みーばい亭の
ヤドカリ話
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23.小紅と地味〜な住人たち

磯水槽に新たに加わったベニホンヤドカリ(通称小紅)
甲長1pに満たない若齢個体
画像では見えないが右後ろのクボガイにはホンヤドカリが入っているので
比べてもらえば大きさが分かると思う


長年日本海に潜っているが、同じポイントでも水温や透視度などのコンディションは年によってずいぶんと違う。
週末になると雨が降る年、毎週のように台風が来た年、8月に入っても梅雨の明けない年・・・、振り返れば、波穏やかで濁りが少なく週末ごとに良く晴れて海が明るい「当り年」というのはほとんどなかったように思う。
特にここ数年は、どんよりとしてあまりテンションが上がらない海況が続いていたのだが、今年は久しぶりに気持ちの良い夏を過ごすことができた。
6月7月のシーズン初頭はそれほどでもなかったが、8月9月の週末は好天続きで、特に10月に入ってからの透視度は10年ぶりくらいではないかと思うほど抜けが良好だった。
当然今シーズンは海へ出かける機会も多くなり、それに伴って磯水槽も賑わいを増すことになったわけだ。

この夏新たに迎えたヤドカリは、まず3匹のケブカヒメヨコバサミ。
夏の磯ではおなじみのヤドカリなので水槽に居ないとなんとなく物足りないのだが、動きが鈍くておとなしいのでハゼどんが健在ならたちどころに餌食になっただろう。
大き目の貝殻から脚の先をちょっとだけ出してのんびり歩く姿は平和な水槽を象徴しているように思える。
次にやってきたのがベニホンヤドカリのベニーさん。
低水温を好む温帯性のヤドカリなのだが、この夏の猛暑を何とか乗り切り9月には脱皮にも成功。
今の所つつがなく暮らしている。
レギュラーメンバーも減ってしまった分をそれぞれ補充して、ホンヤド×5、ケアシ×3の定数維持、ユビナガも越前産の個体を1匹加えて6匹の大所帯のままシーズンを終えた。
そして9月には幸運にもブチヒメヨコバサミをゲット。
これで、今年の採集は打ち止めにするつもりだったのだが・・・。

今シーズン最後の越前海岸。
8月に石の下にいたベニホンヤドカリを見つけてから、海底の転石を引っくり返すのが密かなマイブームなっている。
昼間はなかなか見られない夜行性の生き物が隠れていたりしてけっこう面白いのだ。
その日もカニを驚かせたり巨大クモヒトデに驚かされたりして遊んでいた。
真夏より水温が下がったせいか甲長2〜3pもある大型のヤマトホンヤドカリやベニホンヤドカリも良く目に付く(ひと夏水槽のベニーさんを眺めつづけていたおかげで、海中でもヤマトとベニをひと目で見分けられるようになったのがちょっとうれしい)。
そんな2種類のヤドカリを両手に持ってしげしげと見比べたり並べて歩かせたりして楽しんでいるうちに、思いがけず小さなヤドカリが1匹、目にとまってしまった。
ホンヤドサイズのベニホンヤドカリだ。
前にも書いたが水中という高圧下では人間の思考能力が著しく低下する(^^ゞ  ・・というわけで、シーズン最後にやってきた小さなベニホンヤドカリ。
歩脚が一本欠けていて歩き方がぎこちないせいか、ベニーさんに比べるとずいぶんおとなしくて臆病な感じがするが、とりあえず餌付いてはくれた。
先輩同様、このまま上手く水槽になじんでくれるといいのだが。


地味〜な住人その壱  付着性二枚貝(種不明)

3年前に磯水槽を立ち上げた当初、水槽のアクセサリーとして越前海岸の海底から、フジツボやカキの殻をせっせと拾ってきては水槽に投入していた。
言ってみれば磯のライブロックである。
以前こちらの頁でも紹介したことがあるが、ライブロック(ライブシェル?・・だと生きた貝だから意味が違うか)だけあって、様々な生き物が登場して楽しませてくれた。
しかし残念なことに、充分な餌もなく凶暴な魚たちが泳ぎまわる小さな水槽では長生きすることができずに、数週間から数ヶ月くらいでほとんどの生き物がいなくなってしまった。
そんな中でしぶとく生き残っているのがこの二枚貝。
チビ銀が居なくなった今では、一緒にやってきた魔貝と共に水槽でもっとも古い住人になった。
魚が巻き上げるデトリタスやヤドカリが食べ散らかした配合飼料の粉などのわずかな有機物を濾しとって食べているのだろうが、この3年で倍くらいには成長している。
しかし長い付き合いとはいえ、まったく動きもなく時々わずかに口を開けているのを見て「ああ生きてるな」と確認するだけで、普段は飼い主からもその存在を忘れられている究極の地味住人である。



