〜新月〜

後日談


Truth

 

 

  

 

     それは、日曜日の穏やかな昼下がりのことだった。

 『リリリ・・・リリリ・・・』

  突然鳴り響いた電子音に、本の世界にいた新一は現実に引き戻された。

  音の発信源を確認すると、彼は小さく溜息をつき、重い腰を上げた。

  「はい、工藤です。・・・」

 読書の時間を妨げられ、内心かなり不機嫌だった新一だが、電話の相手が馴染み    の刑事だったため、ひとまずそれを押し込める。

     しかし、話が進むにつれ、段々と彼の口元には笑みが刻まれていった。

 

 「はい、・・・分かりました。では、後程伺いますので・・・はい、失礼します。」

 そう言って受話器を置いた新一は、新しい玩具を見つけた子供のよう

に嬉々としてリビングを後にした。

 

     

 

 

 

 

 

耳を劈くような音を立てながら開く扉に眉根を寄せつつ、新一は外に出た。

    頭上には、欠けたところのない綺麗な満月が、青白い光を放っている。

    そう、まるであの気障な怪盗のように、白い光を・・・。

   

    あの電話・・・・目暮警部からの電話だが・・・・KIDの予告状の解読を依頼された。

    つい、一時間ほど前に、解読し終わったそれを中森警部に伝え、自分は

その足でここまで来たのだ。

    ここは、KIDの逃走経路の中継地点。・・・工事中のビルの屋上である。

    現在、予告された時刻の三十分前。自分の推理が当っていれば、後一時間もすればこの場所に奴が現れるはずだ。

 

    新一は、フェンスに寄りかかり空を眺めていた。

    満天の星空に、綺麗な満月・・・。

    月はあの怪盗の守護者と言われている。月に愛された怪盗・・・

    その怪盗に、自分は助けられたのだ。

    新一は、無意識に自分の唇をかみ締めていた。

    ・・・対等でありたいと思っていた。それくらいの実力はあると思っていた。

    しかし、それはただの思い込みでしかなかった。

    あの怪盗に、借りを作ってしまったのだ。自分は・・・。

 

  ふと、新一は瞳を閉じた。

    そして、次に瞳を開けたとき、そこには澄んだ強い光を放つ『探偵』がいた。

   

    「いつまで隠れてんだよ・・・」

 

    誰もいない空間に放つ声・・・。応えるものなど居ない筈・・・。

しかし、

  「やはり、お分かりでしたか・・・」

 

    返ってきたのは凛とした力強い声・・・。そして、先程まで誰もいなかった空間には、軽い破裂音と共に闇にも映える白を纏った男が現れた。

 

    「バレバレなんだよ。修行不足なんじゃねーの?」

 

    新一は不敵に笑って見せる。月明かりに照らされて、その姿はまるで

一枚の絵画のように美しかった。

    KIDはその新一の姿に息を呑む。しかしそれは、ポーカーフェイスで

隠されて新一には判らなかったが。

    

    「・・・珍しいですね。あなたが私の現場に来てくださるなんて。」

    

    そう言ってKIDは微笑む。『窃盗は管轄外』を自負する彼は、

なかなか自分の現場には来てくれないから。

    それに、新一はばつの悪そうな顔をして、KIDから目線を外す。

    暫くの沈黙の後、徐に新一は右手を差し出した。    

 

    「・・・・それ、返せよ。」

 

    『それ』が何を意味しているのかは、考えなくとも分かるのでKIDは

徐にポケットから本日の獲物を取り出した。

    時価云億円とまで言われるビックジュエルをまるで石ころのように扱うKID。

    しかし、その瞳には追求の光が宿っていることを、新一は見逃さなかった。

    恐らく、この目聡い怪盗は先程、唇を噛み締めていた自分の姿を

見ていたのだろう。

    新一は、一つ溜息を吐くと、KIDを正面から見据えた。

    

    「この前の借りを返しに来ただけさ。」

    

    そう言う新一にKIDは少し不思議そうな顔をした。

    新一の言う『この前』がいつのことかすぐには思いつかなかったのだ。

    しかし、それも一瞬のこと。次の瞬間には悪戯を思いついた子供のよう

に笑うと、弄んでいた手の中の石を躊躇いもなく放り投げた。

 

