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コラム:医者の卵イギリス留学記


 

コラム:医者の卵イギリス留学記 
第二回 不合格騒動
さて、面接から数週間たったある日、大学から連絡が来て一つ目のハードルをクリアしたことがわかった。ここで二つ目のハードルの条件も表に出た。

条件1:International Baccalaureate の試験で総合38点以上を取ること。
条件2:科学の試験で6点以上を取ること。


 ここで簡単に説明しよう。このInternational Baccalaureateという試験で取れる総合最高点は45点。一科目の試験の最高点はそれぞれ7点。6教科の試験を受け、それに加えて小論文、哲学の論文、ボランティア活動による3点ボーナスが獲得可能だ。
 ここまできたら、もうがんばるしかないでしょ!必要な点数さえとれればゴールは目前!さすがにズボラの私もがんばって試験勉強に励んだ。
 しかし、このInternational Baccalaureate には少し問題点がある。下の時間表を見てもらいたい。
    5月:International Baccalaureateの試験。
    6月:高校卒業。
    7月:試験結果発表。
    9月:大学スタート。
 International Baccalaureateは主にイギリスやヨーロッパの大学に行く人向けなのだが、この手の大学は試験結果によって入学の有無が決まるので、ギリギリにならないと大学に行けるかどうかさえわからない(海外の新学期は日本と違って8月下旬〜9月から始まるので)。私の場合はアメリカの滑り止めの大学に受かっていたので(生物学専攻で)、試験結果がでるまでどこで勉強するかさえわからない。しかも本命のイギリスの気候は寒く、ギリのアメリカの大学は暑い所にあったため、荷造りもできない歯がゆい状態だった。
 そしてついに試験結果がInternational Baccalaureateのホームページで発表された。
 結果は以下の通り。

 英語 6
 日本語 7
 科学 5
 数学 6
 生物学 7
 歴史 7
 哲学の論文、小論文、ボランティア活動 3
 トータル:41点

条件1:International Baccalaureate の試験で総合38点以上を取ること。

トータル:41点



 おっ!楽勝楽勝♪

科学 5


え?

科学 5


ちょっと待って。

科学 5

………。

科学 5

うそ…。

条件2:科学の試験で6点以上を取ること。

 さぁってと、早速新しく買ったあのかわいいピンクのキャミソールとビーチサンダルをスーツケースの中に入れよっか♪
っておい。
………今までの努力はなんだったんだろう。

*****

 しばらくショックで動けなかった私だったが、ちょっとずつ落ち着きを取り戻した。
 生物学者は職業として悪くないかもしれない。研究して、大発見をして有名になれるかもしれない。それよりも、ビーチのある所に行くことになりそうだし、きれいに日焼けして、かっこいい彼氏を作るのもきっと楽しいだろう。ひょっとしたらアメリカで人生の幸せってヤツがみつかるかもしれないじゃないか!
 そう自分を励ましたが、心の中では納得いかなかった。

 勇気を振り絞って父を呼ぶと、父はしばらくコンピューター画面を見つめて、大きなため息をして何も言わずに部屋を出て行った。
 待って!こうなるはずじゃなかったのに…!!!
 結果が出せなかった悲しみに親を失望させた悔しさが加わり、私の闘志に火をつけた。
 まだアメリカ行きが決まったわけじゃなかった。やれることをやってみようではないか。

 まず、「科学の試験結果は条件を満たさないけど、総合得点は高いし、入学を許可してください」とひたすら総合得点の高さをアピールしたe-メールを大学に毎日送りまくった。絶対に誰かの目にとまるようにさまざまなアドレスに電子メールを送りつけた。
次に、イギリスでバカンスを楽しんでいた大学受験カウンセラーに同情を誘うようなメールを送っては科学試験の再採点依頼をしてもらい、彼女が自ら大学へ赴き交渉をしてくれるよう、強引に話を進めた。
さすが21世紀。電子メールがあったからこそできたことばかりだ。IT革命万歳!
 こうして何日かたった。
 そしてついに大学から返事のe-メールが。

『はじめまして。私は入学を担当しているものです。あなたがおっしゃった通り、あなたは科学の点数が条件を満たしていません。しかし、あなたの総合得点の高さとすばらしい面接の結果を考慮した結果、医学部の入学を認めます。おめでとうございます。』
 さすがにこの時は喜びの叫びを上げちゃいました。

 入学担当の人に感謝の返事を書いて、家族や友達にこのことを報告して、カウンセラーに電話をして「きゃー!!!」と叫びあって、とにかく私の夢は救われたわけでこれは私を知っている人にとっても大イベントだったに違いない。
 今思うと、がんばって試験勉強をしてよかった。ちゃんと面接に行ってよかった。友人Aのアドバイスがあってよかった(友人Aがいなかったら今頃私はアメリカで生物学を勉強して、みじめな思いをしてろくな職業にもありつけず一人寂しく暮らして…(以下略))。面接官が私のウソを信じてくれてよかった(もしくは信じたフリをしてくれてよかった。いまだになぜそんなに感心されたのかがさっぱりわからん)。運がよくって本当によかった。
 医学部に受からない寸前だったわけだからこれはもう、死に物狂いで勉強をしなければ!新しく誕生した医者の卵は自分にそう誓ったのだった。

P.S. 後に大学受験カウンセラーからきいたことですが、採点の結果、やはり科学の点数は5だと。とほほ。

 

 

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