私はサタンが稲妻の如く 堕ちるのを見ていた ― 『ルカの福音書』
〜T〜
「もう、びっくりしちゃったわよ。新一君に兄弟がいたのかと思ったわ。」 「んなわけねぇだろ・・・他人の空似だよ。」
新一にそっくりな少年は、一緒にやってきた少女となにやら口げんかをしている。 その様子を蘭と園子は遠巻きに見ていた。
「あ、そういえば聞いたことがあるわ。どっかの高校に新一君にそっくりな子がいるって。前に蘭が新一君と間違えたのも彼なんじゃない?今見ると納得できるわ。」 蘭が見間違えるのも無理ないわ、あれじゃあ。 そういえば、と蘭も思った。よく見ると、一緒にいる少女は、あの時新一だと思った彼と歩いていた子だった。 妙に納得した様子の蘭と園子とは別に、新一はいまだ動揺していた。
(あいつ・・・・キッド・・・?)
その少年は、前に何度か見た素顔のキッドにそっくりだった。
「ほら、行くわよ新一君。」
考えに没頭していた新一は、園子に腕を引かれて我に返った。
「あ?行くってどこに?」 「あの子のところよ。おもしろそうじゃない。」 「あの子って・・え?おい、ちょっと待て!」
新一の意思はお構いなしに、園子は新一を引っ張って少年のところへと連れて行く。蘭も興味があるのか、そのままついてきた。
「こんにちは!ちょっといいかしら?」
園子はまだ言い合いをしていた二人に話し掛ける。
「はい?あ!工藤新一くん!」 「へ?」
少女の方が新一を見て大声をあげた。突然自分を見るなり大声で呼ばれたので、新一も驚いた。
「はじめまして、私中森青子っていいます!」 「中森って・・・・あ、もしかして中森警部の?」
キッド専任と自ら豪語している二課の警部のことを思い浮かべる。
「はい、そうです!」 「え?なになに?」
園子が興味津々に聞いてきた。
「おめぇも会ったことあるだろ?キッド専任の中森警部。その娘さんだ。」 「ああ、キッド様の。」 「キッドさま?」
キッドに”様”をつけた園子に、青子は不満そうな顔をした。
「ところで、そっちの彼は誰?あなたの彼氏?」
どうやら園子の興味は、最初から新一そっくりな少年へ向いていたらしい。身を乗り出して尋ねた。
「ち、違います!」 「俺は黒羽快斗。このアホ子の幼馴染なんだ。」 「アホ子じゃないもん!青子だもん!」 「おめぇはアホ子で十分だよ。」 「なによ!バ快斗!」
また言い合いを始めた。その様子に新一と蘭は思わず笑ってしまう。
「ほら、笑われたじゃねぇか。」 「か、快斗が悪いんじゃない!」 「まあまあ、仲がよろしいことで。まるでどっかの誰かさんたちみたい。」 「「え?」」
園子はジト目で新一と蘭を見た。二人は思わず赤面してしまう。 まったく、どいつもこいつも、と園子は呟いた。
「な、中森さんたちも、宝捜しゲームに参加するの?」
蘭が話題を変えるように尋ねた。
「そうなんです。なんだかおもしろそうだったからv」 「それで、アホ子じゃ暗号解くのは無理だから、俺が呼ばれたんだ。」 「なによ!快斗だって楽しみにしてたじゃない!」 「あ〜、はいはいそこまでね。」
再び口論が始まりそうな雰囲気に、園子は二人の間に入った。そのことで青子は顔を赤くした。
「しかし、本当にそっくりだわね。」 「ちょっと園子、失礼よ。」
顔を覗きこんでくる園子に快斗はにっこりと微笑んだ。
「俺もよく言われるよ。」 「でも、絶対に工藤君のほうがきれいだと思うな。・・あ、ごめんなさい!きれいだなんて。」
申し訳なさそうに見つめてくる青子に新一は苦笑する。 青子は蘭に似ているが、蘭よりもころころと表情を変えると感じた。気にしてないよ、と青子に笑いかける。青子は真っ赤になった。
「でも、俺も工藤クンのほうが美人だと思うぜ?」
自分に笑いかけてくる快斗の顔をまじまじと見つめた。
(やっぱりあの時見たキッドに似ている。だが・・・)
無邪気、といってもいいような人懐こい笑顔のこの少年とあのキッドが、どうも重ならない。
(こいつはキッドじゃないのか・・・・・?)
