新しい朝





第十四話
〜片岡side〜






「もし、コトの最中にケータイが鳴ったら・・・きっとおまえは帰ってたろ?」
そう言ったとき、成瀬は少し淋しそうにおれを見上げた。
その瞳を見てハッと気づいた。



おれは・・・なんて無神経なんだ!



成瀬がおれに気を使わずにいいようになんて勝手な考えで、またもや成瀬を傷つけてしまった。
その訴えるような瞳を覆うように胸元に引っ張り込むと、艶やかな髪を掌で撫でた。
従順に腕の中におさまる成瀬の髪に頬をすりよせると、成瀬もおれの胸に頬をすりよせた。

「ごめん・・・おまえはおれを選んでくれたんだよな・・・悪い」
成瀬はおれと一緒に過ごすことを選んでくれた。
そしてこれからの時間を共に過ごすことも。

それなのに、おれはいつまでも成瀬の家族愛におびえて、本当はおれだけを見ていて欲しいのに物分りのいいオトナのふりをして。
「そうだ。おれは、あんたと一緒にいることを選んだんだ・・・だから弟たちのことは言うなよ・・・・・・」
成瀬自身から紡がれたその言葉に、おれは決心した。おれは、こいつを絶対に悲しませたりしない。
そして、こいつのいちばん愛する人がだれかなんてこだわらない。

今、この瞬間、一緒にここにいることが現実なのだから。





「卒業おめでとう、亮」





突然の祝いの言葉に、埋めていた顔を上げ、きょとんとおれを見上げた成瀬は、それでもうれしそうに笑った。
「おれ、絶対合格するから・・・部屋の荷物整理しとけよな!」
最後はいつもの成瀬に戻って、シーツの中に潜り込んでしまった。
こんな生意気な成瀬も、先ほどまでの素直な成瀬も、4月からは毎日見ていられるのかと思うと胸が躍る。
いや、素直な成瀬を見るのは難しいかもしれないな・・・・・・
おれは、おれに背を向け眠りに入った成瀬を後ろから抱きこんで、そのぬくもりを感じながら眠りについた。







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