世界でいちばん





その2







バイトのない日の放課後、クリスマスプレゼントを買うために、駅前ビルにやってきた。
弟たちへのプレゼントはすぐに決まったものの、片岡へのプレゼントがどうしても決まらない。
歩き回ってくたびれて、エスカレーター横にあるベンチに腰を下ろした。



あいつ、どんなものが好きなんだろう?



考えてみれば、おれはあいつのことを知らなさすぎる。好きな食べ物や好きな音楽は、一緒に過ごす時間の中でなんとなくわかっていたが、他のことは全くといっていいほど知らないのだ。
あいつはいつだって、おれのことはすべてお見通しって感じなのに。
おれがピザ食いたいな〜って思っていたらピザ屋のデリバリーが届くし、のどか乾いたって思っていたらジュースが出てくる。
会いたいな〜って思っていたら、決まって声をかけてくる。
こいつ、変な能力があるんじゃねえのって思うくらいに、おれの心の内を見抜いているんだ。

でも、おれには、あいつが何が欲しいかさえわからない。
どうしようかと落胆していると、「何してんだ?」と声をかけられた。
「二ノ宮・・・」
顔を上げると、おれの唯一の親友で片岡の従兄弟である二ノ宮がポケットに手を突っ込んで立っていた。
「おまえ、おれ置いて先に帰ったろ。ひでえな〜」
おれの隣りによいしょと腰を下ろす。
「あれ?朝言ってなかったっけ?用事あるから先帰るって・・・」
「そうだったっけ?まあいいや。それより何してんの?」
二ノ宮はおれの脇にカバンとともに置かれている袋に目をやった。
「プレゼント?」
おれを覗うような視線で問いかける。
「弟たちのな。クリスマスプレゼント」
ふ〜んと鼻の奥で返事をした二ノ宮は、ニヤリと笑った。
「で、峻にも買った?」
何を買ったのかと、興味深げにおれの瞳を探ってくる。
「まだ・・・・・・」
二ノ宮は、小さく溜息をついたおれを見逃さなかった。
「もしかして、何買おうか悩んでんの・・・?」
おれはドキリとした。
片岡といい、この二ノ宮といい、カンがいいというか、とにかく人の心を読むのがうまい。そして、それはだいたい当たっていて、さらに適切なアドバイスをくれる。

「まあね・・・あいつ、何が欲しいのかなって・・・・・・」

すると、二ノ宮はククッと笑い出した。
「何だよ!おれはマジで悩んでるんだ!邪魔するなら帰れっ!」
おれの怒りに、二ノ宮はあわてて笑いを堪え、おれの背中をバンバン叩く。
「ごめんごめん。何だか成瀬かわいいなあって思ってさ?」
「か、かわいいって・・・」
「悩める乙女って感じじゃん。カレシのプレゼントで悩むなんてさぁ」
「カレシ・・・」



まぁ、カレシといえばカレシだけど・・・・・・



「おまえはさぁ、峻に何もらったらうれしい?」
マフラーを巻きなおしながら、二ノ宮はおれに問いかけた。



片岡からのプレゼントでうれしいもの・・・か・・・・・・



「―――なんでもうれしいかも・・・」
「だろ?だからっ、峻だっておまえから貰うものは何でもうれしいんだって。要はキモチだろ?貰う側からしたら、どんなキモチでこれを選んでくれたんだろ、一所懸命選んでくれたんだろうなって、想像するのが楽しいの!何だっていいんだよ。おまえが心を込めて選んだものなら、峻は大喜びでハダカ踊りだぜ?」
ふと、ハダカで小躍りする片岡が頭をよぎり、おれは声を上げて笑った。
「そうそう。悩んでないで、楽しいキモチでプレゼントは選ばなきゃな!じゃあ、ゆっくり選べ!」
二ノ宮は、手を上げて、エスカレーターのほうへと消えていった。



片岡が喜びそうなものより、片岡に似合いそうなもの・・・



おれは、ファッションビルでの買い物をあきらめて、近くのデパートに向かった。





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