新しい朝





第八話
〜片岡side〜






部屋の空気が重くのしかかっている。
これはおれが作り出しているのか、はたまた成瀬が作り出しているのか。
テーブルを挟んで成瀬と向かい合って床に腰を下ろしたおれは、どう切り出すべきかまだ悩んでいた。
成瀬は俯いたまま、どこか一点を見つめているようで微動だにしない。
呼び出したのはおれだ。
そして、今日という日をずっと待っていたんだ。言わないわけはいかない。

何だか成瀬の様子がいつもと違うからおれの調子も狂ってしまう。
いや、成瀬のせいじゃない。恐いんだ、断られるのが・・・・・・
今まで、いつも強引に事を進めてきたように思う。
旅行に誘ったのも、クリスマスや誕生日に家まで押しかけたもの、バイト先に迎えに行ったのも、みんな成瀬の都合にはおかまいなしだった。
なぜそんなことができたのだろう。
今になって、自分の行動を不思議に思う。

もし、拒否されたら・・・笑ってごまかせるだろうか?
時計を見ると、8時前。
成瀬の卒業の日だ。きっと弟たちが帰りを待っているに違いない。

おれが、意を決して口を開いたときだった。
「何?話って・・・昨日も言ってたよな?おれ―――」
成瀬の言葉におれの一世一代の告白が重なる。





「おまえが大学に受かったら、ここに住まないか?」





顔を上げた成瀬の、きれいな瞳を真っ直ぐに見つめて、おれはゆっくりそう言った。
成瀬がこのマンションにやってくるようになってからずっと考えていた。
ここで一緒に暮らせたらどんなにいいかと!

成瀬の家からさほど遠くはないし、何しろ部屋は余っている状態だ。
成瀬が受ける大学へも近いし便利だ。

母親はこの3月で研修を終えて帰国すると聞いていた。
すぐ下の弟が高校生になり、その下の弟が中3で受験生となるから、それぞれにひとり部屋を与えたいし下宿でもしようかなぁなんて、冗談ぽく笑っていた成瀬を見て、それならここに住めばいいと漠然と思った。

そして、卒業式に告白しようと、教師と生徒の関係でなくなるそのときに告白しようと、ずっと待っていたのだ。
そんなところにこだわってしまうおれは、数年で教師という職業が染み付いてしまったのだろうか。



しかし、おれにその気があっても、問題は成瀬の気持ち。
あんなにかわいがってる弟たちと離れて暮らせるだろうか。

成瀬にとっていちばん大事なあの子たちを・・・・・・
おれの言葉に、成瀬はびっくりしたようだった。そして・・・返事がない・・・・・・
長い沈黙が続く。
やっぱ・・・ダメなのか・・・・・・?
「おれ・・・・・・」
俯いたまま、成瀬がゆっくり口を開いた。







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