true love









その2








何か、変なこと言ったっけな・・・?
「そんな風に言うてくれたん友樹だけや。三上でさえ、『うるさい、たまには黙って食え』って言うねんで?ほんま、友樹だけや」
どういうリアクションをとっていいのかわからずに、おれは俯いてアスファルトを見つめながら歩いた。
崎山も、どういうわけか黙り込んでしまった。
話をしていると、さほど意識しないのに、黙って歩いていると、傍らの崎山をどうしても強く意識してしまう。
おれよりほんの少し高いところにある、ふれそうでふれない肩。
ほんのり香るのは、さわやかなグリーン系のコロン。
アスファルトを擦る下駄の音。
『友樹だけや』という台詞が頭の中でリフレーンされ、ドキドキ胸が高鳴る。
男女のコイビト同士なら、手でも繋いでそうな雰囲気だよな・・・
そう思うと、少し残念で切ない気持ちになる。
別にオンナになりたいわけではないけれど・・・と、そんなことを考え、おれは慌てた。





おれって・・・やっぱ自分がオンナ役だって思ってるのか?思ってるんだろうな・・・





こいつを好きになって、思いが通じて、晴れて付き合うことになって、そうすれば避けられない問題なのだ。
崎山はゲイだと公言しているが、たぶんおれはそうではない。
崎山以外のオトコには興味がないのだから。
優が三上先輩に惚れて、同性同士の恋愛を身近に感じて、おれはリカから流行りであるらしい『ボーイズラブ』というジャンルの本をしこたま借りて勉強した。さらに、インターネットを通じて様々な情報を手に入れた。
それによると、ゲイにはタチのネコがあるらしく、それはBLでいうところの攻めと受けらしいのだが、さらにはどっちでもOKな人もいるらしい。
プラトニックな恋愛もあるけれど、おれはそれだけではないと思っているほうである。フィジカルな繋がりを求めるのは当たり前だと思うし、それは同性間でもアリだと思う。
同性間では、異性間のようにひとつなる行為がすべてではないらしいけれど、やっぱりそういう欲望は付随してくるわけで、特に相手に求められると答えたくなるのは必至で・・・
そうなると、どちらかがオンナのような役になるわけで・・・






優と先輩だと、たぶん100人が100人どっちが受ける側かをピタリと当てるに違いない。どう考えても、優が先輩を襲うだなんて・・・それは天と地がひっくり返っても想像できないことである。
すると、崎山とおれは・・・どうなるんだろ・・・・・・
体格はさほど変わらないし、どちらかというと、おれより崎山のほうがオンナ顔なのである。
BLでも年下攻めが流行りだと言うし、おれが攻めでも・・・・・・
なんて思いつつも、おれはさっき『オンナになりたいわけではない』なんて、乙女な考えを持っていたわけで、それはやっぱり、精神的におれはネコあるいは受け体質だということなのだろうか。
それに、今までの流れから言っても、イニシアチブは崎山にある。
イヤなわけではない。
心の中では、すでに納得してることだから、こいつが望むのであれば、受け入れる覚悟だってあるのだ。





おれがこいつに・・・





リカに借りたマンガや小説の、あんなシーンやこんなシーンが、おれと崎山に成り代わり、マンガの噴き出しのように妄想が浮かんで、慌ててブルブルと頭を振って妄想を蹴散らした。





欲求不満かってんだよ、おれはっ!





だいたい・・・キスだってまだなのだ。
思いが通じて二週間ほどが経ち、その間にもいつも通りスタバに付き合わされたり、優たちと遊んだりしたけれど、甘い雰囲気には程遠かった。
そして、ふと思う。





もしかして・・・今日が初デートってやつ・・・?





この二週間を振り返る。スタバには一緒に行ったわけではなく呼び出され、少し話をして、崎山はバイトに、おれは家庭教師が待つ家に帰った。
出かけたのだって、優たちと一緒であって、ふたりじゃなかった。
本当は、毎日でも会いたかったけれど、おれも受験勉強で忙しかったし、崎山もバイトで忙しかった。





うっわ〜〜〜やっぱ初デートだよ!





気付いてしまうと、とても照れくさい。
乙女的発想かもしれないけれど、おれはこういう記念日を大事にしたいタイプなんだ。

つうか、こいつはそのことに気付いているのだろうか・・・?
ちらりと横を歩く崎山を見やると、ふいに視線がぶつかり慌てて目を逸らした。






どうにも・・・照れくさくて仕方がない。
意識しすぎなのはわかっちゃいるんだけれど・・・

次第に行き交う人の数が多くなり、歩行者天国の大通りに出ると、そこはたくさんの人で埋め尽くされていた。
夏休みも終わりに近づいた頃に開催される夏祭りは、地元住民の楽しみでもあり、コドモにとっては夏休み最後の大きなイベントでもある。この日だけは、どんなに遊んでも、親に何も言われない。それがこの街に住む人の中では当たり前のことになっていた。
「うっわ〜めちゃスゴイ人やん!毎年こんなん?」
「あれ?あんた初めて?」
驚く崎山に問いかけた。
「去年は、バイトしてたわ。カフェもかきいれ日やろ?めっちゃ忙しかったん覚えてるわ」
「じゃあ、おれが案内してやる。これでも毎年参加してるから何でも知ってるんだぜ?」
生まれた時から毎年通っているといっても過言ではないおれは、張り切って答えた。
たまにはおれが、こいつを楽しませてやりたいし。
「あんた、何食いたい?」
「かたっぱしから食いたい。おれ、こういう露店の食いもんめっちゃ好きやし」
すでにどこからかいいにおいが漂っていて、くんくんと鼻を鳴らしている。
「おしっ、じゃあおれに任せとけ!」
崎山の袂を引っ張ると、おれたちは人ごみの中に猛然と突っ込んで行った。






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