大学受験。高校から進学する誰もが通らなければいけない大事なステップ。 これで一生が決まるかもしれない…!受験をするみんながそう思ってピリピリしている。 国際学校に通っていた私も例外ではなかった。 私は幼いころから医者になるという夢があった。だから第一志望はもちろん医学部のある大学だった。色々調べた結果、イギリスの大学が一番自分にとっていいという結論に達し、そこの入学条件を調査した。 どうやらイギリスの医学部には二つの大きなハードルがある。それはズバリ、面接と試験結果だ。願書の内容がよかったら大学が面接を要求し、面接がうまくいけば入学に必要な試験の点数を指定してくる、というシステムだ。後は試験を終わらせて祈るだけだ。 私はいくつかの大学に願書を送ったが、面接の誘いが来たのはたった一校からだけだった。 「む…さすがにこれはまずいぞ…」ケツに火が付かないと勉強をしない私にとってこれは思わぬプレッシャーとなった。なんせこれは一発勝負。この大学に受からなければ私は滑り止めの学校(生物学専攻)に行ってみじめな思いをしてろくな職業にもありつけず一人寂しく暮らして年取って死んでいくだろう…というのはウソだが、私は医者以外の職業につく自分が想像できなかったし、想像をしたくもなかった。勉強をしないわりにはすごく医学部にこだわった。オールオアナッシング!一か八か!この学校に賭けるしかない!!!ズボラの鏡の私に闘志が湧いてきた。 さて、面接のために日本からロンドンへ飛んだ私。13時間のフライトも、ここ数日風邪をこじらせ高熱で苦しんでいるのも、ここにいる間イギリスのクソまずい飯を食べないといけないのも知ったことか。ここで失敗したら人生の失敗だ。私はそういう覚悟で面接に向かった。 そして面接当日。 地下鉄のストライキ。 さすがイギリス。ここって、天気以外にも予測不可能な出来事がいっぱいあるのね。よりによって今日、移動手段が断たれるとは… 否!私はあきらめんぞ!人生を地下鉄の労働者の気まぐれにめちゃくちゃにされるのは私が許さん!!! ピンチになるほど強くなる私は、なんとかタクシーを拾って面会所へたどり着くことができた。 しかし。 タクシーから降りたその瞬間、道の標識が目に飛び込んだ。 …こ、これは……! 解読不可能の暗号みたく標識につづられた異国の文字。あわてて辺りを見回すと、インド人ばかり。 どうしてロンドンが突然インドになっているのだ? ここは本当にイギリスの首都か?! しかし落ち着いてもう一度回りを見てみたら、面会所の病院がすぐ近くにあった。どうやらちゃんと目的地にたどり着いたらしい。 あとで分かったことだが、この医学部は東ロンドンにあるもので、移民や貧しい人が多く住んでいる場所でもある。一見最悪の環境だが、この手の勉強をする人にとっては患者不足がなく、国際的で逆にいい。病院そのものも、外見を見ればボロボロで汚い建物にすぎないが、実は長い歴史のある由緒ある病院だったりする。 さて、はりきりすぎたせいか、予定よりも一時間早く面接所ついてしまった私。待合室で隣の人に話しかけてみたらその人がケンブリッジ大学の生徒であることが発覚。 勝てねぇっ!相手が悪すぎる!やはり私の未来はこの病院みたくボロボロに… ズ―ンっと落ち込む私をよそにその人はにこやかに面接室に入り、数分後、にこやかに面接室を出た。 ………。 しばらくしてから、私の名前が呼ばれ、面接が始まった。 面接官は二人いて、一人はひげ+はげ+眼鏡のおっちゃん。もう一人は白髪+眼鏡+ちょっと怖い顔のおっちゃん。 お互いに自己紹介をして、ちょっとずつ面接らしい質問をきかれていった。なぜこの大学で勉強をしたいのか、どうして日本の大学で勉強をしないのか、医者とは場合によって患者さんの死を見届けないといけないがそれについてどう思うか、などなど。緊張して舌が思うように回らなかったが、なんとか一問ずつクリアしていった。 「では最後に。あなたはこの大学にどう貢献できると思いますか。」 「……へ?」まぬけな返事しかできなかった。 「もう一度ききます。あなたはこの大学にどう貢献できると思いますか。」 大ピンチ。 しばらく黙り込んで考えるフリをした。 「……。」 やばい。 「……。」 考えろ!私が実際に学校に貢献するわけがないではないか!でもそれを認めるわけにはいかない!じゃあ、貢献するタイプの人だったらどう答えるか?! 「!!!」 その時、私は数日前に読んだ友人Aのe-メールを思い出した。 『いい?面接の時は国際学校に通っていた事をウリにするのよ?!』 …ってことは、こんなところかな? 「私は小学生のころから国際学校に通っています。毎日、自分と違う文化の人と接触していますから、他人の文化や考えを理解して尊重することを自然と学ぶんです。人は自分と同じ文化の人とつるむ習性がありますが、私は自分の経験を生かして、違う文化の人たちとの架け橋になりたいと思います。それが、私がこの大学のためにできることです。」 「………。」 や、やべっ!ウソがばれたか?! 「Excellent!!! (すばらしい!)」 「……へ?」 「Excellent! Excellent!!!」はしゃぎまくるはげひげ面接官。 「あ……う。」ほっとはしているものの、なんとなく素直に喜べない私。 その意外なリアクションがあまりにも印象的で残りのインタビューをあまり覚えてないが、少なくともあのはげひげには気に入ってもらえたらしいので一安心。さっさとホテルに戻って久しぶりに熟睡した。
第二回へ続く・・・
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