みーばい亭の
ヤドカリ話
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24.癒しの磯水槽

越前土産の苔付き石に登るブチヒメ
普段は貝組みに隠れていることが多いが、珍しく水槽前面に姿を見せた
故郷の海の匂いに惹かれたのだろうか?



悩みを抱えたりトラブルに直面したりすると、よく「頭が痛い」という言葉を使う。
長年これは単なる比喩的な表現だと思っていたのだが、本当に頭が痛くなることを最近知った。
爽やかに澄んだ晩秋の時節・・、思いもかけず仕事家庭の双方でドロドロとした腐臭を放つ「頭の痛い」トラブルに巻き込まれてしまったのだ。

家庭の方は些細なご近所トラブルが発端である。
それが警察沙汰になったあげくに、人ひとりが大怪我をし、ひとつの会社の存続にまで関わる大騒ぎにまで発展してしまった。
仕事の方も元々は些細な個人的トラブルである。
それを調停する会議の席上で決定された屈辱的な「業務命令」に私が反意を示したことがきっかけで、部署内の(社内ではない(^^;)派閥抗争の矢面に立たされる羽目になった。
世が世ならその場でアホ上司を斬り捨てているところである。(その後切腹するか逐電するかは実際にやってみないと分からないが(笑))
今のところ、双方のトラブルともに解決はしないまでも表面上は沈静化しているが、一時期は夫婦揃ってけっこうキツい状態にあった。
で、とりあえず海で頭を冷やすことにしたわけだ。

ダイビングは10月でオフにして器材も片付けてしまったので、海辺でのんびりと時間を過ごすだけ・・のつもりだったが、ついでなので、この春に死んでしまったエビちゃんの代わりを迎えようと、バケツとペットラップ(ペットボトルで作った魚捕り罠)は持参した。
朝、ゆっくりと家を出て越前海岸についたのが正午すぎ。
途中で買ってきたシズヤのサンドイッチを食べて、しばらくぼんやりと海を眺めてからペットラップを投入。
護岸のコンクリートの上で少し昼寝してから引き上げてみると、中でダイナンギンポが2匹とぐろを巻いている。
もちろんエビは居ないし、餌に入れておいた魚の切り身も全部食われてしまって空っぽ。
予備の餌はない。
仕方がないので、自力でエビに立ち向かう決意を固めたのだが、干満の差が少ない日本海には潮溜まりがない。
岩の窪みに水が溜まっていることがあっても、たいていは雨水でボウフラがうごめいていたりする。
おまけに手網も持ってきていない。
必然的に足場の悪い岸辺から手づかみで狙うことになる。
当のエビたちは微妙に手の届かない距離をとってこちらを笑っている(ように感じる)
これは危ないと思っていたら、やっぱり落ちた(笑)
思えば昔からよく落ちる子供だった。
虫捕りで崖から落ちたり、魚捕りで水に落ちたりするのは日常茶飯事だったし、大学受験も・・まあ、それはいい(^^;
近年でも、沖縄でアマオブネやヤドカリを眺めていて護岸から落ちたし、Decapod Journal南紀オフの時もベンケイガニを追いかけて崖から転がり落ちた。
ダイビング以外で海辺に出かけても濡れずに帰ってくることはほとんどない。
そういう星回りなのだろう(関係ないって?)
とにかくなんとかスジエビモドキを2匹ゲット。
ヤドカリたちのお土産のアオサと苔付き石を拾い、自分たちのお土産に近くのスーパーで新鮮な魚介類をたっぷりと買い込んでずぶ濡れのまま帰途についた。

