新しい朝





第十話
〜片岡side〜






「おれもうれしい・・・・・・」





小さな声でそう言って顔を伏せてしまった成瀬が、あまりに愛しくて思わず抱きしめてしると、成瀬もギュッとおれにしがみついてきた。
小さくはないその身体が、おれの腕にすっぽりおさまっていることに胸が疼く。



自分でも不思議に思う。
今までどんなオンナと付き合っても本気になったことなんてなかったのに、どうしてこの8歳も年下のオトコに夢中になってしまったのか。
愛してたまらない。かわいくて仕方ない。
この腕の中に一生抱きしめておきたい。
そんな独占欲が、おれに成瀬との同居・・・いや同棲を決心させた。

「じゃあ、決まりな」
身体を離すと、成瀬ははにかんで俯いた。
なんだか素直な反応に慣れないおれは、煙草に火をつける。

「もし受かんなかったら?」
「んなわけない。おまえは合格する。絶対に。それよりおまえのおふくろさんが何て言うかだよ」
本人の了承を得たって、家族の同意がないと始まらない。
まだ成瀬は未成年なんだし。

「それは・・・たぶん大丈夫。
高校でたら家出てもいいって言ってたし、どんどん自立してかないと、あの家は狭すぎるから。それにここなら近いし・・・」

自信ありげに答える成瀬に、おれはほっとした。
夢が現実に・・・なる?

しばしの沈黙の後、成瀬が再度おれに問う。
「ほんとにいいのか?おれ・・・ここに来ても・・・あんたと一緒にいても・・・」
すがるような瞳と切羽使ったような声に、おれは成瀬の不安を感じ取った。
「何が不安なんだ・・・?」
煙草を揉み消して、グッと押し黙ってしまった成瀬の髪にふれた。
「―――あんたに話があるって言われて・・・卒業を機会に別れるって言われるんじゃないかって思ってた・・・」
その言葉で、成瀬のよそよそしい行動や妙な緊張が理解できた。
「おれがまだ信用できない?」
「じゃなくって!」
見上げて訴えるような視線をおれに投げかけ、続きの言葉を考えているようだった。
「じゃなくて・・・あんたの気持ちはわかってるつもりだけど、それにうまく答えられないから、それが不安で。だから、おれ自身の問題。いつも勝手に想像して勝手に悩んで・・・」
「だから、一緒に暮らすんだ。ひとりで悩まないように、ひとりで悲しまないように、ふたりで悩んで、ふたりで悲しんで、そしてふたりで幸せな時間を過ごすために・・・」
おれたちには規制があった。
教師と生徒で、しかも成瀬は受験生で、弟たちの面倒をみていて。
ふたりでいる時間は一日に数時間。
それも最近ではほとんどなくて・・・

成瀬のおれに対するつっけんどうな態度が、おれへの愛情の裏返しだってことはわかっていたけれど、そんな態度をとる自分を責めていたなんて、おれは気づかなかった。
そういうことは今まで何度もあったし、その度におれはそのままの成瀬が好きだと告げてきたから、成瀬ももう気にしていないと思っていた。

それでも不安げな視線をおれに向ける成瀬のくちびるに軽くふれると、いつもとは違い、さらに深いくちづけを求めてきた。
「ん?どうした?」
くちびるを合わせながら至近距離で囁くと、少し頬を染めながらも、はっきりと言った。
「なぁ、しようよ」








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