true love









その6








「おれが初めてなんだろ・・・?おれが・・・あんたにとっては正真正銘の初めてなんだろ・・・?」
確かめるように、耳元で囁いた。
「そうや・・・友樹がおれの初めてや・・・苦しい想いもしたし欲望を満たすために抱き合ったことはある。それは否定できん。せやけどこんな風に幸せな気分にさせてくれるのは・・・友樹が初めてや。・・・こんな風にあったかく抱きしめてくれるのは友樹が初めてや・・・」
心なしか、声が震えているようで、おれはとんでもなくこいつが愛しいと思った。
「じゃあ・・・おれにもふれてよ・・・抱きかえしてよ・・・」
「―――ええのん・・・?」
「いいに決まってるだろ・・・?」
崎山の手を離れ、ガツンと下駄がアスファルトにぶつかる音が響いたと同時に、ギュッと力強い腕を身体に感じた。
「わがままばっかり言ってごめん・・・」
素直に謝罪の言葉が口から飛び出した。
「何であやまるん?何にもわがまま言うてへんやろ?おれが友樹のことわかってへんだけや」
「それは―――」
違うという言葉は・・・重ねられた崎山のくちびるに飲みこまれた。
不意をつかれた、突然のキスだったけれど、おれはごく自然にそれを受け入れることができた。
遠慮がちにくちびるをなぞる崎山を誘うように、薄くくちびるを開くと、それが合図となり舌が侵入してきて、その大胆な動きにおれは翻弄された。
チュッと音をたてて、名残惜しげにくちびるが離れ、さらに強く抱きしめられた。
「おれ、ずっとこうしたかった。せやけどしてええのか迷ってた」
「なんで?付き合ってるなら自然なことじゃん・・・」
「それでもやっぱり友樹はノンケやからな。根本的なゲイとは違う。好きや言うたって気持ちだけのことで、こんなん気持ち悪いかもしれん。所詮オトコ同士やねんで?」
それは、今まで崎山がゲイとして生きていて、知った痛みなのだろうか。
それなら・・・切なすぎる・・・・・
「ふざけあった時も、両思いになって抱きしめたときも、いっつも罪悪感が残るねん。わざわざこっちの世界に引っ張り込むことないん違うやろかって。それでも顔見たらふれずにはいられんかった」
もしかして、おれが引っつくなとか、ベタベタするなとか、照れ隠しに浴びせていた言葉ひとつひとつに、崎山は傷つけられていたのかもしれない。
「ただ、どうしても・・・キスだけはでけんかった。キスって・・・生々しいやん?拒否されたらて思うと勇気がでんかってん。アホみたいやろ?三上のことあんなに焚き付けといて、わが身にふりかかると臆病になるなんてな・・・」
抱きしめた腕を弛めると、ゆっくり身体を離して、おれの頬を両手で包み込み、至近距離で瞳を合わせる。
「友樹はおれにわがまま言うてええねん。今のままでええ。おれのことを好きになってくれて、おれのことを受け入れてくれた。それだけでも奇蹟みたいなことやねんで?おれにとっては・・・」
その瞳が、縋るような輝きを放っていて、おれはいたたまれなくなり、おれの頬を包むオトコにしては綺麗すぎる手に手を重ねると、今度はおれからくちびるを合わせた。
「おれにとっても奇蹟だよ?だって好きになった人が、オトコでも恋愛対象にできる人だったんだから」
そうなんだ、どっちにイニシアチブがあるとか、優越感があるとか関係ないんだ。
想いが通じ合ったことが奇蹟で、こうやって一緒にいれることが幸せなんだから。
もう一度、そのくちびるを食むと、食み返される。
啄むような優しいキスを繰り返すと、心までも優しくなれた。

「帰ろっか」
キリのないキスの雨に、崎山が終止符を打つと、落とした下駄を拾い上げ、おれに持たせて背を向けた。
「ほら」
おれは甘えるのが好きではないし苦手だけれど、もしかして甘やかされるのはキライじゃないかもしれない。
「重くない・・・?」
一応それなりに標準並みの体格のあるおれだ。
気になって聞いてみた。

「重くない・・・って言いたいけど、途中でヘバったら許してな」
いつもの口調の崎山に、おれもいつもの調子で返してやった。
「やだね。ぜってー降りないから。ちゃんと家までおぶってよね!」
グイッと前に回した腕に力を込めた。
「く、苦しいって!アホか!」
そういいながらも、おれを支える腕に力が込められたのがわかった。
きっと最後までおぶってくれるに違いない。たとえ明日筋肉痛で腕が上がらなくなっても・・・
おれって・・・愛されてるんだな〜
もちろん、おれもこいつを愛しちゃってるんだけど〜
ギブ&テイク、50/50、そんな関係がおれたちっぽくっていいかもしれない。
順風満帆とはいかない恋愛かも知れないけれど、おれはこいつとならやっていける。
それに、おれたちはふたりっきりじゃない。
先輩も、優もいる。
今度は・・・えっちかな・・・?
崎山の背中のぬくもりを感じ、不謹慎だとは思いながらも、もうそこにやってきている次のステップに思いを馳せ、ひとり顔を赤らめた。


owari

※最後までお付き合いありがとうざごいました。
崎山&友樹。思った以上にピュアなふたりとなっております。
次回はエッチ編となりますのでまたお付き合いいただけると幸いです。
さて、今回このお話にはちょっとした続き(蛇足)ありです。
会話文だけの、ちょこっと甘いお話です。
 






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