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<第六話>






風呂から出てきた崎山は、上半身ハダカで、パジャマ代わりにしているのだろうスウェットのパンツだけを身につけていた。
上半身のハダカなんて見慣れているのに、今日は見ていられなくて逃げるように風呂場に飛び込んだ。
一人暮らしのマンションには珍しくセパレートタイプの風呂の浴槽には、きちんと湯が満たされていて、ほんのり水色に染まった湯船からはミント系の香りがした。
身体を洗って、特に念入りにアノ部分も洗って、ザブンと湯船に肩まで浸かると、いつもはリラックスするはずのバスタイムなのに、ドキドキ鼓動が高まり緊張を隠せない。





ここから出たら・・・あいつに・・・・・・





さっき見たハダカが頭にちらつく。
細身の割に結構いいカラダつきをしているのだ。
着やせするタイプらしい。
余分な肉はなくて、でもほどよく弾力性があって、抱きしめられるのとキモチよくて。
水色に染まった自分の身体を見下ろしてみた。
中学まではクラブをしていたけれど、高校に入ってからは優と一緒に帰宅部だから、運動らしい運動は体育の時間だけ。おまけに今年は受験で、この夏も一度も泳ぎにいっていない身体は白くて、決して太ってはいないけれど運動不足なのか、ぷよっている気がする。
人にお見せできるような身体ではない。少しくらい鍛えておけばよかったと後悔したってもう遅い。
あと数分後には・・・





そういえば、服、どうするんだ?
パンツはやっぱりそのまま履くんだよな?
まさかノーパンじゃ・・・





きちんと全部身につけたほうがいいいのだろうか。
でもしっかり着込むのもヤル気なさげでイヤな感じがする。
かといって、パンツだけっていうのも、ヤル気マンマンて感じで・・・
ブンブンと頭を振った。
いろいろ考えすぎて頭がのぼせてきそうだ。
それに、恥ずかしがっても仕方ない。
気合いを入れると、ザバンと思いっきり立ち上がり、洗面所へと出た。
すると、洗濯機の上に、新しいトランクスと、きちんとたたまれたTシャツとハーフパンツが用意されていた。Tシャツを羽織ると肌触りがよくて、柔軟材が使われているのがわかる。
そういえば、トイレにかけられているタオルも、いつだって柔らかくて清潔にしてあるのを思い出した。
案外几帳面でマメな性格なんだと、崎山の生活を感じて、くすぐったくなった。
頭をふいて風呂を出ると、目に飛び込んできたのは・・・白く四角い物体・・・布団だった。
1DKのこの部屋は、本来はフローリングの洋室らしいのだが、崎山の好みなのか畳が敷かれて和室にリフォームされているから、ベッド派ではなくて布団派だと聞いていたけれど、いざ目の前にすると、異様に艶かしい。
しかも、一組しか敷かれてないし!
見慣れた部屋が、どこかの連れ込み宿のように感じるオレは、自分が思っている以上にエロい人間なのかも知れない。
崎山は、風呂から出てきたときと同じく上半身ハダカで布団の上にうつ伏せになって、雑誌を捲っていた。
どうしていいかわからなくて突っ立ったままのおれにニコリと笑いかけると、雑誌を閉じて脇に片し、おれを呼んだ。
おれを見る目が優しくて、おれは引き寄せられるように布団の上に座り込んだ。
しかも、新婚初夜の花嫁みたく、正座してしまっている。
「緊張してる?」
身体を起こしておれに向かい合って座ると、意地悪く尋ねる。
「あ、当たり前じゃん」
もう強がってはいられなかった。
なにしろ心臓のバクバクが聞こえそうなほど気持ちが高ぶっているのだ。
「お、おれは経験ないし・・・あんたは慣れてるかも知れないけど」
言ってからしまったと思う。
イヤミに聞こえなかったろうか。
この期に及んでケンカはもうたくさんだ。
その機嫌を伺うようにそっと覗くように見上げると、いつになく真剣な眼差しでおれをじっと見つめていた。
おれは、何か言いたげな双眸を、問いかけるように見つめ返した。
「おれ、初めてやねん」
「へっ?」
あまりに予想外な言葉に、頭から抜けるような間抜けな声になった。
「だからっ、おれも初めてやって!」
「初めてって・・・」
付き合った人もいるし、セックスもしたって言ってたよな・・・あれは夢か・・・?
いぶかしげな視線を送るおれに気づいたのか、もう一度真剣な顔で、おれの目をじっと見つめた。
「セックスの経験はあるけど人を抱いたことはない。今までずっと抱かれるほうやったから」
崎山ははっきりとそう言った。
「だ、だ、だ・・・」
何ですと?こ、こいつは、いわゆる受けだったというのか!
ってことは、お、おれがっ、こいっ、こいつを・・・・・・
いや、オトコとしてはそのほうが・・・いや、でもこいつになら抱かれてもいいと思って・・・
流行りの年下攻めってヤツか?
でも絶対ありえないってそういう系の話は飛ばしてたっけ。
つうかその前に、どうしておれは自分が抱かれる側だって思いこんでんだ・・・?
崎山の台詞やおれの気持ちがぐるぐる頭の中を駆け巡る。
どうする、おれ・・・?
唖然とするおれの髪を、ふわりと崎山の指が掠めた。
まだ湿ったままのそれを、くるくると指で弄んでいたかと思うと、その指がツーッっと頬をなぞり、掌全体で包み込む。
「楽やってん。寝っころがってたら気持ちようしてもらえるし。相手に何かしてやろうと言う気にもならへんかったし、セックスしてるくせにセックスに対して冷めてるっちゅうか。相手のこと嫌いじゃないけど好きじゃない。気持ちようなればそれでいい、そんな風に思ってた。別にツッコまれることにも抵抗なかったしな」
ストレートな物言いに赤くなってしまったおれに崎山はクスリと笑った後、真っ直ぐと見つめてきた。
「でも、おれは友樹を抱きたいと思う。何でやろな、友樹のことは、めっちゃ欲しいって思うねん・・・あかんか?」
聞かれてイヤだなんで言えるわけがない。
突然の告白にびっくりしたけれど、おれはこいつに抱かれたいと思っていたのだから。
おれは頬に添えられた手を取ると、首をブンブンと振った。
「だからっ、イヤじゃないって!今日何回目だと思う?もう言わせるなって!」
拗ねたような口調で言ってやると、崎山は今日見た中でいちばんの笑顔をくれた。
「おれ、友樹を好きになってよかった・・・ほんまよかった・・・」
繋いだままだった手を引き寄せられると、くちづけられた。
「めっちゃ好きやから・・・」
くちびるがふれあうくらいの距離でささやかれ、どうしようもなく目の前の人が愛しくなる。
あまりに至近距離で焦点も合わないけれど、その瞳は澄んだようにキレイだった。
おれは、上品な薄いくちびるにもう一度ふれることで、返事をした。
「電気は消してよね」
崎山はクスリと笑うと立ち上がり明かりを消した。










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