世界でいちばん





その4







プレゼントも買ったし、いつイブが来てもいいんだけれど、いちばん大事な約束をしていなかった。
それでも、おれはその二日間は空けておいてもいいように、ひたすら受験勉強に打ち込んだ。
なぜだか片岡もおれに連絡を入れてくることもなく、おれも連絡を入れなかったため、学校の授業で顔を合わすだけの日々が続いた。






もうすぐイブだというある日、バイトを終えて店を出ると、車を停めて片岡が待っていた。
「よっ!」
久しぶりのプライベートでの会話に、心臓がバクバクした。
「送ってくから乗って」
おれは素直に助手席に乗り込んだ。



「何か久しぶりだなっ」
声を弾ませて、片岡が車をスタートさせた。
「勉強はかどってる?」
「まあね・・・」
そっけないおれの態度に、片岡は「疲れはないようだな」って笑った。
車窓から見えるどの店も、クリスマス仕様に飾り立てられている。コンビニでさえも、クリスマスケーキ予約受付中なんていう大きな幕が張られ、街全体がクリスマス一色に変身していた。



クリスマスどうすんの?



その一言がいい出せなくて、おれはただ黙っていた。
会っていない時間を埋めるだけの会話はあるはずなのに、どちらも黙ったまま、片岡はただ前方を見ていたし、おれは横を向いて、外を眺めていた。

数十分の道のりだけれど、今日はとてつもなく長く感じられた。
片岡は、一体何のために、おれを迎えにきたのだろうか・・・?
家の近くの公園の脇に、片岡は車を停めた。
今度はいつ会えるのだろう?学校では毎日顔を合わせているけれど、今度はいつふたりっきりになれるのだろう?
結局、クリスマスの予定も聞けないままだった。
「サンキュー、じゃ、帰るわ」
シートベルトを外し、ドアに手をかけた時、片岡がおれの肩を掴んだ。おれはびっくりして振り返った。



「おまえ・・・クリスマスイブどうすんの?」



今年は22日が終業式だから、もう冬休みに突入している。
「どうするって・・・・・・」
暗くてよくわからないけれど、とても言いにくそうな片岡の表情が頭に浮かんだ。
なにげに重い口調だし。

これは、他に予定があるってことかな・・・?
「おれさ、悪いけど用事があって―――」
「ああ、おれは弟たちとパーティーだからなっ。受験もあるし、そうオチオチしてられないけど」
おれは、片岡の会話を遮った。
「いや、だから―――」
「つうわけだから!じゃあな!」
今度は強引に車を降り、一目散に家まで走った。



はっきり聞きたくなかったんだ、断りの言葉を・・・・・・



それに、何だか雰囲気に乗せられて、クリスマスイブは恋人同士の夜だなんて期待していた自分が恥ずかしかった。
仕方ない・・・今年も家族で過ごすことにしよう
でも・・・次に会う約束・・・できなかったな・・・・・・
久しぶりにふれた片岡を思い出すかのように、おれは置かれた肩に手を当てた。






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