大切なものは・・・



<3>




次の日から、おれは片岡から目をそらすようになった。
反射的にそうなってしまう。
その気配を感じとっているのか、片岡も無理におれと接しようとはしなかった。
それがさらにおれを意固地にさせる。
バイトのある日もない日も真っ直ぐ帰宅するようになったから、弟たちと共有する時間が増えた。
特に一番下の陸はおれに引っ付いて離れない。
康介によると、ずっと淋しがっていたらしい。
そういえば朝食時と夕食時しか顔を合わさなかったから、連絡事項くらいの会話しかなかった。
生意気な純平でさえ、やれ宿題を教えろだのとうるさい。
片岡のマンションに入り浸るようになって、弟たちにそんな思いをさせていたのかと思うと胸が痛んだ。
付き合うようになって以来、おれの生活サイクルが片岡を中心にまわっていたことは否めない事実である。
ウソをついて温泉旅行に行き、ウソをついてマンションに泊まった。
そして、バイトを早く切り上げた時間を片岡と共に過ごす。
オフクロのいない今、弟たちにはおれしかいないのに・・・・・・
もしかして、このまま、こんな風に時を過ごすのもいいかもしれない・・・そう思った。
ただ、片岡に出会う前の生活に戻るだけ。
ほんの数ヶ月前の生活に・・・・・・









「おまえ、峻とケンカでもしてんの?」
マンションを飛び出してから二週間。
おれと片岡の間の見えない亀裂に気づいていたであろう二ノ宮が、遠慮がちに口を開いた。
「なんで?」
おれはとぼけた。説明するもの面倒だったから。
「おまえらの関係を知らないやつにはわかんないだろうけどさ、おれにはわかるよ。成瀬、峻のこと無視してんだろ?」
「あいつだっておれのこと無視してんじゃん。おあいこだよ、おあいこ!」
昼休み、自分で作った弁当を、自分で処理する。
なんかむなしい・・・
「―――原因はなんだよ・・・」
そんなもの、言いたくない!
自分でもわかっている。馬鹿げたケンカだって。

いや、片岡のほうは、ケンカだなんて思っていないだろう。
そう、ケンカじゃないのかもしれない。
おれが勝手に怒っているだけだ。
黙り込んでいるおれに、二ノ宮はそれ以上聞かなかった。
けど、一言、おれに衝撃的な事実を浴びせた。
「どっちが悪いのか知んないけど、おまえが原因ならとっとと謝れ。でないと、あいつ、結婚しちまうかもよ?」
「結婚・・・?」
「おうよ、あいつん家、結構由緒ある家柄だからな。見合いの話もバンバンきてるらしいし。次男だからそんなにうるさくなかったらしいけど、それでもあいつだって26だしな」
それだけ言うと、二ノ宮は「トイレ」と言い残して教室から出て行った。

                                                                       





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