人通りのない路地裏に不気味にたたずむ黒い影・・・・

そのあしもとには、闇夜にも鮮やかに浮かび上がる紅た、黒い塊・・・・

影は、その塊を冷ややかな瞳で一瞥し、そのまま闇の向こうに姿を消した。

〜新月〜

〈前編〉

 新一は、黙々と作業に没頭していた。
 その瞳がたたえる眼光は鋭く、何一つ見逃すまいとしている。

 今、巷を騒がせている連続殺人事件・・・・。
 手口は残酷で、心臓をナイフのような刃物で一突きにして殺した後、まるで儀式のように身体の一部を切り離し、持ち去るというもの。

 これだけ、大胆な犯行を重ねているにもかかわらず、犯人に繋がる証拠がえられず、困り果てた警察が、彼の操作の協力を依頼したのだった。

 

「・・・何か判ったかね、工藤くん?・・・」

 そう聞いてきたのは目暮警部。
 もう6人もの被害者が出ているのに、なんの証拠が出ない事に焦りを感じているのだろう。

 新一は現場に向けていた瞳を上げ、警部に向ける。
 そして、軽く頭を振ると申し訳なさそうな顔で告げた。

「今のところは何も・・・・申し訳ありません。お役に立てなくて・・・。」

「いや、君のせいじゃないさ。気にせんでくれたまえ・・・。」

 そういう目暮の表情はわずかだが失念の色が浮かんでいた。

 新一は苦笑すると、いくつか警部に助言し、わかったことがあり次第、連絡をくれるように頼みその場を後にした。

 その光景を見つめる怪しい視線・・・。
 しかし、それは大勢の野次馬のそれに巧妙に隠されて、視線には敏感なはずの彼も気付くことはなかった。

 

 

 

 

『・・・・・・・・・・見つけた・・・・・・・・・・』

 

 

 

 

 目暮からの電話が入ったのは翌日の午後4時44分のことだった。
 丁度学校からの帰宅途中だった新一はその足で警視庁へと向かった。

 指定された部屋に入ると先にきていた目暮が席を勧めてくれた。

「それで、目暮警部。何か判ったんですか?」

 挨拶もそこそこに早速本題を切り出す新一・・・・。
 ここ最近は、新たな事件は起こっていない・・・。
 ならば、わざわざ彼を呼び出す理由はそれしかない。

「あ、あぁ。それなんだが・・・被害者は全員、殺される数日前に宛名のない不審な手紙を受け取っていたことが判った。」

「不審な手紙・・ですか?」

「あぁ、これだ。」

 そう言って胸ポケットから取り出したのは、どこにでもある白い封筒・・・。
 新一はそれを手に取ると暫くそれに視線を落とし、徐に中身を取り出して目を通した。中身も一般的な飾り気の全くない白い便箋・・・。
 紙自体は変わったところはまるでない物である。
 変わっているのは、それに書かれているもの・・・。
 文字ではなく、数字の羅列だった。

「受け取った本人達は、子供の悪戯だと思って相手にしてなかったそうだ。」

 目暮の説明を聞いている間も新一は便箋から目を離さない。
 暫くしてこの空間に沈黙が降りる。
 不意にそれを破ったのは新一だった。

「他に判ったことはありますか?」

 その言葉に目暮は小さく溜息をついて首を横に振った。

「残念ながら、今はまだここまでしか判っておらん・・・。わざわざ呼び出したのにすまんな工藤君・・・。」

 目暮の顔には疲労の色が濃かった。
 無理もない、と新一は想う。
 おそらく、ここ最近は寝ずに捜査しているはずなのだから。

 新一は苦笑して頭を振る。

「いえ、かまいませんよ。それより、また何か判ったら連絡してください。」

 そう言って席を立つ。

「あぁ、君も何か気付いたら連絡してくれたまえ。」

「はい。もちろん。」

 

