夏のかけら
 その四








土産物屋を覗きながら、ロータリーまで戻ってくると、すでに夕方だった。
車を出すと今日の宿に向かう。
由比ガ浜に向かって少し走ると、目的の建物が見えてきた。
住宅地の中でその建物は非常に目立っている。

旧男爵邸をそのまま旅館に使用しているため、急勾配の切妻屋根とお洒落な出窓が、大正ロマンの香りを残す白い洋館だ。
外観とは対照的に通された客室は、青畳の香りが漂う数寄屋造りの純和室で、庭は綺麗に手入れされた日本庭園だった。
外国に憧れつつも、日本文化を捨てきれない、大正時代の人の気持ちが顕著にあらわれている。
「ふ〜ぅ」
大きく息をついた片岡は、庭に面したソファにどっぷり身を沈めていた。
「疲れた?」
あまりそういう素振りを見せない片岡に、少し不安になる。
「まあな。案内してやるのには慣れてるけど、案内されるのはな〜。どこに連れてかれるのかわからないし、ミステリーツアーな気分だった」
微かに笑みを浮かべながらの口調には、揶揄が混じっているのがわかる。
「ひっで〜。これでも毎日毎日鎌倉の本ばかり読んでたんだぜ?」
「の割には道に迷ってたのは誰だ?」
「た、旅にはスリルも必要だろ〜が!」
これ以上揶揄われるのはゴメンだとばかりに、畳にゴロンと寝転がり、手足を存分に伸ばしてみた。
やはり慣れない車と運転で身体のあちこちが痛い。

やっぱり畳は落ち着くなぁなんて考えていると、ホッとしたのか目がとろんとなってきた。
このまま眠ってしまえればかなり気持ちがいいだろうなあと睡魔に負けそうになるが、もてなす側が眠ってしまってはどうにもならない。
気合いを入れるとすくりと立ち上がった。

「ちょっと出てくるから、あんたはゆっくりくつろいでて?」






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