明日があるなら 第4話








世話になってる・・・・・・?
その言葉は雅彦の心をちくりと刺激した。
最初は小さな刺激だったのに、よく考えると、葉月の行動の全てがその言葉からきているように思えたのだ。
雅彦は葉月を世話してると思っていなかった。
少なくとも、愛情を感じ始めてからはそんな気持ちのかけらすらない。
しかし、葉月は違うのか・・・?
世話になっているから家事をする・・・?
世話になっているから雅彦の世話を焼く・・・?
世話になっているから雅彦に抱かれる・・・?
葉月が自分に愛情なんてものを抱いていないのか・・・?
ひたすら雅彦のために毎日を送る葉月。
だから雅彦は試したのだ。
通販で購入したおもちゃを使って葉月を辱めた。
抵抗すれば止めるつもりだった。
しかし葉月はだまって雅彦に従ったのだ。
だからプレイ中に問いかけた。
『こういうの好きなのか?』
葉月は首を横に振った。
歯を食いしばりながら。
イヤなら止めてくれと言えばいいじゃないか。
もっと優しく愛して欲しいと言えばいいじゃないか。
雅彦は待っていたのに。葉月の言葉を・・・・・・
行為は日々エスカレートしていったが、葉月はそれらすべてを受けいれた。
愛撫することもなく性急に身体をつなげ、自分の欲望だけを満たす行為。
慣らさずに挿入することもあった。
シーツを赤い染みを見るたびに心が黒い靄に覆われる。
しかし、痛みに顔を顰める葉月を気遣うどころか、その表情は雅彦の嗜虐心を煽るだけだった。
時々見せる雅彦を憐れむような表情。
憐れむべきは葉月のはずなのに、どうしてそんな目で見るんだ・・・
ますます苛立ちが隠せなくなり、雅彦は葉月を酷く扱った。
そのうち、帰宅するのが億劫になった。
葉月の顔を見ると、激情を抑えられない自分がいた。
どんなに酷いことを言っても、惨い仕打ちをしても、葉月はだまって耐えていた。
おそらくは。
雅彦に『世話になってる』から。
雅彦に出て行けと言われたら困るのは葉月だから。








***   ***   ***








雅彦はひとりで年を越した。
それでも雅彦は葉月のことを忘れることはできなかった。
無能な上司のせいで相変わらず仕事は忙しく、疲れた身体で帰宅すれば、真っ暗な家と冷えた空気が迎えてくれるだけ。
掃除をする気にもなれなくて部屋は散らかり放題だし、以前は何とも思わなかったか空間がやけに広く感じた。
外食が増え、寝に帰るだけの毎日。
しかしなかなか寝付けなくて、知らず知らず酒量が増えていった。
もう認めざるを得なかった。
寂しいと心が泣いていることを。
葉月に会いたいと心が叫んでいることを。
たとえ葉月が雅彦のことを何とも思っていなくても。
酷い仕打ちをした男のことなんてもうすっかり忘れているかもしれなくても。
仕事が一段落すると、雅彦は溜め込んでいた有給休暇を取得した。
興信所を使い、自らも葉月の行方を追った。
手がかりはほとんどなく、雅彦ができることはないように思えたが、じっとしていられなくて、とにかく歩き回った。
しかし、葉月を見つけ出すことはおろか、何の情報も得ることはなかった。










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