世界でいちばん





その1







「クリスマスイブとクリスマスは、お店閉めるから」
受験勉強のため、週数回のシフトに変更してもらった、バイト先の弁当屋のオバサンがにこやかに告げた。
「あれ?毎年お惣菜が売れるからって開けてましたよね?」
クリスマスに弁当なんてと思うかもしれないが、こういうイベントの日には、から揚げやらなにやらお惣菜関係がよく売れるのだ。
「今年はね、孫がね、泊まりに来てくれっていうから。パートさんやバイトさんに任せようかとも思ったんだけど、それならいっそ休みにして、みんな楽しいクリスマスを過ごしたほうがいいだろって主人が言うもんだから・・・」
ここの経営者であるオヤジさんとオバサンは、本当におれたちのことを考えてくれる、とても尊敬できる雇い主だ。
「楽しそうじゃないですか。お孫さんはかわいいでしょ?」
「そうね〜自分のコドモは育てる責任があるけれど、孫はかわいがればいいからね〜」
うれしそうに顔をほころばせて、オバサンはけらけら笑った。
「成瀬くんだって、クリスマスを過ごすイイ人くらいいるんでしょ?成瀬くん、かっこいいもの!」
「いえ・・・」
「今年は勉強が大変かしら?それとも弟さんたちと一緒?それもいいけど、もしイイ人がいるならその人と楽しく過ごしなさいよ!なんだかんだ言っても若い子にとっては一大イベントなんでしょ?」
からかうように、ポンッとおれの肩を叩いて、オバサンは仕事に戻っていった。



クリスマスか・・・・・・



汚れた調理器具を洗いながら考える。
バイトが終わった後、残りの惣菜を貰って帰ってみんなでパーティーするのが、ここ数年の成瀬家のクリスマスイブの過ごし方だった。
みんなが少ないお小遣いの中からプレゼントを買い交換する。
豪華な料理も大きなケーキもないけれど、それでも幸せを感じることができる、そんな楽しい日だった。




でも今年は・・・・・・



できるなら、片岡と一緒に過ごしたい。
考えるだけで、胸の奥がくすぐったくなる。



クリスマスイブ。
聖夜。
恋人たちの夜。



そんな日に、同じ時間を分かち合うことができるだろうか?
つうか、おれ、絶対誘えない・・・

おれは、大きな溜息をついた。







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