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いつも何を話していたんだろう・・・
記憶をたどってみて気がついた。いつもおれたちふたりの間の話題は、先輩と優のことばかりだった。
ヤツは大学での先輩について、おれは学校での優について意見交換をしたり、四人ででかける遊びの計画だったり。だからおれはヤツのプライベートなことはほとんど知らないし、ヤツもおれについて全く知らないんだろう。
おれはずっと知りたかった。いろんなことを知りたかった。でも聞けなかった。
おれたちの関係は、先輩と優あっての関係なんだから。
それに、ヤツのほうもおれに興味なさそうだったし。おればっか知りたいって思って、ウザがられるのもムカつくし。
沈黙が苦しくて缶ビールを手にとってみたけれど、飲みつくしてしまったようで、空き缶ばかりだった。
仕方なく、自分で作ったシーフードサラダに手をつけた。
「それ・・・おまえが作ったんとちがう?」
サラダボールに伸ばしていた手を止め顔を上げると、斜め向かいから崎山がおれをじっと見ていた。
「なんで・・・?」
あくまでさりげなく問い返してみる。
「レタスの切り方とか大雑把やし・・・それにおまえ梅好きやろ?」
「えっ・・・?」
「メシ食いにいってもメニューに梅肉とか載ってたらすぐ注文するし、コンビニでもいっつも梅おにぎりやし・・・」
胸の奥がキュンとうねりを上げたかと思うと、トクントクンと鼓動が早くなった。
おれのこと見てくれてたんだ・・・
向けられた視線にさらされて、おれは赤くなってるんじゃないかと心配になり、紛らわすかのように箸を動かした。
「おれも梅好きやし、それウマかったよ。これからの夏には最適な料理やな」
褒められて、さらに鼓動が高鳴る。
「お、おれだって優に負けないくらい料理好きなんだぜ?」
ちょっとムキになったかな?って思うくらい、おれも料理ができることをアピールしてみた。
コドモじみているかもしれないけれど、おれはこういう態度しか取れないから。
「ふ〜ん・・・それは初耳やわ。友樹も料理できるんか。覚えとくわ」
「な、なんか優に対する態度と違わねえか?」
「そうか?別に一緒やけど・・・いや、一緒ちゃうな」
「それみろ。どうせあんたには優がキラキラした天使にでも見えるんだろうけど」
「そういう意味やないよ」
「じゃあどういう意味だっつうの?」



問い詰めたものの、おれってバカじゃないか?
こんなの優に妬いてるみたいじゃん!
つうことは、おれはあんたに好意をもってるんだって、告白してるようなものじゃないか?



ヤツの大きなため息が聞こえて、さっきまで熱くなっていた身体が瞬間冷凍されたみたいに硬くなった。
きっとウザいって思ってるに違いない。
年下の生意気な、自分とは何の関係もないヤツに責められて、うっとおしいに違いない。
「ごめん・・・」
自然と口からこぼれた。



優に逃げるなって言われたけど、やっぱおれ・・・



帰ると言おうとした時、崎山が口を開いた。
「おれは優くんが好きやで?カワイイし素直やし。せやけどそれだけ。優くんは三上と好きおうてんねん。おれはふたりに協力してん。そういう好きや。わかるか?」
「別にあんたが優を好きだなんて思ってない!ただ―――」
おれはその先の言葉を飲み込んだ。
「ただ・・・何やねんな。言うてみいや・・・」



言えと言われても・・・言えない・・・言えないぞ?



黙り込むおれに、ヤツの温かい声が降ってきた。
「おれは、友樹とケンカなんてしとうないし・・・言いたいことは言えって」
その言葉に、口から想いが溢れてしまった。



「ただ・・・あんたはやっぱり優みたいなタイプが好きなんだろうって・・・」



おれはもう顔をあげることなんて出来ない。羞恥の極致に立たされていた。もしそこに断崖絶壁があったら、発作的に飛び込んでいたかもしれない。
「まぁカワイイのは好きやな。一目ぼれはたいていああいうタイプやわ」
崎山がこの場のちょっと湿りかけて雰囲気を振り払うかのように、明るい口調で話しはじめた。
「やっぱりね・・・」



あ〜これでおれは中途半端な告白の同時に玉砕・・・か・・・・・・



「でもあくまで一目ぼれなだけやねんな〜」



続きを語りだしたヤツに慌てて目を向けると、背もたれに身体を預けて天井を見上げていた。





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