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<第七話>






ひとりだと風呂上りにはひんやりするエアコンの作り出す冷たい空気が、さらに人肌を温かく感じさせる。
ぴったり合わさったカーテンの、ほんの少しの隙間から差し込む明かりだけでは、まだ暗闇に慣れない目で崎山を捉えることができず、耳に入る吐息と衣擦れの音や、肌にふれるくちびるや指先の感触を意識せずにはいられない。
おれの太腿のあたりを跨いで腰を下ろした崎山は、身体の脇に肘をついて何度も小さなキスを繰り返しながら、Tシャツの中に手を滑らせてきた。
ゆるゆると脇腹を撫でる指の動きが、卑猥でたまらない。
「んっ・・・」
その指が胸の小さな粒を掠めたとき、不覚にも声が漏れた。
これじゃまるで小説の中の淫乱な受けと一緒だと、くちびるを噛んだ。
おれもここで感じるのには抵抗がある。
やはりオトコたるのも・・・なんて考える間もなく、おれの声が崎山に火をつけたのか、今度は目的を持って指が動き始めた。
言いようのない感覚が身体を走りぬける。
こそばくて、でもやめて欲しくない。そんな変な感じ。
変な声が漏れそうで口をギュッと結んでいたら、掬うようにくちびるを舐められ、思わず開いた口からは、予想以上に甘い声がこぼれた。
「友樹はココ感じる系なんや・・・」
クスリと笑われたような気がして、羞恥にたまらなくなり、両腕で顔を隠した。
「んなとこばっかり・・・さわん、んアッ・・・」
おれってダメじゃん・・・すでに抗議の言葉すらまともに利けないでいる。
さわるなといいたいけれど、動きが止まるともどかしくなるのはウソではなくて、着ていたTシャツを捲くられると、素直に両腕を上げて、その動きを助ける。
そのまま覆いかぶさってきた崎山の身体は、温かくてキモチよかった。
身体中に施されていくキスは、おれの身体を探るように優しく、そして反応した部分には執拗に与えられてゆく。
耳朶や首筋、鎖骨のあたりなんて、普段は意識もしないのに、舌で愛撫されるとどうしようもなく身体が震えた。
感じる系だと言われた胸に濡れた舌を這わされると、下半身に血が集まるのがわかる。
まだ下半身には指一本ふれられてもいないのに、ドクドクと波打っている。
「だからっ、そこばっかヤメロって!」
「でも、キモチええんやろ?」
キモチがいいのは確かだけれど、もどかしいのも確か。
抗議の意味もこめて、耳を引っ張ってやると、「イッテ〜」と白々しい声が聞こえた。
「なに?こっちもさわってって催促してんの?」
身体をずらせて耳元で囁かれた声は少し掠れていて、情欲に満ち溢れていた。
ギュッとハーフパンツの上から握られて揉まれると、さらに硬さを増してゆく。そのまま脱がしにかかるから、またもや腰を上げてその動作を手伝った。
「もうこんな硬くして・・・」
直接握りこまれてゾクリとした感覚が全身に広がった。
「うるせぇって・・・」
崎山の視線を感じ、あまりの恥ずかしさに目を閉じた。
全裸にされて、中心を撫でられ、いやその前から半勃ちだったのだが、そんな姿を見られて、どんな顔をしていいかなんてわからない。
キモチ悪くなんてないし、自然と溢れる濡れた声が快感を物語っているのだろうけど、それでもまだまだ行為に夢中になれず、羞恥が先に立つ。
なにしろ、こうやって他人と肌を重ねるのも初めてで、記憶を辿ってみれば父親に抱かれながら風呂に入った小学校低学年以来である。
それに、自分では何もできず、キスされ、愛撫され、勝手にどんどん進んでゆく行為についていけないのもあった。
「友樹・・・?」
気が付けば、崎山が膝立ちの状態で真上から覗きこむように見つめていた。
「キモチよくない?」
見上げた崎山の双眸は真剣そのもので、若干の不安を含んでいるように思えた。
慰めるように垂れた髪に指先を伸ばすと、同じようにおれの脇についていた右手がおれの頬をやんわり撫でる。
「そんなことない。けど・・・ちょっとついていけてないのはホント。心だけ置いていかれてるみたいでさ。おればっかされてる感じだし、おれももっとあんたにふれたいかなって・・・」
何か今のおれって・・・素直じゃない?
自分でもびっくりした。さっきのこいつの眼差しにやられちゃってるのかもしれない。こいつを抱きしめたくて仕方なかった。
ベッドに手をついておれを見下ろす崎山と、おれの間には数十センチの距離があって、もどかしい。
ずっと身体の脇にだらりと置かれたままだった腕を崎山の首に回すと、グイッと抱き寄せた。
重なる胸が温かくてキモチがいい。
シンクロするかのようなふたりの鼓動が愛しかった。
「人って温かいよね・・・おれ今日初めて知った。相手があんたでよかったよ」
崎山がなんとも言えない複雑な表情をするから、おれは今度は自分からキスしてやった。
「あんたも脱いでよ」
まだズボンを穿いたままの崎山の、その布地さえ忌々しくてそう言うと、崎山は笑みを浮かべながら、ズボンとパンツを脱ぎ捨てた。
「おれもあんたのことキモチよくしてあげたいんだけどよくわかんないから、教えてよ」
散々勉強してきたけれど、どうやら小説のようにはいかないことは、ほんの少しの経験でわかった。
「その前に・・・いい加減『あんた』っていう呼び方やめへん?」
実はおれも気になっていたのだが、照れくさくて名前で呼べなかった。かといってリカのように『さっきい』なんて呼べない。
「じゃあ何て呼べばいい?」
尋ねるのは卑怯なんだけど、自分からは無理だから、どう呼んで欲しいのか問いかけた。
「『さっきい』は?」
「イヤだ!ぜってえヤだ!」
そう答えるのがわかっていたのだろう。崎山はクスクス笑うと、再び身体を重ねてくちづけてきた。
「名前でいいやん。『しんのすけ』でもなんでも・・・」
そう言って、今度は深くくちづけられた。絡めあう舌でさえも愛撫であることはとっくに学習済みで、素っ裸になってダイレクトに当たっているお互いの下半身の反応は生々しいが嬉しくて。
「新之助・・・」
くちびるが離れた瞬間、口からこぼれた崎山を呼ぶ声は、驚くほどに掠れていて、熱かった。
上から腰を擦り付けられ、どんどん形を変えていく中心が、崎山のソレと擦られ、濡れた音を出している。
「友樹もおれをキモチよくしてくれてるやん。わかるやろ・・・?せやからなんも気にしんでええ。一緒にキモチようなろう」
貪るような激しいくちづけに、おれは心を解放し、快楽を追うことに集中した。










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