inspiration







その25






「ど、どうして・・・・・・?」
やっと問いかけの言葉が口をつく。
もう何が何だかわからない。
幸太郎は何をしたいのか。
陽人に何を求めているのか。
「どうして・・・?どうして幸太郎さんはここに来たの?どうして手袋のことを知ってるの?」
最初は呟くような小さな声だったが、陽人は自分の感情を抑えることができなかった。どんどん声が大きくなる。
「なぁ、どうしてなんだよ!どうして・・・どうしておれを引きとめるんだよ!!!」
最後は敬語ではなくなっていた。
しかし当の陽人はそのことに気づいていない。
「陽人くんはそういう話し方もできるんだね」
逆に幸太郎はいたって冷静だった。
「じゃあ、おれからも聞く。どうしておれを避けるようになったんだ?そのくせどうしてその手袋を大事そうに持ってるんだ?」
陽人を見下ろす幸太郎の視線は詰問するかのように鋭かった。
「それに・・・どうしてこの間のライブ、ヒロのフリをしてたんだ?」
最後の問いに、熱くなっていた陽人の感情が急激に冷めていった。
そうか、それが聞きたかったのか、と陽人は悟った。
今まで幸太郎も啓人も何も言わなかったことの方がおかしかったのだ。
ライブの後しばらくは、バレてしまった時の返答を毎日考えていた。
しかし問い詰められることはなく、そのうちふたりと接することもなくなり、いつバレるのかビクビクはしていたものの、このままうやむやになるのではないかと少し安心してしまい、今日という日を迎えたのだ。
だから突然の問い詰めに陽人は黙り込むしかなかった。
どう答えればいいというのだろう。
押し黙る陽人に幸太郎は詰め寄る。
「君とヒロは双子だ。双子でも年齢を重ねれば個性も出て自ずと違う部分が出てくるんだろう。だけど君たちの外見はクローンのようにそっくりだ。中身は全く違うけどね」
その言葉がズキリと突き刺さる。
以前にも同じことを言われたことがあった。
そう、一緒にお茶をしたあの日。
次々といろんな人の声が陽人の頭の中にこだまする。
両親、親戚、友達、先生、杉島・・・・・・
みんな同じことを口にする。
『外見はそっくりだ。中身は違うけれど』
それが啓人を肯定し陽人を否定しているというのは、小さい頃から感じていたし、もう慣れてしまった。
傷ついたこともあったけれど、事実だし誰も間違ったことは言っていない。
そのうち笑って流せるようになった。
『そうですね』なんて言いながら。
だから大丈夫。
こんなことで傷ついたりしない。
そこにどんな想いがあったとしても、啓人のフリをしたのは事実だ。
どんなことを言われても陽人に反論する権利はない。
幸太郎の言葉を全部受け止めようと、陽人は喉をぐっと締め付けた。
「なぜ黙ってるんだ?ヒロはあの日高熱を出して寝込んでたんだよな?ヒロは君に代わりにライブに行ってくれと頼んだ。だけど自分のフリをしろなんて言ってはいないはずだ。それなのに君はおれの前にヒロとして現れた」
そこで幸太郎は言葉を切り、そしてゆっくりと言った。
「なぜなんだ?どうして君はそんなことをしたんだ?」
陽人は答えなかった。俯いて、足元に落ちていた吸殻を見つめたまま、沈黙を守った。
「そうか。おれをからかっただけなんだな」
大きなため息が聞こえた。
「ヒロに聞いたことがあるよ。小さい頃、君たちはたまに入れ替わって遊んでいたそうじゃないか。けしかけるのはいつもヒロの方で君は乗り気じゃなかったみたいだけど、遊びが始まってしまうと君は見事にヒロに成りすますんだってね」
空気の動きを感じ、陽人は身体をすくめた。
「おもしろかったか?ヒロだと思い込んでるオレを見て楽しかったか?バカなヤツだと心の中でずっと笑ってたのか?」
「違う!!!」
思わず陽人は叫んでいた。
人を騙くらかして笑いものにした最低の人間だと誤解されたままの方がいいに決まってるのに、陽人は聞いていられなくなってしまったのだ。
「違う・・・違うんです・・・・・・」
思考とは裏腹に誤解を解こうと激しく首を左右に振りながら、陽人は否定の言葉を繰り返した。












戻る 次へ ノベルズ TOP TOP