新しい朝





第九話
〜成瀬side〜






「おまえが大学に受かったら、ここに住まないか?」





おれを正面から真っ直ぐに見据えて、片岡はゆっくり、そしてはっきりそう言った。





おれが・・・ここに?





てっきり愛想をつかされたと思い込んでいた。
別れの言葉が紡がれると思っていたその口から発せられたのは、
思いもよらない言葉だった。






おれが?片岡と?ここに?





返事を待つ片岡の瞳があまりに真剣で、おれは俯いて頭をめぐらす。
心臓がバクバク破裂しそうに波打っている。

ここで一緒に暮らす。
ずっと一緒にいられる。
それはうれしいけど・・・でも・・・・・・

片岡はおれでいいのだろうか?
生意気でこれっぽちも上手く感情を表せないおれとずっと一緒にいて、片岡はそれでいいのだろうか?

会う時間が少ない今の状況でさえ、おれはいつも片岡を困らせている。
それなのに・・・・・・






「おれ・・・・・・」





俯いたまま口を開いた。





「あんた・・・そんなこと言っていいの?おれ・・・本気にするよ?本当にここに来るよ?」
胸がつまって声が震え、おれは顔を上げることができなかった。
テーブルが横にずらされ、片岡が近寄ってきたのがわかったけれど、それでもおれは俯いたままだった。
「いいから言ってんじゃんか。来てほしいから・・・・・・」
頬に片岡の指がふれ、優しくなでられた。
「成瀬と時間を共有したいから、ずっと一緒にいたいから、おれがお願いしてんの・・・ダメか?」
ダメじゃない!ダメじゃないけど・・・
「やっぱ無理―――」
「無理じゃねえよ!」
頬に伸びている手を掴んで、おれはやっと片岡と視線を合わせた。
期待と不安が入り混じったような、眼鏡の奥の双眸が揺れておれを捕らえていた。
「おふくろは帰ってくるし、康介だって純平だってひとりの部屋が欲しいだろうし、おれだって家を出たいけど、そんな余裕ないし、それに―――」
そこまで一気にまくし立てて、おれは息をついた。
片岡はただじっとおれの話を聞いている。






「おれもうれしい・・・・・・」





恥ずかしくて小さな声になってしまった。
ガラにもなく正直なおれを、片岡がギュッと抱きしめる。

とても安心できるこの場所がなくならなかったことにほっとした。







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