true love









その4








「お、おかしいよっ!」
思わずでたのはそんな言葉。
ふっと崎山の腕の力が抜けた瞬間に、その腕を振りほどき、崎山に向かい合った。
さっきまで正常だった思考回路も、直に素肌にふれられて、ショート寸前だ。
「何がおかしいの?」
「何がって―――」
「友樹にふれたいと思ったから、ふれた。それがおかしいことなん?」
「じゃなくて―――」
「じゃあなんなん?」
おれを真っ直ぐ見つめる目は、とってつけたような理由では誤魔化し切れないだろうことを表すかのように真剣で、僅かな明かりの中でもその様子が見てとれた。
おれだって経験がないわけではない。オンナ相手限定だけれど。
それに、こういう流れを・・・期待していないわけでもなかった。
だから、念入りに風呂に入り、リカに本を借りたりして予備知識を仕入れたりしたんだ。

でも、やはりされる側っていうのは初めてで・・・戸惑ってしまう。
どういうリアクションをすればいいのかわからないし、さわられてゾクリとするのにも抵抗があった。
でも最大の理由は、やっぱりなし崩しにキスされるのがイヤだから。
ふれ合わせた身体の延長で、初キスなんてイヤなんだと言ったら・・・笑われるだろうか?
俯いてしまったおれの頬を、崎山の指先がやんわりなぞった。
「友樹・・・?」
激しかった口調とはうって変わり、甘く呼ばれて顔を上げた。
「こんな風におれにさわられるの・・・イヤか・・・?」
「イヤなわけないだろ!イヤなわけ・・・」
「友樹・・・」
おれの中に、こいつに何度も言われた言葉がこだましていた。
『言いたいことは言えって』
いつも肝心なことは黙り込んでしまい、勝手な思い込みでトラブルの原因をつくるおれに、こいつは何度もそういった。
いくら想いあっていても、言葉にしないとわからないことはたくさんある。
それは、先輩と優を見ていておれが学んだことでもあった。
「だって・・・今日が初デートで・・・キッ、キスだってしてないのに」
思い切って口に出したものの、あまりに少女染みた台詞に、視線をゆらゆら揺れる海面に落とした。
「そうだっけ・・・?」
意外なほど能天気な答えが返ってきて、おれの中でプチンと何かが弾けとんだ。
「そうだっけって・・・あんた、キスしたかしてないかも覚えてないわけ?それで、あんなことしてっ!さ、さいって〜」
そ、そうだった!こいつってこういうヤツだってことをすっかり忘れていた。
おれは、こいつとふたりで、こんな風に何度も先輩を煽り立てたことを思い出した。
すっかり甘い雰囲気に飲み込まれ、おれって・・・
「おればっか、バカみたいじゃん。あんたばっかり余裕でさ・・・・・・もういいよ、今日は帰ろ・・・」
こいつの一挙手一同にドキドキするのはもう疲れた・・・
腹を立てるのも面倒だし、ちょうど花火も終わったようだ。
腰を上げようとしたときだった。
「帰らへんよ」
「なに―――」
「おれはもっと友樹と一緒にいたいから。帰らへんし帰さへん」
片腕を取られて、あまりに真剣な口調に、おれはその場を動けなくなった。
それでも顔を上げるのが何だか恐くて、崎山から顔を背けた。
「おれ、余裕なんてないよ?好きなヤツとこんな関係になったん、友樹が初めてやし」
あまりにびっくりして、反射的に顔を上げると、照れたような、でも悲しそうな崎山の複雑な表情が目に入った。
胸を突き上げるどうしようもない感情に、おれはひとり戸惑った。
深く突っ込んでいいのか、それとも何も言わない方がいいのかわからなくて黙り込んでいると、崎山が先を続ける。
「そりゃ付き合ったオトコは何人かいるよ?もちろんセックスもした。けど、本気やったか言うたら本気やなかった。おれも相手もな。軽蔑してくれてええよ?ほんまのことやし。寝るだけのオトコもおったし」
自虐的な言葉がおれの心を抉る。
こんなことを言わせるつもりはなかった。こいつの思いが伝わってくるのか・・・胸が苦しい。











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