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<3>





「今日・・・て・・・パーティーだよな?」
「そうだよ?」
「崎山さんの・・・誕生会だよな?」
「なに言ってるの、友樹」
パーティーのおもてなしメニューか?これが・・・



キッチン内に広がるニンニクのにおい。大皿に順序良く並べられていく餃子。
粉まみれのおれの手。

「だって、崎山さんのリクエストなんだよ?餃子にビールがいちばんなんだって!友樹だって好きだろ?」
「そりゃそうだけどさ・・・」
あいつの希望ならそれでいいけどさ。
「そう言えば先輩は・・・?」
来た時から先輩の姿が見えない。
「足りないものを買出しに行ってもらってるんだ。でさ・・・」
一区切りした後、視線を上げず、てきぱきと餃子を包みながら、躊躇いがちに口を開いた。



「やっぱ気になっちゃうから聞くけど・・・友樹は崎山さんのこと・・・好き?」
あまりにストレートな質問に、おれの動きが一瞬止まる。
「すすすす好きって優・・・・・・」
あらら、また言葉に詰まって動揺を見せてしまった。
これじゃ肯定してるのも一緒だ。

おれが赤くなるならわかるが、なぜだか質問した優が真っ赤になっていた。
もしかして・・・ずっとずっと気にしてくれていたのだろうか。
この間の優の言葉を思い出す。



『友樹が苦しい時にはぼくを頼って欲しいなって思ってるから』



このまま、気持ちを隠しているのは、優への裏切りのように思えてきた。
いつだって何だって優はおれに話してくれたのに。
先輩への想いも、苦しみも全部・・・

あいつ本人にこの気持ちを伝える気は毛頭ないが、優にだけは知っておいてもらうのもいいかもしれない。
そうでなきゃ、行き場がなくなってしまう。
「崎山さんに出会って、四人で出かけることが多くなったでしょ?友樹はもちろん崎山さんもきっとぼくの気持ちに気付いてた。だからいつもぼくを先輩とふたりにしてくれたよね?ぼくは感謝と同時に重荷でもあったんだ、実は」
重荷・・・そんな風に思っていたなんて知らなかった。実際強引な部分もあったかもしれないけど・・・
「そうだったんだ・・・」
「でもね、それは迷惑ってのとは違うんだ。ふたりのおかげで先輩といる時間が増えたし楽しいんだけど、それはぼくが先輩を好きだからであって、もし先輩がぼくのことを何とも思っていなかったら、ただのうかれポンチなだけでしょ?おまけにふたりの協力も無駄になってしまうから」
あいつもおれも先輩の気持ちには気付いてた。優の気持ちにも気付いてた。ふたりが両思いだって確信があったから、わざとふたりっきりにしたり、逆に刺激を与えるため意地悪をしかけたりした。
「おれ・・・優の気持ちなんて理解してなかった。ごめん・・・」
「そうじゃなくて!謝るのはぼくのほうなんだ」
やっと、餃子を包む手を止めて、おれの方を真っ直ぐに見た。
「なんで優が謝るんだ・・・?」
わけがわからなくて、おれも優を真っ直ぐに見る。
「友樹、結構前から崎山さんのこと好きだったでしょ?」
「えっ?」
「何となくわかってたんだ。友樹の崎山さんへの気持ち・・・」
やっぱり優は他人のことに関してはスルドイ。自分は、あんなに先輩のラブラブ光線を受けながらも、先輩の本心がわからないと一年も悩み続けていたと言うのに。
「おれ・・・そんなに態度に出てる?」
それじゃあヤバイ!絶対気付かれたくない思いなのに!特に本人には!
「ううん?たぶん普通の人じゃわかんないよ。それに先輩も気づいてないみたい。あの人鈍感だから。でもぼくにはわかるよ。友樹とはだれよりも一緒にいる時間が長いんだよ?」
「そっか・・・そうだよな・・・・・・何かおれ、隠しててごめんな・・・」
「だからっ!謝らないでってば!」
あまり大きな声を出さない優の、張りのある声を久々に聞いて、おれはたじろいだ。
「ぼく、わかってたのにずっと黙ってたんだ。友樹はボクの気持ちに気付いた時、すぐに協力してくれた。ぼくは忘れないよ、初めて先輩のライブに連れて行ってくれたこと」
そうだ。あの頃一年だったおれたちには手が届かなかったライブチケットをひょんなことから手に入れて、優を連れていったんだっけな。
「なのに、ぼくは友樹になにもしてあげれてない。もしぼくが友樹の気持ちに気付いてるってわかったら、友樹はどうするだろうって考えた。友樹のことだからきっと隠し通すだろうなって。それで崎山さんとの関係もギクシャクしちゃったらって。それなら気付かないフリをしておいたほうがいいんじゃないかって」
苦しそうに告白を続ける優は、今にも泣き出しそうだった。
「優は正しいよ。たぶんその通りになったと思う。優にバレてると思ったらあいつのこと意識しまくりで、絶対おかしくなったと思うよ。だから―――」
優は悪くないと言おうとしたのを遮られた。
「違うんだ・・・違うんだ・・・・・・」
とうとう、大きな瞳からぽろりと雫が落ちて、テーブルを濡らした。





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