christmas serenade







第六話






一から書類を作成しなおし、時計を見るすでに夕方だった。
慌てて荷物をまとめると会社を出る。
少し大きめの品揃えが豊富なスーパーに立ち寄り、すき焼きの材料やら飲み物やらを買い込むと、併設された雑貨店に目が入った。
こんな店あったっけな・・・・・・
大型スーパーのテナントらしく、男ひとりでも入れそうな店構えだ。

主に生活用品を扱っているらしく、食器やら日常用品がたくさん並んでいた。
目に留まったのは、アジアン風にディスプレイされた綺麗なトルコブルー色の茶碗と湯飲みのセット。
透き通るような爽やかな青さが凛にぴったりだ。手作り風に少し歪んでいるのが味わい深い。
洋と和とうまくミックスさせたそのセットを一目で気に入った隆弘は、そそくさと購入すると家路へと急いだ。
一人暮らしを始めてからほとんど外食で済ませていた隆弘だったが、凛に出会ってからキッチンに立つようになった。
おかげで調理器具や調味料は一通り揃えることとなり、男の一人暮らしとは思えない充実振りだ。
味付けなどはまだまだ微妙で、炒め物など簡単な料理しかできないが、包丁さばきは上手くなったと我ながら思う。
米をとぎ炊飯器にセットして、野菜を切って大皿に盛り付ける。
もちろん奮発して購入した国産和牛の霜降り肉もトレーから大皿へと移した。

カセットコンロをセットして、食器類をセッティングする。
凛の定位置に買ってきたばかりの茶碗と湯飲みを置けば、そこに凛の存在を位置づけるようで胸が騒いだ。
食事の用意なんて男がするもんじゃないと思っていたのに、まるで亭主の帰りを待つ新婚妻のようにウキウキと準備をしている自分が可笑しくて、こんなところは絶対誰にも見られたくないと隆弘は薄笑いを浮かべた。
凛の仕事は朝が早い。
その分、休憩をたっぷりもらって身体を休めたり、さほど忙しくない日には早く上がらせてもらっているらしい。
社員扱いになっているから、終業体制はしっかりしていた。

時計を確かめてそろそろかなと思った矢先、呼び出し音が鳴り、隆弘はいそいそと玄関へと急いだ。
今日は帰りに直接来たのだろう。
しっかり着古された黒いダッフルコート姿だ。
隆弘がプレゼントしたコートに、凛は隆弘と会う時にしか袖を通さない。いくら普段着にしろと言っても首を縦に振らない。
そしてそのコートはビニールをかけられ大事そうにパイプハンガーにつられているのを隆弘は知っていた。

「こんばんは」
恋人同士になってからも凛は挨拶を欠かさない。
最初は他人行儀だと気になったが、それが凛の美徳だと今では思うようになった。

「お疲れ、凛」
凛の身体越しにドアを閉めるとそのまま抱きすくめた。
暦の上では立春も過ぎたと言えどもまだまだ真冬だ。
部屋の中では薄着で通す隆弘の身体に伝わるコートの冷たさが、外の寒さを物語っている。

「会いたかった・・・」
自然と零れた言葉に凛がクスクス笑う。
「毎日会ってるのに」
「じゃあ訂正。凛に触れたかった。抱きしめたかった・・・」
「おれも・・・」
胸に押し付けられた凛の頬から体温を感じて、包み込む腕に力を込めた。
「あれ?」
抱きしめた手のひらの濡れた感触に隆弘は声をもらした。
「あ・・・さっきから雪が散らついてて・・・・・・」
抱きしめた腕をほどき良く見るとジーンズの裾が少し濡れている。フードを外して触れた髪は少し湿っていた。
「ご、ごめんなさい!隆弘さん濡れちゃったんじゃ・・・」
感情に任せて濡れたまま抱きついてしまったことを悔やむように水滴で色が変わった隆弘のトレーナーを、ポケットから取り出したハンカチで慌てて拭おうとする凛を、大丈夫だと遮る。
それよりも今の今まで雪に降られていた凛の方が肝心だ。
「とにかくコート脱いで」
凛を玄関に残して奥へ引っ込むと、タオルとパジャマを手渡し代わりにコートと荷物を受け取った。
「熱いシャワー浴びて身体あったかくして。ちゃんとお湯ためて肩まで浸かってくるんだよ」
隆弘は戸惑う凛をバスルームに押し込んだ。
















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