは対照的に、おとなしくて控えめなベニホンヤドカリだったが、「陰のあるアイドル」的な独特の存在感を醸しだしていた。
2回の脱皮でずいぶんたくましくなったように思えたのだが、3回目の脱皮は上手く行かなかったようだ。
ベニーさんが死んだ後、水槽のレイアウト変えをしている時に、サンゴ砂の間に、1本の歩脚が落ちていた・・・。


白身魚の切り身を奪い合うユビナガホンヤドカリ。
食べ物がからんだ時の獰猛で貪欲な争いは、ネコ科の肉食獣を思わせる。
昨年の春、小さめの個体を選んで採集したのだが、すっかり大きくなって、水槽での存在感もぐっと増した。
底面ではユビナガホンヤドカリ、貝殻マンションの上部ではホンヤドカリ。
この連中が我が物顔でブイブイいわしている水槽が、やっぱりみーばい亭らしいのかもしれない(笑)



キクスズメを飼育されている皆様へ

サザエサイズのベニホンヤドカリ、ベニーさんが居なくなったので、ベニーさん専用シェルターの素焼き鉢を撤収し、ベニーさん仕様に隙間を大きくあけていた貝殻マンションを組み替えているときの事。
不要になったアワビ殻を水槽から取り出そうとしたのだが、よく見ると表面にキクスズメが5匹ほど張り付いている。
このまま水槽から出して、死なせてしまうのも可哀想なので、他の貝殻に移してやるために、マイナスドライバーではがそうとしたら・・。
貝殻だけはがれて、身はアワビ殻に残ってしまいました(^^;

キクスズメ愛好家の皆様。
キクスズメを生きたまま無理やりはがすのは不可能です。
レイアウト変更の際はご注意ください。

アワビ殻に残ったキクスズメの軟体部は、ホンヤドカリがおいしそうにツマツマしてました(^^;



アワビ殻に付いたキクスズメと、飄々と生きのびているブチヒメ
2008.1.21

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