新しい朝





第十一話
〜成瀬side〜






「だから、一緒に暮らすんだ。ひとりで悩まないように、ひとりで悲しまないように、ふたりで悩んで、ふたりで悲しんで、そしてふたりで幸せな時間を過ごすために・・・」
おれが、ずっとひとり悩んでいたと告げると、片岡は優しくそう言った。



一緒に暮らす意味。



それは、一緒にいたいからだけじゃないんだ。
楽しいことも、悲しいことも、すべて共有すること。
家族でもない、ただのルームシェアの友人でもない、愛する人と暮らすってことはそういうことなんだ。
同居じゃなく、同棲ってそういうことなんだ。




おれ・・・できるだろうか?



片岡と視線が合った途端、くちびるがふんわりと重ねられた。
たったそれだけで、おれの中にあった不安が吹っ飛んでいく。
今日初めての、いや、数日ぶりのくちづけにおれはたまらなくなり、もっととねだるように片岡のくちびるを追いかけた。

おれは・・・片岡を欲していた。
もう二度と不安に襲われないように、おれに片岡を刻み付けてほしかった。
「ん?どうした?」
求めるおれにくちづけながら囁かれ、熱い吐息が肌にふれ、自然と口から言葉がこぼれた。



「なぁ、しようよ」



ストレートな誘い文句にカーッと顔が赤くなるのがわかったけれど、
そんなおれに片岡は目尻を下げた。

「それは望むところだが・・・こんなに素直なおまえを今抱いたら、離せなくなる。帰したくなくなる・・・」



『亮兄ちゃん、今日は卒業のお祝いだからね』



今朝の康介の言葉が脳裏をよぎった。
きっとみんな待ってる。おれの帰りを待ってる。




けど・・・・・・



柔らかい口調なのに片岡の切羽詰った気持ちがおれにダイレクトに伝わって、思考より先に口走っていた。
「いい・・・それでいい・・・ずっと一緒にいたい・・・・・・」
求め求められる・・・同じ気持ちで愛し合える。
この瞬間がおれにとっていちばん大事だと、今さらながら気づいた。

やっと素直になれた自分に、目尻が滲む。
こんなことでバカみたいだと思う反面、そんな自分の自然の摂理がうれしい。

吸い寄せられるようにくちびるを重ねると、ベッドまで行くのももどかしく、ラグに押し倒された。
おれから誘ったのに、いつの間にか主導権を握られている。
それでもいい。主導権なんてこだわる必要なんてないんだ。
愛し合う行為に、するもされるも何もない。

キスも愛撫も、慣らされた身体は覚えていて、その動きさえ読み取れるのに、今日は数倍心地よく、否が応でも甘い声が漏れてしまう。
いつもの挑戦的な台詞のかわりに、「好き」と「峻哉」を繰り返すと、さらに片岡がおれを攻め立て、我を忘れそうになる。
素直になることが、こんなにキモチいいことだなんて知らなかった。
熱い塊を体内に感じた時、何も言ってくれない片岡を抱き寄せると、小さなキスを何度もおれに降らせる。
「おれのこと・・・好き?峻哉も・・・おれが好き・・・?」
恥ずかしいほどの甘えた声に自分でもびっくりしながらも、それでもこんな自分は片岡の前でしか見せないからと割り切って、繋がったままの状態で片岡を感じながら、答えを求めた。
汗でへばりついた髪を指先でかきあげた片岡は、しばらくじっとおれを見下ろしていたが、おれの頬に頬をすり寄せると、耳元で囁いた。






「おれはいつだって言ってるつもりだが、おまえが望むなら何度だって言ってやる・・・亮・・・好きだ・・・とんでもなく好きだ。一生はなしたくないくらい・・・」





耳元で囁かれる甘い言葉に身体が反応し、繋がった部分がキュンと締まる。





「おれも・・・峻哉が好き・・・誰よりも愛してる・・・・・・」





愛してるなんて陳腐な台詞だと思っていたけれど、キモチを伝えるにはそんなありふれた言葉しか見つからなかった。
片岡のくちびるが、耳元からくちびるに移動してきて、ふれるくらいの位置でもう一度確認するかのように囁かれる。





「亮・・・おれも愛してる・・・・・・」





同時に片岡に突き上げられ、ギュッと背中にまわした腕に力を込める。
どんな瞬間も片岡を逃さないように、感じていられるように、おれはその動きに合わせて身体を揺すった。








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