地味〜な住人その弐 (たぶん)ヤスリヒザラガイ

普通のヒザラガイは潮間帯上部の明るい場所で良く見られるのだが、このヤスリヒザラガイ(だと思う)は昼間は転石の下などに張り付いて隠れている陰性の強い貝。
時々海藻や苔のついた石ころをヤドカリたちのお土産に拾ってきてやるのだが、その石にくっついて来たようだ。
暗くなるとガラス面を這いまわっているが、昼間は砂に潜ってじっとガラスに張り付いている。
う〜ん、地味なヤツ。


地味〜な住人その参 クボガイ+キクスズメガイ

いわゆる苔取り貝なのだが同業のスガイやイシダタミが数ヶ月から半年くらいでヤドカリのお家になってしまうのに対して比較的丈夫でけっこう長生きする。
この個体も2年以上生きているのだが、これくらい付き合うと情も移ってくる。
ピンセットでワカメを口元に近づけてやると、うにょ〜と口吻を伸ばして食べにきたりするのだから、もはや立派なペット。
今年の夏は飼い主の頻繁な海通いのおかげで、常に新鮮なアオサや褐藻が水槽に入っていたせいか、いつになく活発に動き回っている。
そんな栄養状態の良さを示すのが、背中に間借りしているキクスズメガイ。
クボガイの食べこぼしや糞を食べているようだが、いままであまり目立たなかったのがこのひと夏でずいぶんと成長した。
宿主はかなりうっとうしそうだ。


地味〜な住人その四 謎の腔腸動物

こいつは最近現れた生き物なのだが、その正体はまったく不明。
形状からすると腔腸動物のようだし、もしかしたらクラゲのポリプかもしれない。
そういえば今年も秋には沿岸近くでも例のエチゼンクラゲの姿が見られた。
私が日本海に潜りはじめた20年ほど前には、エチゼンクラゲの名前は知っていても実物を見たことのあるダイバーなど誰も居なかったものだが・・、いったい日本海に何が起こっているのだろう?
もともとエチゼンクラゲは上海沿岸や揚子江河口あたりの東シナ海で繁殖すると考えられていたが、最新の文献によると卵は低温にも強く高濃度の塩分に適応さえすれば日本海でも充分繁殖する可能性はあるそうだ。
実際若狭湾で採集されたエチゼンクラゲから採取した卵が孵化することも確認されているし、水族館で飼育中の個体が自然産卵し水槽内で孵化着底しポリプにまで成長した例もあるらしい。
もしかしたら越前海岸で採水した海水に混入していた卵かプラヌラが着底したのかもしれない。
まあ、素性はともかく水槽の住人になったからには健やかに成長してほしいものだが、60cm水槽に巨大クラゲがぎゅうぎゅう詰めになるのもちょっと困るなぁ(笑)
日本海の現状を考えれば、(笑)っている場合ではないが・・。


シーズン最後にやってきたベニホンヤドカリ(通称小紅)
自然下で観察していると、ベニホンヤドカリはヤマトホンヤドカリより活発で物怖じしない性格のようだが、この個体はやけにおとなしい。
同サイズのホンヤドやユビナガと比べると、動きもゆっくりでなんとなく儚げな感じがする。
ピンセットで餌を渡してやろうとしても、恐がって貝殻に隠れてしまうので、手渡し給餌はしていないが、他のヤドカリが食べ残した餌を夜間にこっそり食べているようだ。
エメラルドグリーンのクリッとした複眼は海ヤドが苦手なご婦人方にもウケそうに思うのだが、どうだろう?
まあ、オカヤドカリのようにおかしなブームになっても困るのだが・・。
2007.10.27

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