8万打記念

グリーングリーン




side kataoka




「うっわ〜かわいい〜〜〜」
「キモチよさそうだよなぁ」
夏恒例となっているシロクマへの氷のプレゼントタイムと重なり、コドモたちは歓声を上げ、氷にじゃれつくシロクマに釘付けになっている。
「はぁ〜やっと解放された・・・」
年寄りくさく肩を揉みながら一息つく成瀬に「お疲れ」と声をかけてやる。
「ほんと、お疲れ・・・てか、アンタ、何気に無視してんじゃねえよ!おかげで一人当たりのコドモの数が増えてるっつうの!一体なんでアンタ誘ったと思ってんだよ!全く・・・・・・」
ブツブツ文句を並べ立てる成瀬におれは苦笑を漏らした。
「な、何笑ってんだよ!」
「いや、よく相手してられるなと思ってな」
「お、おれだって好きでやってるわけじゃねえよ!陸に頼まれて仕方なくだな―――」
「その割には結構楽しそうだったけど?」
「そんなことっ―――」
何だかんだ言ったって、成瀬が弟を、特に末っ子の陸くんを可愛がっていることは知っているし、かなりのコドモ好きだってことは見ていればわかる。
それにコドモのあしらい方も堂に入っている。
逆におれは、コドモはどちらかといえば苦手だし、面倒見の良い性格でもない。
おそらくコドモたちもそれを感じるのか、顔を合わせたときには何かと寄ってきたのだが、おれのそっけない態度を感じるや否や、全く寄り付かなくなった。
陸くん以外は。
コドモってのはそのあたりの嗅覚が利くのだろう。

教師という職業についてはいるが、おれには同じ教師でも絶対小学校の教師は無理だと思う。
高校生だってもてあまし気味なのだ。
持っていれば役に立つこともあるだろうと安易な気持ちで教員免許を取得し、食いっぱぐれることはないだろうと教師という職業に就いたただけで、教師になりたての頃、どうしてこんな職業についてしまったのかと後悔したこともあったが、今では採用してくれた学校に感謝している。
もちろん、教職にやりがいを見出したわけじゃなく、成瀬に出会えたことにだが。
「いいんじゃないの?」
「何が?」
「あのコたち楽しそうだし。それにおまえがちゃんとみんなの面倒みてやることで、陸くんだってきっと誇らしい気持ちになるだろう。ほら、せっかくなのにいかにも面倒くせえみたいな顔してちゃ、陸くんだって気分よくないだろうし。おまえのこと、自慢のアニキだって思ってるんだから」
「な、何恥ずかしいこと言ってんだよ、アンタは・・・」
うろたえる成瀬がかわいくて抱きしめたくなったが、そんなことしようものならパンチが飛んできそうなのでグッと堪えた。
そして、おれ自身も、成瀬の面倒見の良さには頭が下がる思いだ。
おれと一緒に暮らすようになっても、きちんと弟たちの面倒をみて、弟たちにも信頼されている。
そんな成瀬を好きになったのだし、そんな成瀬を見ていられるのは幸せなことだ。
だから、成瀬に誘われるままに、今日ついてきたのだ。
ま、陸くんへの点数稼ぎってのもあるんだけど。
ザッブーンという大きな水音とともに、一段と大きな歓声が上がり、観客の輪がパラパラと散り始める。
「にいちゃ〜ん、ぼくたち、ここでシロクマを描くことにする!」
「おまえ、ライオンとかトラとか描きたいんじゃなかったのか?」
「いいの!シロクマが気に入ったんだから!」
陸くんと数人のコドモが木陰にシートを敷いて座り込むのを見て、成瀬がおれの腕を引っ張った。
「じゃあ、兄ちゃんたち、あっちのベンチにいるから。勝手にうろうろするんじゃないぞ!」
は〜いという元気な返事が返ってきたのに成瀬は頷き、おれをベンチへと誘導しようとしたとき、視界に三上くんたちが目に入った。






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