    放り投げられたその石を新一は慌ててキャッチする。ホっと息を吐くと

キっとKIDを睨み付ける。

    その、鋭い視線を受けてもKIDは平然と微笑んでいる。

が目は獲物を前にした獣のようだった。

 

    「借りを返す・・・ですか。返していただけるならもう少し誠意の篭っ

たものがいいですね。」

 

    『にやり』と擬音の付きそうな笑みを浮かべたKIDに、身の危険を感

じつつも新一は気丈にもKIDを睨む瞳に力を込める。

 

    「・・・今回は見逃してやるし、こいつは俺が返しておいてやる。これ

だけで充分誠意が篭ってると思うが?」

    

    新一がそう言うとKIDは笑みを深くした。そして、軽く肩を竦めた。

 

    「・・・やれやれ、私の気持ちはあの時申し上げた筈ですがねぇ。」

 

    そう言うと、KIDは新一の視界から消えた。驚いて辺りを見回してい

た新一は不意に背後に気配を感じて振り返ろうとした。

    しかし、それは叶わなかった。何故なら背後に廻ったKIDが後ろから

新一を抱きしめたから。

    一瞬、何が起こったのか分からなかった新一だが、自分の置かれている

状況を把握すると急いで距離を取ろうとKIDの胸を押し始めた。

 

    「っの、離せよこのばかKID!!」

 

    しかし、どんなに抵抗してもその腕が解かれることは無かった。

仕方なく、新一は息を吐くとKIDを睨みつけた。

    そして、ふと気になった疑問を口にしてみた。

 

    「・・・で?何なんだよ。さっきの『私の気持ち』ってのは!」

 

    この質問にKIDは多少なりとも落胆した。

    ・・・多分、分かってないだろうなとは思ってたけど、ホント、鈍いよなぁ〜・・・

    

    そして、KIDは意を決したように口を開いた。まぁ内心の葛藤はポー

カーフェイスで隠されていて新一には判らなかったが。

 

    「貴方は、最早私のもの、ということですよ。」

    「なっ!・・・ん」

 

    言うや否やKIDは反論しようとした新一の口を己のそれで塞いだ。掠

めるようにされたそれに新一は呆然とKIDを見た。

    そんな新一の様子に満足したKIDは新一から離れると

優雅に一礼して見せた。

 

    「この間の『借り』は確かに返していただきました。」

 

    そう言いながらKIDはフェンスに飛び乗り、背中の翼を広げた。

    機械的な音にはっと我に返った新一は慌ててKIDを振り仰ぐ。

 

    「!KID!!」

    「あ、そうそう、あんたがどんなに否定しても俺は必ず盗んでやるぜ。

・・・あんたの『心』をな!」

 

    そう言いながらKIDはフェンスを蹴り、眼下に身を躍らせた。

    

    一人、屋上に残された新一は、呆然とその姿を眺めていた。

    そして、盛大に溜息を吐くと空を見上げた。

    暫く、無言で眺めていたが、ふと新一は笑みを零した。その顔は、どこ

か心の痞えが取れたようにスッキリしていた。

    

    夜空には、満天の星と美しい満月・・・

    新一は、その月を見ながら更に笑みを深くする。

 

    ・・・そう簡単に盗らせるかよ!・・・・

 

 

    

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・そんな、探偵の姿を月の光だけが優しく包んでいた・・・・・・・・ 

    

     

 

 End

 

 

 

     麻希利様・・・遅れて申し訳ありませんでした!!

・・・やっと書けました。

とりあえず、今年中に送れてよかったぁ(T▽T)

でもほんとに、「お前何書きたいんだ?」みたいな感じですね。

こんなんでも貰って頂けると嬉しい限りです。

因みに、題名と内容には何の関連性もありません!!

ありがとうございます!
後日談まで頂けるなんて嬉しいです!
森羅さんのキッドさまはカッコいい〜
キッドファンの麻希利はもうホクホクです(^^) 

 

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