mean










<第三話>






それから数日。いまだ崎山から連絡はない。
おれも気まずくて、あれから部屋を訪ねることができないでいた。
冷静に考えれば、あの時、シャワーを浴びたいと言えばよかったのだ。
別に家で浴びていかないといけないことはない。崎山の部屋で拝借すればいいだけだったのだ。
それくらいの中断は・・・例の本でも頻繁にあるシチュエーションだ。
しかし、あまりに舞い上がっていてそんなこと考えもつかなかったし、タイミングもわからなかった。
それに、汚いからキレイにしてきますって感じがたまらなく恥ずかしかった。
ソコを使うんですと主張しているようで。
そんなことはかまわないと思えるほど、恋愛にはなれていないのである。
あの日以来、勉強にも集中できなくて、全くダメダメになってしまっていた。
そこで、恋愛に関しては先輩である優に話を聞いてもらおうと、麻野家を訪れることにしたのだ。
優・・・ひとりだといいんだけどな・・・・・・
こんな悩みを三上先輩に聞かれるのはたまらなく恥ずかしい。
もしかして、崎山からことの一部始終を聞いて知っているかもしれないのに。
それに今まで散々先輩をからかってきたから、何だか笑い飛ばされそうで気が重い。
よくよく考えてみれば、馬鹿馬鹿しい悩みなのだ。
シャワーできれいに準備してなかったから、えっちを断りました。
そしたら気まずくなりました。










―――マジ、バカバカしい・・・










でも、そんなバカバカしいことで勉強も手につかず、毎日悶々としているおれは、マジどうしようもない。
ほんとは、優に話すのも恥ずかしいのだ。
なぜなら、優が先輩と両思いになったとき、おれはさも恋愛の達人のように、優に初えっちのことを講義し、アドバイスまで施した。
全部、本から仕入れた文字だけの情報のくせに。
そして、優は、見事(?)先輩とのえっちに成功した・・・らしい。しかも、両思いになって4日後というスピードロストバックバージンだ。
優は全くと言っていいほど恋愛には慣れていない。
告白されたことも(おれが陰から壊していたのだ)、告白したこともなかったに違いない。
人を好きになったのも先輩が初めてらしいし、付き合うのも先輩が初めてだ。
逆に先輩は、外見がああだからかなりモテたし、据え膳は食いまくるといういささか不名誉なウワサもあったくらいだし、優のお姉さんのはるかさんとも付き合っていたし、恋愛経験はかなり豊富なはずだ。
そんなふたりが付き合ったら、同性同士というのにこだわりがなければ、早い段階で優に手を出してくるだろうというおれの予想は見事に的中ということになる。
優に、いろいろ知識をふきこんでおいてよかったと心から思ったものだ。
ウキウキ気分が見てとれた先輩に、がっつかないようにと釘を刺したくらいである。
そのおかげで何だか少しもめたらしいけれど、ふたりはいたって順調である。あっちのほうも順調なのであろう。
しかし、ふたりには全くセクシャルな匂いがないのだ。
一緒にいると、こちらが目を覆いたくなるくらいにラブラブ全開なのだけれど、不思議といやらしさがない。
お手手つないで帰りましょくらいの、清い交際にしか感じられないのだ。
一度意地悪して優に聞いてみたことがあるが、真っ赤になったことを思えば、ヤルことはヤッているのだろう。
まぁ、あの先輩が、我慢するわけないわな・・・
人の恋愛話を聞くのは好きだけれど、いざ自分のことを話すとなると、やはり気が重い。
けど、聞いておきたいことは山ほどあるのだ。










やっぱり、ヤル前はシャワー必須だよな?
もし、なし崩しに突入した場合は、どうする?
やんわり中断する方法は?
それに・・・おれはどうすればいいんだ?
何冊も何冊も参考にと読んだリカの本の、いわゆる受けと呼ばれるヤツは、黙って攻めのヤツにされるがままだったけど、それでいいのか・・・?










そんなことばかりを考えているうちに、麻野家の門前に立っていた。
やっぱり、こんなことを優に話するのは・・・恥ずかしいし照れてしまう。
同時に、優にしかできない話でもあるんだと、後押しする自分もいる。
とにかく、ずっと会ってないし、会うだけでも会おう。
今日は、なかなか決心がつかなかったから、連絡もせずにやってきた。
居て欲しい気持ち半分、留守であって欲しい気持ち半分のまま、チャイムを押した。





―――返事がない・・・





なんだ、留守かと若干ホッとした気持ちできびすを返そうとして思い出した。
そういえば、チャイム壊れたって言ってたよな・・・
ダメもとでと、門の中に入り、玄関ドアを引いてみた。
なんだ・・・いるんじゃんか・・・・・・
すんなり開いたドアに複雑な気持ちを抱えたまま、玄関へと入った。









back next novels top top