 そうして、目暮と別れ警視庁を出た。
 家まで贈ろうという目暮の申し出は丁重に断った。
 まだ明るかったし、その分の時間と人を捜査の方へまわすべきだとかんがえたからだ。

 駅から歩いて家まで帰る。
 閑静な住宅街に建つその家は、遠くからでもよくわかるほど大きい。
 
 門を開け、鍵を取り出そうとして気がついた。
 扉の下に何かが挟まっている・・・。
 
 拾い上げて見ると、それは見覚えのある白い封筒・・・。
 新一は急いで扉を開け、自室に駆け込む。

 デスクの引き出しからペーパーナイフを取り出して慎重に開封する。
 中から出てきたのは一枚の便箋・・・。

 それに書かれていたのもまた、見覚えのある数字の羅列・・・。
 暫くそれに目を通すと、新一は知らず口元に不敵な笑みを浮かべていた。

 わざわざ向こうから来てくれるとは・・・・ね。

 

 手紙には

25・15・11・11・01・07・15

15・13・01・05・14・15・13・15・20・21

01・15・09・08・09・20・15・13・09・23・15

09・20・01・04・01・11・21

と書かれていた。これをアルファベットに書き換えてローマ字読みすると・・・

『四日後 お前の持つ 青い瞳を 頂く』

となるのだ。

 ・・・・・・・・・・誰がそう簡単にくれてやるかよ・・・・・・・・・・ 

 新一は一層笑みを深くし、その瞳には澄んだ強い光を宿していた。

 

 

 

 

 

 

 あの手紙が来てから今日で四日目・・・・・。

『ルルル・・・ルルル・・・・・・』

 朝早くから鳴る機械的な音にこの家の主は覚醒を余儀なくされた。

 ・・・誰だよ、こんな朝っぱらに・・・

「・・・はい、工藤です・・・」

 内面の不機嫌を押し隠して、電話に出る。

『あ、工藤くん?高木だけど・・・』

 受話器の向こうから聞こえてきたのは、馴染みの刑事の声・・・。
 いまだ覚醒しきっていない頭で二言三言話していたが次に出た名詞に一気に眠気も飛び去る。

『実は、二課の人からキッドの予告状の解読を、工藤君に頼みたいんだって・・・。それで今からこっちに来てもらいたいんだけど・・・来られるかい?』

 泥棒には興味のない新一だが、キッドの予告状の暗号を解くのは好きである。
 丁度、今日は休日でもあるので、新一は二つ返事でそれを引き受けたのだった。

 

 

 

 

 予告状をあっという間に解読してのけた新一は、今、古い廃ビルの屋上にいる。
 今現在、一人になることは最も危険なことは充分承知していた。

 今日はあの殺人犯の予告日・・・。
 しかし、今の新一には己の好奇心のほうが勝っていた。

 時計の針は、予告時間から一時間経ったところを示している。
 予想が正しければそろそろ現れるはず・・・。

「・・・・こんなところにいたのか・・・・」

 ふいにかかった男の声・・・。
 それと共に頭部に走る鋭い痛み・・・。

 殴られたと認識したときには、すでに意識は闇の中だった・・・・。

 

後編


麻希利さま!!おまたせして申し訳ありませんでした!!
しかも、待たせたくせに前編しか書けてないなんて!!
でもおかしいな・・・当初の予定では読みきりのはずだったのに・・・
・・・おまけにキッド(快斗君)出てきてない・・・・(汗)
それに、かぁ〜なり中途半端な切り方・・・(滝汗)
こんなのでも気に入っていただけたら幸いです。
後編なるべく早く書き上げますね。

ありがとうございます〜v
いやもう、とーっても気に入りました!
なんたって事件もの!しかも新ちゃんが狙われている!
きゃあ〜新ちゃんがあ〜〜!
新一くんは身の危険よりも好奇心の方が優先されるんですよね。
ああ、快ちゃんやまわりの方々の苦労が忍ばれる・・・
こんな面白いサスペンスなら長い話でも大歓迎です!
 後編楽しみにお待ちしておりますねv  麻希利

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