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「ああいうタイプは中身はキツイねん。三上見てたらわかるやろ?あいつ、完全に優くんに尻にひかれとるで!」
「お。おれもそう思った。先輩ってばもう優にデレデレで、何でもホイホイ言うこと聞くんだから」
会話がいつもの調子に戻ってゆく。そうそう、いつもはこんな感じで会話のキャッチボールができるんだ。
「だからおれは勘弁やな。おれはもっと気楽に付き合えるヤツがいい」
「気楽に・・・?それってお手軽ってこと?」
すると、ヤツは大きな声で笑った。
「友樹はまだまだやな〜気楽とお手軽は違うで?気楽っちゅうのは、どっちが強いわけでも弱いわけでもなくて、気ぃ使わんでよくて、友達みたいやけどそれ以上の信頼関係で結ばれてて・・・そういう点から考えたら、おれには優くんよりも友樹のほうが合ってるな」
「え・・・?」



え〜え〜え〜!そ、そうなのか?



舞い上がりそうな気持ちを抑えるのにおれは必死だった。

視線が合うと、意味深にニヤリと笑われた。



もしかして・・・からかわれてる・・・?



そんな考えも脳裏を掠めたけれど、それを口に出せばまた気まずい雰囲気に逆戻りのような気がして、おれはその感情をぐっと奥にしまいこんだ。
今日は、こいつの誕生日だし、これ以上拗らせたくないし・・・
「あっ!」
思わず声を上げたおれを、崎山は訝しげに見た。
隣りの和室に入ると、おれは紙袋をヤツの前に差し出した。
「何これ・・・」
「何って。今日はあんたの誕生日だろ?おれからのプレゼント」
何度も渡す練習をしたから、すらすらと口から台詞が飛び出す。
「せやけどさっきあんなええもん―――」
受け取ろうとしない崎山の胸に強引に紙袋を押し付けた。
「あれは三人からだし。おれは特別あんたには世話になってるし・・・いろいろおごってもらったりしてるから。とにかく受け取ってくれよ。悪いもんじゃないから!」
やっと受け取ると、袋の中を覗きこんでいる。
「開けてみて?」
おれが促すと、バリバリ音を立てながらヤツが包装を解き始めた。
「うわっ、かっこええやん!」
「だろ?何かあんたのイメージだったんだけど」
先日東京へ出張だというオヤジについていって、青山の雑貨店で見つけたエスプレッソカップ。
エスプレッソマシンがプレゼントだって聞いていたから、そのカップを見たとき、運命めいたものを感じた。
デンマーク製のステンレスのカップ&ソーサー。表面が二重構造となっていて冷めにくいらしい。何の模様もない、ただのステンレスでできたすっきりしたデザインだけど、あの独特の飲み物にはこんなのがいい。それに、何よりもごちゃごちゃしたものを嫌うこいつにはぴったりだと思ったから、東京でしか買えないブランドの服を買おうと多めに持ってきた有り金を全部はたいて2セット購入した。
しげしげとカップを眺めるヤツの目は本当にうれしそうで・・・それだけでおれは大満足だった。
それなのに、ヤツはさらにおれを喜ばすようなことをさらりと言ってのけた。
「やっぱ友樹はおれのことわかってるな。なんか感動やわ・・・」
おれが・・・わかってる・・・?
おれたちは、自分たちのことをほとんど話題にしないし、知っていることといえばお互いの家族構成くらいだ。
会話の端々で、こんなのが好きなのかとか発見するくらいで、ほとんど知らないも同然だ。
それなのに、ヤツはおれが梅好きだと知っていたし、おれがヤツのことをわかっているなんて言われた。
もしかして、おれが思っているよりも、こいつはおれの近くにいるのかもしれない。
そして、おれが思っているよりも、おれはこいつの近くにいるのかもしれない。
こいつがおれのことをどう思っているかなんて、全然わからないし、もしかして、今日のおれのハチャメチャな言動の数々から、結構スルドイこいつは、おれの気持ちに気付いたかもしれないけれど、それでも何も言わないってことは、このままでもいいのかなって思ってしまう。
こいつがそれでいいのなら、おれはそれでもいい。居心地のいい関係が続くのなら、それをあえて壊したくない。
たとえ、おれの好きがこいつに受け入れられなくても、好きなものは仕方ないくらいの開き直りの気持ちを持ってみようと思った。
「これで完璧、自宅でカフェ気分だろ?もうスタバに行かなくても―――」
「何言うてんねん!スタバはスタバ!おれはスタバが好きなんや。だからこれからも付きおうてくれよ」
崎山の言葉に心躍る。一緒に過ごす時間、失くさなくて済むんだ・・・
「あんた・・・おれ以外にそういうヤツいないのか?」
またまたおれってばそんなこと・・・と反省しつつもこういうのって無意識に口から出るんだよね。恐ろしい・・・
「友樹がおるのに他のヤツなんて誘うことあらへんやんか。友樹は気楽でええねん」
「気楽・・・・・・」
おいおい、気楽ってさっき・・・・・・
「なんやあいつら帰ってこんやんか〜絶対デートしとるでデート!よし、帰ってきよったら尋問や!なっ、友樹!」
はくらかずように話題を変えられた。
やっぱり最後は先輩と優の話でしめくくりか・・・・・・
まあいいか。おれたちの始まりは、あのふたりがいてこそなんだから!
「先輩えっちいからな〜優大丈夫かな〜青姦なんてぜってえ許さない!」
「三上ならやりかねへん!あっ、帰ってきたで?おまえら遅いっちゅうねん!」
おれ、まだおめでとうってあいつに言えてないな・・・
でもパーティーはまだまだ続きそうな予感。
あいつのハタチの誕生日。
きっとチャンスは来るに違いない。
先輩に噛み付いているヤツの関西弁を聞きながら、おれはリハーサルのように何度も「おめでとう」を心の中で繰り返した。
そして、そんなふたりをクスクス笑いながら見守っている優とふいに視線が合う。
『優、サンキュ』
『友樹、よかったね』
微笑みを交し合うと、おれは素敵な出会いをもたらしてくれた神様に感謝した。
ずっとずっとこの平和な時間が続きますように。そう願いながら・・・・・・





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