世界でいちばん





その10







「おまえの素肌にふれるの・・・ひさしぶり・・・・・・」
おれの身体に指を這わせながら、片岡が耳元で囁く。
低い声が頭に響いて、さらに気持ちを高ぶらせた。

おれの身体を知り尽くしている片岡は、じらしながらくちびるを、舌を滑らせていくから、おれは自ら片岡の腰に自分の腰を擦りつけた。
「やっぱたまってんの?」
クスリと笑われたような気がして、「うるさいっ」と怒鳴ったつもりだったけれど、同時に感じる部分を愛撫されて、それは消え入るような声にしかならなかった。
先にイカされるのは好きじゃないけれど、今日はどうにも我慢できそうにない。
うっすら目を開けると、下半身に顔を埋める片岡の後頭部が映り、片岡に口淫されているという事実が、おれの神経を刺激する。
身体で感じるキモチよさと、心で感じるキモチよさが、お互いを刺激しあい、快感を呼び起こす。



「・・・も・・・やめろ・・・・・・」



やめてほしくないのに、やめてほしい。
片岡の口の中に吐き出すのには、まだまだ抵抗があった。

「やめたらつらいだろ?」
いつもは最後まで口を放さない片岡だけれど、今日はおれの合図で口から手での愛撫に変えてくれた。
その分、深いくちづけがおれを襲った。
口腔を舌で蹂躙されながら、下半身を手で扱かれ、口から漏れる唾液の絡む音と、おれの下半身から漏れる精液の粘着音とが室内に響いて、おれは恥ずかしさのあまりギュッと目を閉じた。

「・・・んんん・・・あぁっ・・・」
片岡が先端を爪で引っかいたと同時に、全身が震え、おれは片岡の手を自らの白濁で汚した。
「おまえのキモチいい時の顔、すっげえかわいい・・・」
絶対に見られたくない表情を片岡に見られるのは恥ずかしいけれど、片岡にしか見せたくない。
汚れた手をそのままおれの後ろに塗りつけて、指で慣らしていく。
うつぶせに寝かされたおれは、枕に顔を埋めて、違和感に耐えていた。

最初はオンナのように扱われて抵抗があったこの行為も、愛する人とひとつになるために必要な準備であると、割り切れるようになったのは最近のことである。
それに、ただの排泄器官だと思っていたこの部分に、とんでもなくキモチがいい場所があることを知ってしまったおれには、最初の圧迫感でさえ、ただの序曲に過ぎないのだ。

しかし、今日の片岡は、その部分をわざとずらしているように思う・・・
いつもならすぐにそこを刺激してくるのに・・・・・・



「あれ・・・?どこだったっけな・・・?おまえのイイトコロ・・・・・・」



何をほざいてやがる!絶対わざとだ!わざとすかしてるんだ!



遠ざかっていたあの快感が、頭の中では甦っているのに、実際にはなかなかおとずれてこないもどかしさに、おれは恥ずかしながらも腰を揺らしていた。



「意地悪すんなよ・・・」
「ここだっけな・・・?」
「ちが・・・・・」



うつぶせの体勢のため、片岡の表情は見えないが、楽しんでいるのは間違いない。
絶対負けない!
おれは、心に誓い、くちびるを噛みしめた。
「なあ、教えてくれよ・・・成瀬っ・・・亮ってば・・・」
おれが黙っていると、もう一方の手が伸びてきて、胸を探り始める。
「やめろって・・・ん・・・アッ・・・」
摘んだり引っかいたりいいように弄ばれ、ますます腰が揺れる。
それでも、胸への愛撫だけじゃ、あの快感はおとずれないし、キモチいいけれど、ダイレクトに射精感にもつながらない。

「んん・・・・・・」
「亮・・・早くキモチよくなろうよ・・・なっ?」
耳元で囁かれ、耳朶を舐められ、おれは陥落した。
後ろに指を埋めている片岡の手に手を重ねて、自分の感じる部分を教えると、あの快感がおとずれた。
「やあっ・・・んはっ・・・くぅ・・・」
長い指にグリグリ刺激され、はしたなく腰を振る。
自分の指が入っているわけではないのに、ただ片岡の手に添えているだけで、一緒に刺激しているような錯覚に陥り、いつもより感じているおれがいた。

シーツと身体の間で勃ちあがった下半身が、身体の重みで押さえつけられ、痛いほど存在を示していた。
「もう・・・アッ・・・出そう・・・・・・」
後ろのポイントを刺激されると、どうして前まで勃ちあがってくるのか、おれは不思議でたまらない。
オンナの絶頂はどういうものかわからないが、後ろの穴を刺激されても、オトコの絶頂は射精なのだ。
張りつめた前に触れようとすると、その手を片岡に払われ、シーツに押さえつけられた。

「だめ、一緒にだろ?」
片岡は指を引き抜くと、おれの穴を押し開け、腰を進めてきた。
圧迫感に襲われ、息を飲む。
「んんんんっ・・・・・・」
「息止めんな・・・ゆっくり吐けって・・・・・・」
言われたとおり、息を吐くと、ズズズっと片岡のモノがおさまっていくのを感じた。
おれの背中に身体を重ねると、枕の脇を握り締めていたおれの手に手を重ね、指を絡ませる。
「動いて・・・いい?」
おれが頷くと、ゆっくり腰を使い始めた。





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