第七話
〜成瀬side〜
「卒業おめでとう。花なんていらないかもしれないけど・・・今日くらいいいだろう?花束もらったって・・・」
照れくさそうな笑顔と一緒に渡された花束は、淡いブルーと白が基調の、オトコのおれが手にとってもおかしくない、とてもシンプルなものだった。
今まで花なんてもらったことなかった。
花に興味もなかった。あげたいって思う人もいなかったし、花なんてもらって喜ぶオンナの気持ちもわからなかったし、わかりたくもなかった。
でも、この花束を胸に抱き、うれしい気持ちがどんどんこみ上げてきた。
花には、人の心に訴えかける何かがあるようだ。
柔らかなかおりを放つその中に、そっと顔を埋めてみると、ふんわり優しい気持ちになれる。
「いいにおいじゃん?花って生きてるんだな〜」
至極自然に感想が漏れた。
ガラにもないことが口から零れて照れくさくて顔を上げられずにいると、片岡がおれの手からカメラを奪い、写真を取り出した。
いつも冷静で落ち着いている片岡が、いつになくはしゃいでいるように思えて、おれは笑いながらもフレームにおさまった。
「げっ、全部撮りきっちまった」
マジで?まだ10枚以上残っていたはずなのに!
片岡は今度はデジタルカメラで撮影しはじめる。
「もういいだろ〜」
あまりに熱心なのでおれがあきれると、やっとカメラをテーブルにおいた。
「成瀬・・・話があるんだが・・・・・・」
あっ・・・
片岡からさっきまでの笑顔が消えている。
そっと様子をうかがうと、とても神妙な顔つきだった。
相当大事な話に違いない。しかも何か思いつめているようだ。
やっぱり・・・アノ話なのか?
もしそうであっても、おれは受け入れるしかないと思っている。
片岡を困らせないように、笑って受け入れようと昨日から心に誓っていた。
覚悟だってできている。
なのに、やっぱり心がブルブル震えている。
聞きたくないと、全身が訴えている。
おれは、花束をギュッと抱いた後、テーブルに丁寧に置き、床の上に座った。
床暖房のぬくもりが、冷たくなった心とは正反対に身体を温める。
片岡がテーブルを挟んで、おれと向かい合わせに座り込んだ。
いつもはおれが床に座っても、ソファに腰かけるくせに、今日はどうして同じ目線なんだ?
さっきまでの和やかな空気が、凍りついたように緊張感あふれた空間と化している。
話があると言った割りに、なかなか口を開こうとしない片岡。
言い出しにくいのか?そりゃそうだろう。
でも、こんな時まで優しさを示す片岡に、おれは情けをかけられているようで嫌だった。
重い雰囲気も嫌だった。
軽く言ってくれれば、おれだって軽く返すことができるのに・・・
「何?話って・・・昨日も言ってたよな?おれ―――」
今日は早く帰らなくちゃいけないんだけどと続けようとしたおれの言葉を遮って片岡が口にしたのは・・・・・・
おれは・・・頭が真っ白になった。
数学準備室で突然告白された時にも驚いたが、まだ思考能力はあった。冷静だった。
でも、今はよくわからない。
な、何だって・・・・・・?
それはおれが危惧するような別れ話でもなんでもなかった。
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