しかし、なにかがひっかかる。
「・・・いち、新一ってば!」 「あ、わりぃ。なんだっけ?」
考えに没頭していたため、蘭が呼んでいたことに気づかなかった。蘭は呆れたように新一を見ている。
「ちょっと園子とトイレに行ってくるから、ここで待っててくれる?」 「ああ、わかった。」 「あの、私も一緒にいってもいいですか?」
その問いにもちろん、と蘭は微笑んだ。実はずっと行きたかったらしい。
「青子、一緒についてってやろうか?」
言ったとたんに快斗は青子に蹴られた。
「いてぇなぁ。冗談だよ。」 「もう、バ快斗!」
真っ赤になって青子は怒っている。女三人はそろっていってしまい、あとに新一と快斗が残された。
「お前らっていつもあんな感じなのか?」 「ん〜、そうかな。イテテ、本気で蹴るんだもんな。」
いまだに蹴られた場所を痛そうにさする快斗に、思わず笑ってしまった。
「・・・・お前さ・・・・」 「ん〜?なに?」
にっこりと微笑まれて、新一は言葉を詰まらせた。
「・・・・いや、なんでもない。」
顔をそらした新一に快斗はにやりと笑う。
「かわいいよな、蘭ちゃん。あれが、名探偵の守りたいもの?」
急に変わった雰囲気に、新一は驚いて快斗を振り向く。そこには、先ほどまでの 人懐こい笑顔はなかった。
「お前、やっぱり・・・・」 「まさか、こんなところで名探偵に会えるなんて思わなかったよ。」 「・・・・・嘘付け。お前に偶然なんてあるのか?」
新一は少し身構えて快斗へと話し掛ける。その様子に快斗は苦笑した。
「いや、今回のことは本当に偶然。俺が今回ここに来たのは別に用があったから。青子に誘われたのは都合がよかったよ。」 「なに?でも・・」
新一が何を言いたいのかを悟って、快斗は笑う。
「ああ、仕事に来たわけじゃないよ。今回ここに偉大なる”天使”さまが来るかもしれないと知ったからね。」 「天使?なんのことだ?」
しかし快斗はその問いには答えようとしなかった。新一はそれ以上は無駄だと踏んで追及するのをあきらめた。
「だったらなんでわざわざ俺に正体を明かすようなことをした?」 「いずれはばらすつもりだったからね。今日せっかく会えたんだし。」 「・・・・なぜ?」 「名探偵に話したいことがある。」 「話したいこと?」 「おや?園子さんたちはどこへ行ったのですか?」
新一の言葉を遮ったのは、優人だった。優人は、新一と快斗を見て、驚いたように目を見開いた。
「工藤君、君は双子だったのかい?」 「え?ああ、違いますよ。信じられないかもしれませんが、他人の空似なんです。」
苦笑いして答えた。
「そうなのかい?驚いたよ、そっくりだったから。・・・・・・・」
ふと優人が悲しげな目をした。
「里見さん?どうかしましたか?」 「あ、いや、なんでもないんだ。ちょっと思い出したことがあってね。」
無理に笑おうとする優人を新一は疑問に感じた。快斗は無言のまま静かに見つめていた。
「それよりも、園子さんたちはどこへいったのですか?もうそろそろ始めようと思うのですが。」 「お手洗いに。もうすぐ戻ってくると思いますよ。」 「ところで、今回のお宝ってなんなんですか?」
快斗が優人に尋ねる。
「それは、見つけてからのお楽しみということで。でも、がっかりさせるようなものではありませんよ。」 「そうですか。そりゃあ楽しみだなv」
こいつ、別件とか言いながら、しっかり宝も狙ってるんじゃねぇか。
「・・・・・本来ならば、あの人が持つはずだったものなんですけどね。」 「え?」
きゃあぁぁ〜〜〜〜
屋敷の方から、複数の叫び声が聞こえてきた。
(蘭!?)
優人はギクリと体を強張らせる。新一はまっすぐに屋敷の方へと走っていった。優人も何とかその後に続いて走り出す。 周りの人間が動揺してざわついている中で、快斗は冷静に屋敷を見詰めていた。
「現れたか・・”Lost Angel”・・・・・」
To Be Continued・・・ 01/12/9
いよいよ本編突入v
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