みーばい亭の
ヤドカリ話
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13.若葉の頃

2001年から飼育しているナキオカヤドカリ。
飼いはじめた時の大きさから前年生まれの個体と思われるので当年7歳。
現在前甲長は約16mm、すでに図鑑に記載されているナキオカヤドカリの最大前甲長をこえている。
ムラサキオカヤドカリ(Coenobita purpureus)やオカヤドカリは(Coenobita cavipes)は
自然下で前甲長20o以上もありそうな特大の個体を見かけたことがあるが、
ナキオカヤドカリ(Coenobita rugosus)でこれほどの大きさの個体はちょっと見た記憶がない。
さすがにここまでくると行動も落ち着いて風格さえ感じられるが、
小指の爪ほどしかないカタツムリの殻に入っていた頃を思うと感慨深い。


@シェルターの中や流木の上でじっとしている
A触角や眼柄をたたんで熟睡する
Bうろうろと歩き回る
C時々餌を食べ水を飲む


オカヤドカリの日常はだいたいこんなものです。
もっとも一日の大半は@かA。
動かなくてつまらないという飼い主は、ケージから取り出して水につけたり、霧吹きで水を掛けてやるとよいでしょう。
刺激を受けたオカヤドカリは興奮状態になって一時的によく動き回ります。
ただしオカヤドカリは「一日のほとんどを物陰で寝て過ごす」陰性の強い生き物です。
明るい所で弄くりまわして無理に暴れさせたりすると、無駄に体力を消耗して弱りますので注意してください。
オカヤドカリはいったん弱ってしまうと、たいてい死にます。

長いスパンで見るとオカヤドカリの行動は脱皮を中心に周期変化をみせます。
脱皮が近くなると餌を食べなくなり、水入れの中に浸かったり、あちこちの砂をほじくり返したりするようになります。
この時期、下手に触ってストレスを与えると脱皮に影響しますので注意が必要です。。
脱皮に失敗するとオカヤドカリは死にます。
ケージ内の温度を25℃前後、湿度を70%程度に管理し、湿らせた珪砂を15cm以上の厚みに敷いた適切な環境で飼育していれば、まもなく砂に潜りこんで脱皮の準備にはいります。
この時期のオカヤドカリは非常にデリケートな状態にありますので、くれぐれも掘り出したりしないでください。
砂の中に潜っている期間(脱皮前の安静期から脱皮殻を食べ終えるまで)は数週間から数ヶ月。
みーばい亭での最長記録は4ヶ月です。
この間飼い主にできるのは触らずにそっとしておくことだけ。
繰り返しますが、脱皮に失敗するとオカヤドカリは死にます。
無事に脱皮を終えたオカヤドカリは体が固まるまで砂中に掘った巣穴の中でじっと動かずに過ごします。
体が固まると脱ぎ捨てた脱皮殻を食べはじめ、食べ終わると(食べ残すこともある)ようやく砂上に姿をあらわします。
つやつやの新しい甲殻を身にまとい、ひと回り大きくなったオカヤドカリは、オカヤドカリらしからぬ旺盛な食欲で餌をあさります。
脱皮後の食べっぷりは見ていて実に小気味の良いものです。
もし脱皮の後にまったく餌を食べないのであれば、餌が悪いか、飼育環境が悪いか、個体の状態が悪いかのいずれかです。
充分に栄養を補給して落ちつくと、次の脱皮まで冒頭に太字で書いた平和で少し退屈な日常を繰り返します。

何年も飼い込まれて飼育環境に良く慣れた個体は、だいたいこの脱皮周期に従って日々穏やかに飼われてくれます。
こうなると飼い主の仕事は、餌と水を換えてたまに掃除をするだけ。
時々ケージを覗き込んでちょっと驚かせてみたり、そっと寝顔を眺めてにんまりしたり・・。
こんな風にオカヤドカリと心穏やかな付き合いができるようになれば、オカヤド飼いとして「ベテラン」の域に達したといっても良いのではないかと思います。(もっともオカヤドカリが適切な環境できちんと飼育されるようになったのはここ10年ほどのことですし、いまだ累代飼育に成功した飼育家もいませんから本当の意味での「ベテラン」は存在しませんが)
ひょんなきっかけでオカヤドカリを飼いはじめて7年、そろそろそんな領域に近付いてきたかなと思いはじめた今日この頃だったのですが、残念ながら育ち盛りの2005年組が大暴れの毎日。
心穏やかにオカヤドカリと付き合えるのは、まだまだ先になりそうです。

熱帯から亜熱帯にかけて生息するオカヤドカリを温帯域で冬越しさせるにはケージを加温してやる必要があります。
初めての冬を迎える飼い主は何かと不安が多いでしょうが、今は良いヒーター(なんとかアイランドとかいうミイラ製造器のことではない)が簡単に手に入りますし、経験者(販売業者ではない)による適切な保温方法がいろいろと紹介されていますので、冬越しはそう難しいことではないと思います。
飼い慣れてくると、ヒーターによって飼育環境を安定させることのできる冬場の方が管理は楽ですし、オカヤドカリたちも穏やかに日々を過ごしてくれます。
問題は暖かくなりはじめた4月から5月。
飼い込みの浅い個体や若い個体はこの時期になると、日周期や月周期、それに脱皮周期の行動枠に当てはまらない異常な行動をとることが多くなります。
意味もなく(あるのかもしれませんが)砂を掘りまくったり、他の個体を襲ったり、興奮状態で走り回ったり、突然鳴きはじめたり・・。
とにかくケージの中がざわざわと落ち着かなくなり、それに伴って脱皮事故も多くなります。
私自身、この季節には何匹ものオカヤドカリを死なせてきましたが、いまだこの時期にみられる突飛な行動パターンがよくつかめませんし、これといった対応も思いつきません。
とりあえず温度と湿度を安定させて静かに見守るのが精一杯です。

今年もそんな心配な季節が巡ってきました。
さすがに何年も飼い込んだ大御所連中は落ちついたものですが、新たに立ち上げた2005年組の水槽が騒がしくなってきたようです。
底砂はボコボコに掘り返されていますし、少し興奮気味の個体もみられます。
本当は事故を防ぐために一匹ずつ分けて飼育するのが望ましいのでしょうが、小さな容器で温度湿度を適切に管理するのは大変ですし、経済的な負担も大きくなります。
飼い主の都合でオカヤドカリを脱皮事故の危険にさらしていることについてはひと言もありませんが、できることなら何とか全員無事にこの季節を乗り切ってほしいものです。

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「異変」
「五月闇」


ややこしい体勢でヤシマットをむしる2005年組。
もう少し持つかと思ったのだが、早くも右側の一角はもけもけにされてしまった。
少々見苦しいがそれも一興。
立ち上げ当初、ヤシマットの表面に少しカビが生えたので時々海水で拭き取っていたが、
その後環境が安定したのかカビの発生はなくなった。

底砂はわざわざ湿らせていないが、空気中の湿気を吸ってかなり濡れ気味。
ここへ潜り込む個体もいるので、もう少し厚みが必要かも。
反対にヒーターに近い上部空間はやや乾燥気味。
はからずも水槽内に湿度勾配がついてしまった。
2007.4.27

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