帰宅後は当然酒宴。
まず買ってきたガマエビの頭をとり剥き身にする。
とった頭と岩海苔でたっぷりと出汁をとり、越前豆腐(絶品!)とペットラップに掛かったダイナンギンポを煮る。
後は、新鮮な刺身と突き出しのポテトサラダ(これがないとみーばい亭の酒宴ははじまらない)をテーブルいっぱいに並べて、凪さんがJR京都駅伊勢丹の新潟フェアに並んで適正価格で手に入れてきた越乃寒梅を飲みながらひたすら食べまくる。
締め飯は帰り道に買ってきた鯖街道の鯖寿司。
ここまでやれば大抵のストレスは発散できる。
要するに土地家屋や社会的立場、安定した収入などを守ろうとするから悩みが生じるのであって、最初からそれらに執着しなければ悩みなど自ずと消滅する。
幸いなことに11月にずぶ濡れで何時間も遊んでいても風邪ひとつひかない健康体なのだ。
どうにもならなくなれば、どこか海辺の町にでも引っ越して夫婦2人でひっそりと暮らせばいい。
これが結論。

今は毎晩、庭で愛用の木太刀を振って汗を流し、ヒノキの入浴剤を入れた風呂にゆっくりと浸かった後、アオサをいっぱい放り込んだ緑豊かな水槽を眺めながら、凪さんが買ってきたヒーリングCDを聴いている。
これがけっこう心地良くて30分もすれば意識が朦朧としてくる。
おかげさまで寝付きはすこぶる良い。
消灯時間を延長されたヤドカリたちには迷惑かもしれないが・・・。








苔付き石とたっぷりのアオサを投入したヤドカリ水槽。
トラブル続きの飼い主にとっては、大切な「精神安定装置」。
すっかり色の落ち着いた(汚れた)サンゴ砂の上に天然の石やアオサを配した水槽は、立ち上げ前にイメージした「日本海の磯」に近付いてきたように思う。
おかげさまでここ数ヶ月の間に脱落した住人は古株のホンヤドカリ1匹だけ。
この夏新たに迎えたヤドカリたちは全員健やかに過ごしている。




ギンポ(越前海岸 水深7メートル)
標準和名で「ギンポ」という魚はニシキギンポ科、食材とされるダイナンギンポはタウエガジ科、磯でよく見かけるニジギンポやアクアリウムでおなじみのヤエヤマギンポなど、ダイバーやアクアリストが言うところのギンポはイソギンポ科と、なんともややこしい魚。
今回捕まえたのはタウエガジ科のダイナンギンポ。
関東では高級天麩羅ダネとして珍重されるらしいが関西では今ひとつ馴染みが薄い。
けっこう大きめのが2匹捕れたので天麩羅にしても良かったのだが、それだけに油を用意するのが面倒だったので、みーばい亭風簡単浜鍋の具になってもらうことにした。
ガマエビの頭で濃くとった出汁に味噌を溶き、越前豆腐や岩海苔とともに出刃でぶつ切りにしたギンポを煮ながら食べるのである。
これが酒に合う。
身は癖のない淡白な白身だが思いの他しっかりとしている。
それが皮や鰭のゼラチン質と相まって心地よい食感を醸し出すのだ。
確かに天麩羅にしたら至高の味わいだろう。
凪さんは大変気に入ったようで、近々大掛かりな「ギンポ狩り」を敢行するために、ペットボトルをせっせと集めている(笑)




お土産の石ころに群がるヤドカリたち。
越前海岸は外洋に面した荒磯が多く、岸近くの転石は波で磨かれてしまうので、コケの付いた石ころを探すのはけっこう苦労する。
それだけにこんな風に素直に喜んでくれると飼い主もちょっとうれしい。
今年はこのお土産が多かったせいか、夏前に採集したイシダタミがまだ生きている。
今まであまり長生きしなかったのは餌不足だったのかも(^^;




新入りのエビちゃん
縞模様がまばらなので、イソスジエビではなくてスジエビモドキだと思う。
一応水には馴染んだようだが、マンションの隙間に隠れていることが多くてあまり姿を見せない。
先代のエビちゃんは、活発に泳ぎ回って水面に浮かんでいる魚の餌やヤドカリが抱えてる餌でも器用につかみとったものだが・・。
イソスジエビよりシャイでおとなしいのだろうか?
2007.11.18

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