2周年&20万打記念
ふたり×2



        第三話









「あ、あれ・・・・・・?」
醒して最初に目に飛び込んできたのは、蜂蜜色の世界。
ほどよく落とされた照明は目に優しく、ゆっくりと意識が戻ってきて次に目にしたのは、大きなガラスに映った自分の姿だった。
ゆっくり見回して、そしてここが露天風呂続きの洋室であることに気づく。
「なんだ・・・・・・?」
確かみんなで食事をしていたはず。初めて飲んだ日本酒が口にあったのか、もともといけるくちだったのかはわからないが、知らず知らずに杯を重ねていたようで、途中からぼんやりとしか記憶にない。
満腹感とふわふわした高揚感が心地よくて、ごろんと横になったのまでは覚えているのだが。
(つうか、おれ、あっちの部屋で寝るっつってなかったっけな)
そう、確かそうだったはず。
片岡が、過去のあれこれを匂わせることを言ったのだ。成瀬がそういうのに敏感だと知っているくせに。
いちいち気を揉んでも仕方がないと成瀬もわかっているのだが、やはり気持ちのいいものではない。
だから少しばかりの仕返しのつもりで、意地悪いことを言い放ってやったのだ。
おそらく片岡もからかっているつもりなのだろう、そう想像はできたが、すんなり流してしまうのも悔しくて、その後もしばらく片岡に対して冷ややかな態度を取っていた。
しかし、おいしいものを食べて気持ちよく寝てしまったら、そんな気持ちはすっかりどこかへと吹っ飛んでいた。
考えてみたら実につまらない。子どもじみた自分の態度が恥ずかしくさえ思えた。いったい何時なんだろうとベッドサイドの時計を見ると、深夜の3時近くになっていた。単純計算でも5時間は眠っていたことになる。
を飲んだわりには気分も悪くないが、冷房のタイマーが切れたのか、まとわりつく空気が生温く、肌にもじっとり汗がにじんでいた。

そして思い出した。この部屋に立派な露天風呂が備わっていたことに。
「風呂でも入ろ」
ひとりごちて、風呂に入る用意がないことに気づく。着替えはかばんの中。そしてそのかばんは和室の隅に置かれている。
浴衣も着替えたい。確か浴衣の替えも和室に用意されていたはず。
成瀬は静かに洋室をでて和室へと向かい、襖を引こうとした成瀬の手が止まった。
(えっ・・・・・・?)















『やっ・・・・も・・・・・・』
『やじゃないだろ・・・?気持ちいいはずだよ。優のカラダ、ちゃんと喜んでる・・・』
『だって、も、我慢できなくなっちゃ・・・・・・』
『どうして我慢するの?気持ちいいの、我慢しないで?』
『や、聞こえちゃ、アッ・・・・ぁ・・・・・・』
『大丈夫、聞こえないから・・・イイだろ・・・・?』
『ん・・・・・・好き・・・ソコ好き・・・・・・・』
『ココだけ?好きなのはココだけか?』
『ちがっ、好き・・・全部好き・・・・・・先輩も好き・・・・だいす・・・・やっ・・・・・・』















聞こえてくるのは、普段からは想像もできないくらい艶っぽい優の声と優しい三上の声。
中で何が行われているのか、誰だってわかるだろう。
(三上と優くんって・・・そういう関係だったのか・・・?)
今さらである。
だが成瀬には衝撃だった。自分だって同性と付き合っているが、まさかこんな近くにご同類がいたなんて。
しかも、あのふたりが!!!
考えてみれば、いくら同じ高校の先輩後輩だからって一緒に暮らしてるのは不自然だ。しかも三上は優の家に居候状態。
(おれが鈍感なだけなのか)
果たして片岡は気付いているのだろうか。
気付いていないわけがない。あの聡い片岡が。
(ってことはマヌケはオレだけ・・・?)
確かに、成瀬が優とスキンシップを図っていると、三上の強い視線を感じることがあった。
それがなんとなく面白くて、幾度となく成瀬はわざと優に過剰なスキンシップをとることがあった。
それが嫉妬だったのだと、成瀬は初めて気付いたのだ。
襖の向こうの濃密な恋人同士の時間。
静けさの中で響くのは、交わされる睦言と布擦れの音だけ。















『や・・・ぁ・・・』
『優、かわいい・・・ほんとかわいい・・・・・・』
『う・・・そ・・・こ、こんな、ドロドロなのにっ・・・』
『感じてる証拠だろ?ほら、もっと・・・もっとオレを感じて・・・・・・』
『ヤッ、そ、そんなっ・・・だ、だめ・・・アッ、アッ・・・・・・・』
















どんどん激しくなるふたりの声に、成瀬はゴクンと唾を飲み込んだ。
大学でもモテまくっている三上。悔しいことにかなりの高ランクだと認めざるを得ない。
さほど愛想が良いわけでもなく、どちらかといえばストイックに見え、いつも涼しげな表情をしている三上。
逆に男にしておくのはもったいないくらい、可愛い顔立ちの優。
優しさと清楚さ、それに加えて時折見られる芯の強さを合わせ持っているその人柄は、今どき珍しいくらいに素直で好感度も抜群だ。
そんなふたりのセックスライフ。
いったいどんな顔して愛を交わしているのだろう。
ダメだと思いつつも、高まる好奇心には勝てず、ほんの少しだけ、ほんの少しだけだからと、襖に手をかけた時だった。
「ひゃっ・・・んんっ・・・・・・」
後ろから伸びてきた手に驚き声を上げそうになるのを、大きな手のひらに塞がれた。






 





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