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その10






楽しそうに肩を並べて歩いて行くふたりを見送っていると、ふと視線を感じ、陽人は視線を戻した。
音が聞こえそうなほどバチリと杉島と目が合い、慌てて足元に視線を落としたが、杉島がまだこちらを見ているのを感じて陽人は戸惑いを隠せない。
不自然だっただろうか・・・・・・
その場を取り付くような会話も見つけられず、陽人はただ俯いていた。
今日杉島と一緒に過ごしてみて、第一印象と同じく苦手意識を拭うことはできなかった。
もともと人見知りで他人と上手く付き合えない陽人から話しかけるなんてとんでもないことだったし、杉島も口数の多いほうではないらしく、ふたりの間に会話らしい会話は全くない。
それでも、ふたりをくっつけようという魂胆が見え見えの啓人のおかげで、そばにいる時間は多かった。
啓人は幸太郎にくっつっきっぱなしなのだから、必然的に残されたふたりが一緒に行動せざるを得ない。
馴れ馴れしい男は苦手だが、自分に全くといって興味のない男と一緒にいるのも苦痛である。
おそらく杉島は、陽人のことをクソ面白くないつまらない男だと思っているだろう。
啓人への態度とは全く違う杉島の態度からして、もともと好意を持たれているとは思えなかっただけに、杉島とふたり残された陽人は、この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
ここが知った街中だったら、何かと理由をつけて早々と退散するのに、右も左もわからない山中では逃げ場もない。
ザクッと小石を踏む音に陽人が顔を上げれば、杉島が車に向かって歩いていくところだった。
「おれ、手伝います」
会話するでもなく、ボーっとしているわけにはいかないと声をかけてみるが、杉島は聞こえないのかすたすたと先を歩いてゆく。
陽人は小走りに駆け寄った。
「あの、おれも、手伝います」
今度は少し大きめの声で話しかけると、杉島は無言で車のトランクから取り出したダンボールを陽人に手渡した。
「これ、あっちに持ってけ」
相変わらずの無愛想な表情に、陽人は言われたとおりにダンボールを運んだ。
やっぱり自分は好かれてはいないらしい。
そう思うと今度は申し訳ない気持ちが膨らんでくる。
ダンボールを胸に抱え、トボトボ歩きながら陽人は思う。
啓人に双子の兄を紹介すると言われ、杉島なりに期待をしていたのかもしれない。
学校でも人気者の啓人。
小さいころから、会う人すべてに愛されてきた啓人。
杉島も啓人のことはかなり気に入っているようだった。
その双子の兄とくれば、それなりに期待もするだろう。
しかし、やってきたのは、無口で気の利いた会話もできない、ただ啓人と顔が同じだけの男。
杉島が落胆しても仕方がない。
待ち合わせ場所でのほんの少しの会話と雰囲気で、陽人の性格を見抜いたのだろう。
だから最初に釘をさすかのように、ふたりの邪魔はしないでおこうと、杉島は言ったのだ。
今日の自分たちは、啓人と幸太郎の付き添いでしかないのだという意味も含めて。
杉島は戻ってこない。
啓人や幸太郎の手前、今までは陽人の相手をしてくれたが、ふたりがいないときくらい解放されたいのだろう。
陽人は時計を見た。
おそらく、啓人たちが帰ってきたら、釣れた魚を焼いて食べて、そうこうしているうちに帰りの時間になりそうだ。
それなら、ふたりが帰ってきたら、何か理由をつけてみんなから少し離れようと、陽人は決めた。
啓人と幸太郎となら、杉島も心から楽しめるに違いない。せっかくこんな遠くまで運転して連れてきてくれたのだ。少しでも楽しんでほしい。啓人たちには悪いけれど、ふたりはもう存分に楽しんだろうし、明日も明後日もその先にもふたりの時間はたっぷりあるのだから。
決めてしまうと、ほんの少しだけ心が軽くなった。











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