christmas serenade






<side TAKAHIRO>
その11








凛からは、一度だけ『好き』という言葉を聞いているが、それがどういう『好き』なのか、もちろん凛に聞けるわけもなく、隆弘を悩ましていた。
自分の気持ちが恋だと気付いてから、隆弘はずっと考えていた。
もし凛が隆弘を本当の気持ちを知ったなら、どう思うだろうと。
凛の『好き』と隆弘の『好き』の意味が別物なら、気持ちを伝えた時点で終わってしまうかもしれないのだ。
だけど、隆弘には抑える余裕がもはやなかった。
ふたりでツリーを見て、ロマンティックな感情にまだ支配されているのかもしれない。
イブの夜という、恋人同士のために用意されたような夜の雰囲気に飲まれているのかもしれない。
隆弘は凛に恋しているけれど、凛が隆弘をどう思っているのかわからない。
でも、そんなことは関係なかった。
どんなに隆弘が気持ちを隠していても、凛に会うたびに大きくなる一方のこの恋情をいつまで抑えていられるか、自信がなかったし、人の感情に対して敏感な凛に気付かれてしまうかもしれない。
それなら、この想いがもっと大きくならないうちに、玉砕するならしてしまったほうがいいという保身の気持ちと、万が一同じ気持ちだったなら、堂々と凛を幸せな気持ちにしてやることができるという期待の気持ちが複雑に絡み合い、隆弘を突き動かしたのだ。
「あ、あの・・・」
明らかに戸惑いを見せる凛に、隆弘はもう一度告白する。
「おれは、凛くんが好きだ」
真っ直ぐ見つめて、真摯な思いを伝えると、凛の大きな瞳が揺れているのが見てとれた。
「それは・・・どういう・・・・・・」
「こういう意味だ」
隆弘はふたりを隔てていた小さなコタツを脇に寄せると、凛の腕を掴んで引っ張り抱き寄せた。
「かっ、川上さんっ」
突然抱き締められて身体を硬くした凛に構わずギュッと腕に力を込めて抱き締めた。
何度も想像したとおり、凛の身体は細く小さくて、隆弘の胸にすっぽりおさまってしまったけれど、その感触に丸みはなく骨張っていて、自分と同じ男性であることを主張していたが、隆弘には愛しい以外の何の感情も湧かなかった。
「おれは、こういうことをしたいと思えるくらいに、凛くんが好きなんだ」
実年齢より少しコドモっぽく見える外観とは裏腹に体温が低いのか、暖房の効いた部屋で抱きしめると、ひんやり心地よい。やんわり髪にふれてみると、ピクリと身体を震わせたのを感じたが、躊躇わずにその髪を指先で梳いてやる。
指通りがよくさらさらの髪は真っ直ぐで、いまどきの若者には珍しく真っ黒だ。
「もし、おれの気持ちを迷惑だと思うのなら、すぐにおれを突き飛ばしてくれ。そしたらおれは何も言わずに帰るから。もう会いたくないなら店にも行かないようにする。今までと同じようにただの歳の離れた友人として付き合いたいのなら、少しばかり時間がかかるかも知れないけど、そうなるように努力するから」
隆弘は審判を待つ罪人のように目を閉じた。
もうこの手に抱くことができないかもしれないから、少しでも長く、全身で凛のぬくもりを感じていたかった。






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