みーばい亭の
ヤドカリ話
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10.どっこい生きてた!
カニ
フジツボの下から顔を出したカニ
全身を見せることはめったにない

ダイビングの合間にボートの上から海面を眺めていると潮に乗っていろんな物が流れてきます。
小ビンに入った手紙や南の島から流れてきた椰子の実・・などは見たことがありませんが、流れ藻や流木は良く見かけますし、発泡スチロールの容器やポリタンクなどあまりロマンチックでないものも良く目に付きます。
そんな漂流物に目を凝らせてみると、その下には必ずといっていいほど小さな魚が付いています。
魚だけではありません。
船上に拾い上げてみるとカニや貝やフジツボなど様々な生き物の拠り所になっているのがわかります。
流木など海上を漂う漂流物は小さな生き物たちの箱舟になっているわけです。
流木の箱舟は新天地をめざして時には何万キロもの旅をします。太平洋を一周することもあるそうです。
長旅の間に波に洗われ白く清潔な骨になった流木はやがて異国の浜辺に打上げられます。
旅を終えたそんな流木が我が家の庭に何本か置いてあります。
庭の流木にも海を流れていた時と同様に、トカゲやダンゴムシやジョウビタキやハサミムシやカナヘビやコオロギやアマガエルやコウガイビルやシロハラなど、たくさんの生き物が集まってきます。
やがて湿った土の上で少しずつ雨水を含んで柔らかくなった流木はシロアリやコクワガタやキセルガイなどに少しずつ食べられながら朽ちていきます。
何年か経ってポロポロと崩れるくらいに朽ちた流木は小さく砕いてブルーベリーのマルチ材として根元に敷き詰めます。
柔らかなマルチはミミズや地虫によって土中に引き込まれて腐植となり、ダニやセンチュウや土壌細菌の働きによって無機物にまで分解されてブルーベリーの根から吸収されます。
ブルーベリーは吸収した養分を糧として花を咲かせ実を結ぶのです。
名も知らぬ遠き島より旅に出て多くの生き物たちを運び育んだ流木は、最後に我が家の庭でブルーベリーを実らせて土へと還って行く。
庭を眺めながら、そんな流木の旅を想像すると、少しワクワクとした気分になります。

板切れに乗って漂流するカニたち(撮影地慶良間)


庭の流木
目下のお気に入りの一本 名づけて「龍骨」
波が作ったシュールな造形は見ていて飽きない

秋になると庭に飾る流木を探しに海岸へ出かけます。
8月には海水浴客でごったがえす砂浜なのですが、9月になると途端に人影がまばらになります。
9月や10月の海はまだまだ夏真っ盛りのベストシーズンなのですから、もったいない話です。
そんな秋の浜辺を贅沢に独占して遊ぶのも楽しいものです。
散歩、昼寝、ビーチコーミング、そして生き物ウォッチング。
磯と違って生物層が単調な砂地では所々に点在している岩が生き物たちのオアシスになります。
まだまだ温かい海にざぶざぶと入ってそんな岩場をのぞいて見ると、期待通りにびっしりと生き物たちが集まっています。
ヒザラガイ、カメノテ、クボガイ、フジツボ・・・。
我が家の海水水槽でふんぞり返っているヨロイイソギンチャクも昨年の秋にそんな砂地の岩で採集した個体です。
干潮で水面に出た岩の窪みに集まっているのを爪ではがしている時に、ヨロイイソギンチャクの群れの中をヨチヨチと歩いている小さなカニを見つけました。
甲幅が5ミリにも満たないような稚ガニなので種類ははっきりとは分かりませんが、体型からみてイソガニかヒライソガニのようです。
もちろん名前のとおり砂浜ではなく磯に棲むカニ。
おそらく近くの磯で放幼された幼生が流れ着いたのだと思われます。
つまりごく短距離の無効分散個体です。
このまま潮が満ちてヨロイイソギンチャクが触手を開けばひとたまりもなく呑まれてしまうでしょう。
自然界に生まれたからにはそれも仕方がないのでしょうが、手のひらの上を歩かせて遊んでいるうちに何となく情が湧いてしまって放しがたくなりました。
というわけで、我が家の海水水槽の一員として迎えるべく連れて帰ったわけです。
ところが水槽に放した直後、一瞬目を話した隙に姿が掻き消えてしまいました。
見るとすぐ側の貝殻の下でクモハゼが満足げに口をもぐもぐしています。
クモハゼの好物は小型の甲殻類・・。
救出して連れて帰ったつもりが、より危険な環境に放り込むことになったようです。
それ以来稚ガニが姿を見せることはなく、やがてその事件のこともすっかり忘れていたのですが・・・。
それから5ヶ月ほどたった今年の2月。
いつものようにピンセットでヤドカリたちに餌をやっていると、突然牡蠣殻の隙間から真っ赤なハサミが現われてイカの切り身をつかみとりました。
あの稚ガニが生きていたのです。
あれから何度も脱皮をしたのでしょう。
来たときの倍以上に成長して甲幅は軽く1センチを越えて堂々としたカニの姿になっています。
臆病で未だに全身を見せたことがありませんが、その用心深さのおかげで、クモハゼの目を盗んでここまで生きのびられたのでしょう。
それにしても何ヶ月もの間毎日水槽を眺めている飼い主の目からよくぞ隠れ通したものです。
長年フィッシュウォッチングを趣味にしてきて、海中で生き物たちの保護色や擬態を見破る技にはけっこう自信を持っていたのですが、狭い水槽に居るカニを見逃しているようでは一から修行をやり直さないといけませんね。

そんなことを思いながらさらに水槽を眺めていると、突然ガラス面のサンゴ砂が一粒動き出しました。
何事かと顔を近づけてよく見てみると、なんとサンゴ砂に脚が生えています。
立派な鋏脚もあります。
このカニにはまったく心当たりがありません。
いったい、いつどこから来たのでしょうか?
立ち上げから3年。
それ自体が命を持った海水水槽は不思議がいっぱいで本当に面白いです。

サンゴ砂の中を移動中のカニ
甲幅は5ミリほど体のわりに鋏脚が大きく先が黒い
種類は見当もつかない(^^; どなたか教えてくださいませ


さて、こちらは我が家の玄関脇の通路から生えたハクチョウゲの芽。
元々は塀際に挿し木で作った苗を定植しておいたのですが、残念ながら上手く根付かずに枯れてしまいました。
これが一昨年の秋のこと。
念のために翌春までそのままにしておいたのですが、地上部は完全に枯れきっていましたので、根っこごと引き抜いて、代わりにセージを移植しておきました。
ところがそれから半年後、少しはなれた砂利敷きの通路からハクチョウゲがひょっこりと芽を出したのです。
おそらく土の中にわずかな根が残っていて、そこから復活したのでしょう。
あきれた生命力です。
ハクチョウゲの葉は我が家のオカヤドカリたちの主食。
彼らもこの生命力にあやかってせいぜい長生きしてほしいものです。


ハクチョウゲは不老長寿の妙薬なのだ!
2007.3.17

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