8万打記念

グリーングリーン




side mikami




「三上っ!」
呼ばれた方向を振り向けば、成瀬と片岡さんが近づいてきた。
「おれたちあっちのベンチで―――あれ?まりかちゃんたち、どうしたの?」
「わたしたち、シロクマじゃなくて、もっと向こうのゾウとか描きたいなって」
「あ、そうなの?ま、みんなが同じ動物描いても面白くないもんね」
「でね、三上さんにお願いしてたの」
まりかというらしい女の子が他の女の子たちに同意を求めると、みんながそれに頷いた。
「じゃあ、三上は女の子班担当な」
ポンと肩を叩かれおれは面食らった。
おれが?なんで???
そもそもおれが今日の計画に乗ったのは、もちろん学食1週間分に報酬に目がくらんだわけだが、それだけではない。
夏前におれと優、成瀬と片岡さんで温泉旅行に出かけて以来、優は何かにつけて成瀬と片岡さんのことを話題にするようになった。
よっぽど楽しかったらしく、また四人で出かけたいねって笑顔でおれに話してくれる。

優はさほど社交的な性格ではない。
誰とでも卒なく接することはできるけれども、心から打ち解けるには相当の時間を要するらしいことは、おれも気付いていた。

それが驚くことに、成瀬たちとはすぐに打ち解けることができたのだ。
おそらく面倒見のいい成瀬の性格にも寄与するところが大きいのだろうが。
だから、優を連れ出したのだ。
ガキどもも一緒だということを黙っていたのは、優がしり込みしてしまう恐れがあったから。
優が小さいコドモが得意でないってことに、なんとなく気付いていたから。
どうせ成瀬たちが弟も含めてガキどもの面倒を見るだろうと鷹をくくっていたから、おれは優とのんびり動物たちを見てまわって楽しもうと思っていた。
ガキどもを満足させて見送った後、4人で食事でもできればいいと思っていた。

それなのにフタを開けてみれば、片岡さんはまるでコドモたちに関心がなくそ知らぬふり。
成瀬に寄り付くのは当たり前だが、その分お鉢がおれにまで回ってきたのだ。
電車に乗りこんだ途端、ガキたちに引っ張られ、その手を邪険に払うこともできず、成瀬と一緒に空いてる席に座ることになった。
優が気になったけれど、優の苦手なガキたちに囲まれることになるのがわかっているから呼び寄せることもできず、どうしたものかと困っていたら、片岡先生と少し離れた席に落ち着いたのが見えてひとまずホッとした。
うるさいだけのガキは嫌いだが、成瀬の弟の陸といい、他のコたちもそれなりにちゃんとしつけられているようで、不快感は全くなかった。
自分が小さい頃、どこにも連れて行ってもらえなくて、ほとんどを家の中で過ごしていたからか、楽しそうにはしゃぐガキどもを見ているのは結構楽しいものだった。
コドモなりにきちんとその辺の判断力は持っているようで、おれがあまり乗り気じゃない表情を浮かべていても、本心から嫌がってはいないことがわかるのか、めげることなくひっついてくる。
だけどやっぱり気になるのは優のことで。
今回の目的はコドモたちが絵を描くことだと聞いていたから、動物園に着いたらおのおの好きな場所でスケッチを始めるのだろうと思っていたのだ。
そしたら当初の予定通り、優と青空の下、まったりとした時間を過ごそうと、ほくそえんでいたのに。
「ねぇねぇ、早く行きましょうよ!」
まりかに手を引っ張られ、他の女の子に背中を押された。
「三上ってば年齢問わずモテるよなぁ。おれなんか女の子の扱い方なんて全然わかんねぇよ。三上呼んで正解だったわ」
「ばっ、なっ、成瀬っ!」
はははと笑う成瀬を睨んでみても、全然おかまいなし。
「じゃあ、三上、お願いするわ。このコたち」
「わ〜い!じゃあ早く行こうよ!」
キャッキャと声をあげるコドモたちの楽しそうな顔を見せられては、さすがに嫌とは言えなくなる。
せっかくなのだから、みんなが楽しく過ごしたほうがいいに決まっているのだから。
おれは別にかまわない。
それなりにかわいいコたちばかりだし、どちらかというと男の子よりも女の子のほうが扱いやすい。

だけど・・・優が嫌がるだろ?
優が慣れているのは陸くんだけで、せっかくのんびりしに来たのに気を張ってばかりじゃ疲れるばかりだ。
成瀬たちはベンチに座って眺めているだけでよさそうだけれど、これまでの展開からしても話好きの女の子たちはおれを放っておいてくれそうにない。
そこそこ相手をしてやらないといけないだろう。

優は周りに無理してでも合わせようとするだろうから、きっとのんびりしてられないに違いない。
「優・・・」
おれは優を呼んだ。







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